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レガシー産業の遺産を発掘して、未来の産業を作る考古学者rev.2  [山田まさよし]

【はじめに】

山田は考古学者だ。
だが山田が発掘するのは遺跡ではない。
産業、それもレガシーな体質が色濃く残る産業の慣習や慣例だ。

最初に発掘したのは物流業界だ。山田は仲間と一緒に、誰もがその日から倉庫会社や物流会社を使える仕組みを創り出した。そして今、山田は出版業界の発掘を始めている。

【インタビュー】
―考古学者なんですか?―

はい。そうです(笑)。
大学で考古学を専攻しまして、遺跡の発掘をしていました。
研究していたのは縄文時代で、土器や集落の研究をやっていたんです。
大学を出たあとは、博物館の学芸員を経て国際協力機構(JICA)の海外ボランティアに参加するんですが、ブラジルに派遣されまして、日系移民の博物館を作りました。

―職種は考古学者―

帰国後は、博物館に戻らずにメーカーや物流会社を経てスタートアップ業界(いわゆるベンチャー企業)に行くのですが、どの仕事に対しても自分のアプローチ方法に大きな変化が無い事に気が付きました。
物流ベンチャーにいる時に気が付いたんです。
あ、やっているのは「考古学」だって。(笑)

土器の研究なんかだと、模様の変化や違いから地域の繋がりや時代の変化を調べます。図面や写真も使って目の前の物を情報に変える作業をしてゆきます。
つまり、目の前で見ているものを過去に遡って考える。同じことが起きていないか他の地域を見てみる。つまり時間的変化や地域的変化を明らかにして、その理由を考えてゆく。それには図面からデータを起こして数値化したり、統計処理をしたりもする。

その流れで製造業や物流業、どちらに携わっている時も、品質問題や納期遅れなどの事故が起これば、時間を遡ってプロセスを考えました。良品と不良品のデータを取って数値を比較する。アプローチ方法に悩んだら他の会社や業界を調べてみる。特に製造業から物流業へ移った時には、製造業で培った「考古学的アプローチ」が非常に有効でした。これは嬉しかった。
考古学って役に立つのねと実感できた。

考古学が学際的な学問で地質学や生物学、農学等の研究者が参加していたので、他の産業の事例を調べるのに抵抗感が無かったですね。

―そして山田はどこにいるのか?ー

今の職場は出版物流の倉庫会社です。一言で言えば、「本の倉庫」ですね。出版社から本を預かって取次会社へ発送したり、書店から戻ってきた本にヤスリ掛けやカバー交換をして綺麗にする仕事をしている会社です。

その他に、出版社から預かった本を直接読者に発送する、いわゆる「直販」という仕事もしています。今で言えば「B to C」の物流です。この点は出版物流倉庫の中では珍しい特徴ですね。
そのノウハウを活かして10年位前から本以外のネット通販の発送業務等もしています。

そして最も大きな特徴は、出版社からコンテンツデータをお預かりして自社で印刷・製本して読者に発送する「プリントオンデマンド」サービスを提供している事です。

このサービスを始めた背景は俗に言われる「出版不況」です。倉庫で預かる本が減少して仕事が無くなるんじゃないかという危機感がありました。そして現在は出版社さんやECサイトのオンデマンドサービスを裏からお手伝いしています。
そういう会社の新規事業準備室的な部署にいて、新しい事業の準備を進めています。

―漫画家から相談が来たー

そんな状況で、とある漫画家さんから相談がありました。
「連載を打ち切られてしまったのですが、この作品の続きを描きたいと思っています。製作資金を集めたいのですが、何か良い方法はないでしょうか?」
その作品は単行本も2巻目まで大手出版社から発売されていますが、連載された分が全て単行本化されなかった。そこでその漫画家さんは自費で第3巻を出版しました。
第3巻の出版にはファンコミュニティがSNSでもリアルな場でも作者を支えている姿がありました。関西では学校図書に採用される動きも出ています。しかし出版社からの支援は無いという現実がありました。

―出版社からも相談がきたー

そして同じタイミングで大手出版社さんからも相談が持ち込まれました。
いただいたお話は「印刷会社で保管している昔の(作品の)印刷フィルムをデジタル化したいと考えている。資金も含めて相談したい。」というものでした。

「フィルム」とは本を印刷するときの「版」です。印刷機がデジタル化する前は、印刷データをフィルムに焼き付けて、それで本の印刷をしていました。

つまり昔の本は全て「フィルム」を使って印刷していたんです。だから昔の本を復刊しようとすれば、そのフィルムを使わなくちゃいけない。でも今の印刷機ではデジタルデータしか受け付けてくれないから、フィルムをスキャンしてデジタルデータにする必要がある。

じゃあ、「スキャンすればいいじゃないか」と思われるかも知れませんが、そこにも壁があるんです。スキャンしてデジタルデータにしても、その本が売れなければ費用倒れになってしまうんです。だからリスクを負って昔の作品を重版しようとはならないのです。これが絶版本が生まれる大きな理由の一つです。

―クリエーターと出版社、そして読者の幸福の形ー

漫画家さんから来た相談と出版社から来た相談を社内で検討してみました。
どちらもコンテンツの相談で、未来のコンテンツと過去のコンテンツの相談です。そして読むのは未来の読者です。

作家は良いコンテンツを創りたい。出版社も良いコンテンツを読者に届けたい。そして読者は良いコンテンツを楽しみたい。コンテンツの幸せな循環がうまくいっていないと思いました。「想い」はみんな一緒なのに。

―出版業界の遺産とは?ー

そういう想いを頭にめぐらせながら、漫画家さんの相談をさらに考えてみました。この漫画家さんにはファンもいるし、マーケットもあります。しかし作品は出版社からは世に出ない。
なぜなのか? 出版業界の慣習や慣例を調査する事にしました。
自分的には考古学の発掘作業ですね(笑)。

調べてみると作家は作品を出版する時に出版社と契約を結ぶのですが、多くの場合は他の出版社からその作品を自由に出版できない契約になっていました。
つまり出版社の了解がないと作品を売り出すマーケットを作者が自由に選べないといった事が起きていたのです。

もっともこれには法律的な理由もあって、出版社を一方的に責める事も出来ない。その理由とは、作品の出版を手掛けた出版社には法的な権利が認められていないからです。放送局やレコード会社には一定の権利が認められているのですが、出版社にはそれが無い。

だから出版社が作品の権利を契約で押さえて、作家は自由に自分の作品を使う事が出来ない状況が生まれてしまっている。

―作品が自由に使えるプラットフォームを作るー

じゃあどうすれば良いのか?
それには出版契約を一定の部数や期間で限定した契約に変更して、基本的に作家やエージェントが主体的に作品のマネジメントを出来る環境を作るべきだと考えています。その環境とは著作権のマーケットプレイス・プラットフォームです。

このプラットフォームでは、作品の契約状況を知ることが出来て、利用契約を結ぶ事ができます。この仕組みによって作品の利用が促進されて行くと考えています。
そしてこのマーケットプレイスが利用されて行くのに必要な事があります。それは確実な契約の実行です。特に金銭の支払いの部分です。これを担保して行かないと誰も怖くて利用できません。

そこでブロックチェーンシステムを導入して一定の条件で契約が強制的に実行される仕組みを構築します。つまり絶対に支払いを逃れられない枠組みの導入です。
こうすれば海外からの引き合いに対しても安心して契約をする事ができる。日本ではヒットしなかったコンテンツも海外へ出てゆくハードルが下がります。

また出版社を変更する場合にも、最初に作品を世に出した出版社に作品から生み出される収益を継続的に分配するといった事が可能になる。もっと言えば、装丁家やデザイナーといった人たちにも継続的な作品の利益分配を行う事ができます。

―マーケットプレイスの先は?―

このマーケットプレイスでは新しく生み出される作品での利用ももちろん想定していますが、絶版になっている昔のヒット作品での活用にも有用だと考えています。実績がある作品の方が、マーケットの分析や予算が組みやすいので。特に漫画は有望なコンテンツだと考えています。

そしてそれだけでは、コンテンツを生み出す環境が整うとは考えていません。
現在の出版社は作品製作に時間と資金を十分に投資できない環境にあり、外部からの資金とマネジメントを必要としています。

この問題については、著作権マーケットプレイスの先の展開を見据えながら、出版業界の「発掘」と「仮説」の検証を進めています。その「発掘成果」と「仮説」については、改めて発表したいと考えています。

いずれにしても、コンテンツの未来には、クリエーター、出版社、編集者、印刷会社、読者など作品に関わる全ての人の協力が必要です。

―良いコンテンツは何を生み出すのか?―

良いコンテンツがたくさん世の中に出て、待っている人たちに確実に届いてコンテンツから幸せを受け取る。作品に関わった作家、デザイナー、装丁家、編集者みんながコンテンツ制作で継続的に生計をたてて行ける。良いコンテンツはそれを実現する力があると思っています。
それを実現したい。みんなが幸せになる未来のコンテンツ産業を。

【まとめ】

考古学者は大学や博物館にいるものと思っていたが、そのフィールドを飛び出している人がいた。産業界で活動する山田を見ていると、考古学は未来を拓く学問であると思えた。今後の山田の「発掘」成果に期待したい。

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