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生え際

妊娠がわかってから、毛染めをしていない。
つわりによる匂いのしんどさや、ホルモンバランスの乱れによる敏感な肌のせいだ。

私はある日突然、超早産で超低出生体重児を生んだ。新しく生えてきた頭髪の黒い部分は、想定していたものより短いものとなった。

出産を終え、体調が戻ってきたので、仕事復帰を控えて久しぶりに毛染めをしようかなと鏡を見た。
以前はひと月に一回は染めていたので、妊娠中の半年間一度も染めなかった私の頭は見たこともないほどカラメルたっぷりのプリンになっている。
でも、やはり、カラメルは短い。
予定の半分なのである。

白髪も目立つ年頃である。店頭に立つ仕事なので見た目にはそれなりに気をつかうが、その日はなぜか染める気になれなかった。
産休中、そうして毎日ホットペッパービューティーを開いては閉じるを繰り返した。

子どもは現在NICU(新生児集中治療室)に入り、日々命にも関わるようなトラブルと戦いながら成長している。
もっと胎内にいれば避けられたであろうトラブルの数々。カラメルの短さがその発育途上を物語る。

物言えぬ子どもは頑張ってここまで命を繋いでいる。

ごめんね…

泣いても謝っても彼が良くなるわけではない。
今私が彼にできることは、ただひたすら栄養をとり、母乳を出して病院に届けること。
たったひとつ。
手の出せないもどかしさが日々重なっていく。
カラメルが伸びることでさらに命の糸が繋がるような気がして、未だ私の生え際は黒と白が散らかっている。

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