ホラー以外のすべての映画(3) 錯覚の共有


 闇を縫って訪ねてきた「肉屋」の男の顔が自宅の窓に浮かび上がるのを目撃した女教師との視界の共有を強いられた観客は、男の顔に被さるように窓の表面に映し出された彼女自身の真っ赤なドレスを一つの染みのようなものとして認めざるをえない。自分が好意を寄せつつある男は、このトレモロの村を騒がす連続殺人事件の犯人かもしれない。いや、この殺人事件の容疑者らしき男を自分に惚れようとしているのかもしれない。一見矛盾するかに見える二つの疑いに「引き裂かれた女」の目に映るたった一つの事件現場に立ち会うとき、われわれもまたかつて提示した二つの問いの回答へ一歩近づく。

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