共和党がつくった化け物、トランプは放っておけば党を喰い殺す

元記事:https://www.washingtonpost.com/opinions/trump-is-the-gops-frankenstein-monster-now-hes-strong-enough-to-destroy-the-party/2016/02/25/3e443f28-dbc1-11e5-925f-1d10062cc82d_story.html?postshare=9551456558583074&tid=ss_tw

WRITER:ROBERT KAGAN

テーバイに伝染病が広まったとき、オイディプスは義理の弟、クレオーンを原因究明のためにデルポイの信託に送りました。テーバイが自分自身の犯した罪の所為で罰を受けているなんて彼は少しも気づいていませんでした。今日、共和党は我々にとってのデルポイの役割を果たすでしょう。伝染病は党内に、アメリカ政治史上最も猛威を振るったペテンのデマゴーグの姿で現れました。党は必死に原因究明を、対処方法を求めながら、ちょうどオイディプスのように大事なことに気づいていません。ある意味では今回の伝染病は自業自得なのです。共和党自身の政治に関する功罪がギリシャ悲劇のような自然の摂理みたいなものによって罰せられています。

詳細を見ていきましょう。トランプの快進撃はまぐれではありません。だから、彼は共和党を乗っとっているわけでも、保守の活動を誑かしているわけでもありません。むしろ彼は党の創造力を担っています。まるで人工の怪物、フランケンシュタインです。彼は共和党に政治生命を、餌を与えられ、今や生みの親を殺そうとする勢いを得ています。これはこの党が大統領の政策妨害をやりすぎた結果ではないでしょうか。つまり、共和党は何度も政府が政策を行使できない状態に陥れ、法案を否決し、最高裁の判決を何度も無効化し、妨害の妥協は党への不誠実だと主張し続け、解体作業に加わることを拒む党の上層部と内部対立してきました。その所為で共和党支持の有権者層は、政府を、憲法を、政治の伝統を、共和党の指導者と共和党自体さえ見限り、相手にせず、侮辱し、笑い者にするようになったのではないでしょうか。そのなかでも、現状にこういった印象を持ちながらも自分たちの中でも特に無礼な人間に道を開いたのはテッド・クルーズ上院議員(テキサス)ではないでしょうか。だから今や、これは冗談にならない冗談のようなものですが、クルーズは他の共和党員たちと一緒にアナーキーな革命思想から主義信条上の影響をあまり受けないより純粋な自分像へと堕ちていくにちがいありません。これが自らを飲み込む最初の改革になるわけではありません。

共和党の中には偏狭であることに迎合している者やそれで得をしている者がいます。決して、ずべての共和党員がそのように偏狭であるわけではありません。しかし、全員そういうことはできる立場にあります。トランプがやってきて、それが彼の専売特許であるかのようになるまえに移民を、法的にも違法にも攻撃したのは誰だったでしょうか。2012年に自主国外退去の話をして、党の反移民方針を正当化するように当時大統領候補だったミット・ロムニーに魂を売らせたのは誰だったでしょうか。実際の不法移民の問題を取り扱うための妥当な方策に反対したのは誰だったでしょうか。そのために、大統領選挙がはじまるずっと前から、そこで足蹴にされるといけないからと脅して、マルコ・ルビオ(フロリダ)を縮こまらせ、彼自身の規制案という元々の信念を捨てさせたのは誰だったでしょうか。それはトランプではありません。党の主流層でもありません。共和党の専門家と良識者たちがそうしたのです。彼らは、ポピュリスト系政治家の熱意を利用し、もしかしたらオバマ大統領がとりわけ信頼したかもしれないあらゆる法案を台無しにした。そして、共和党員が去って行った後で、肥え太った大衆の反感、外国人嫌い、そしてもちろん共和党にはもうコントロールしきれなくなった偏狭さというのが叩けば出てくるところで、トランプはなにを拾うでしょうか。

そこにはオバマ嫌いという状況がありました。人種差別的な感情の混じった病的な混乱のせいで、あらゆる批判が妥当であらゆる反論が正当だということになってしまいました。多くの点においてオバマ大統領はお粗末な仕事ぶりだったということなのでしょうか。特に外交政策においては、第二次世界大戦後にアメリカがつくってきたリベラルな世界秩序をぼろぼろにする要因をつくったのではないでしょうか。答えはイエスです。これらの失策は批判としかるべき反論を誘いました。しかし、共和党と保守派の批判は常軌を逸して暗く妄言じみたものになりました。中東の危機に際して妥当な代替戦略を進めることなく、多くの共和党員は無慈悲なイスラム嫌いとかしました。彼らは大統領が個人的にイスラムと親しくしていることへの疑いをほのめかしさえします。

こうしてオバマは政治家としてまちがっているばかりか、反アメリカ的であるとかアメリカ人でないとされました。彼の政策は、ブッシュの対立候補だったマイケル・デュカキスやクリントン政権の宅地開発長官だったマイケル・クオモとは少々異なりますが、いくらか現状打破を企むものの代表のようなところがありました。オバマにその職務についての適正を問いかけることでつい最近政治キャリアをはじめたばかりなのにいくつも段階をとばして、犬をしつけるような失礼さで「ポリティカル・コレクトネス」を蔑ろにして大統領の側近たちと話そうとしたり、実際にそうできてしまうような人間がいたら驚くべきではないですか。

おそらくトランプの「怒り」の軍団たちは、賃金の停滞に怒っているのだと我々は踏んでいます。いいえ、彼らはこの7年半の間、共和党が怒れと命令してきたあらゆることについて怒っています。そうすることで、軍団の構成員たちが不満要素を掃除し、共和党の旗持ちとなったことはトランプの財産となっているでしょう。トランプは革命の実を収穫するナポレオンです。

最近になってやっとこういうことが言われるようになりました。どうして、党の上層部はもっと早くトランプを止めるために奮起しようとしなかったのだと。時間はあったのですから。しかし、どうすればそれができたでしょうか。トランプは、自分を育ててくれその後便乗するつもりでいた共和党内の権力層に見返りをくれてやりませんでした。トランプの対抗馬を求める共和党の上層部や専門家に一部はつい最近、彼の彼の討論会での発言を歓迎していました。彼と対抗し、今やなんとか大衆に忘れてもらおうと思っている政治家たちは以前ほど彼を進んで攻撃しようとは思っていません。なぜならトランプの支持層と疎遠になるのが怖いからです。そのかわりに、そうした政治家たちはお互いを攻撃するようになりました。彼らはお互いの顔を引っ掻きあいながら一人ずつ崖から落ちていきます。クリス・クリスティが真っ逆さまに落ちて行ったとき、止めを刺したのはトランプでしたか。いいえ、ルビオです。(そして今、彼の党と国に対する最後の仕事はトランプの支持です。)ジェフ・ブッシュは何百万ドルも勝算のない選挙戦に費やしましたが、それはトランプ相手の戦ではありませんでした。

では今すべきことはなんでしょう。共和党のつくりだした化け物はすぐに崩れ落ちてしまい、共和党の試みたものの残骸だけが残ります。この以前まで共和党であったものにとって、おそらく他の人々にとって唯一の道はヒラリー・クリントンに投票することです。共和党はもう無理だとしても、合衆国はまだ救えます。

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