SF創作講座課題考察 第6期第6回 「何か(誰か)を葬る/弔う/喪に服す物語を書いてください」

課題ページ
https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/subjects/6/
 
「何か(誰か)を葬る/弔う/喪に服す物語を書いてください」という課題について大きく「葬儀の話」ととらえて考察する。

 まずこの課題を書くにあたって気をつけたいのは、ストーリーに必要だからといって安直に登場人物を殺すことになっていないかどうかである。人の死や人が悲しむことを感動ポルノ的に消費していないかどうか慎重になったほうがよい。
 葬儀というのは死んだ後に行うわけだけど、実のところ死ぬ前から準備をしたりして本人とその親しい人たちの死の受容ははじまっている。生前葬などもある。死んだ後だけではなくて、死ぬ前の話だって書ける。さらには日本の仏教だと法事というのがあって、葬儀のあとに何年間も死を受容していく過程があるので、葬儀自体よりもそのあとの方が長い。物語のためにわざわざ人を殺して、マッチポンプ的に悲しむ必要はないと思う。「あいつは死んだことになってる」みたいな感じで社会的に抹殺したりする話も考えられるので、直接的な死を描かないことも選択肢として考えたい。
 あとは「人が死んだ=悲しい」という単純化された人間を描くのも気をつけたい。親しい人が亡くなる話を書くにしても、死を受容していく過程でいろんなことを思い出したり考えたりする。美化されてステレオタイプな感情にならないように気をつけたい。

 葬儀について詳しくなかったので調べたところ、以下のサイトで葬儀の意味を「社会的な処理」「遺体の処理」「霊の処理」「悲観の処理」「様々な感情の処理」の5つに類していた。この5つで葬儀の全てを包括できるわけではないが、ネタ出しの材料としてこの分類を使って考えていく。
葬儀の流れ | 葬儀会館【ティア】
https://www.tear.co.jp/knowledge/bereaved/flow/

1.社会的な処理
 書類、データ、法律、社会上の死をあつかうならここになる。遺族年金の不正受給をあつかった「ディープフェイクおばあちゃん」とかはここ。そのほかには、不義理を働いた人間を死んだことにする、みたいな話や実際の遺体が発生しないVTuberとかAIの死についての話も考えられる。「国葬」なるイベントやピラミッドの建設みたいな、社会的にどのように死を取りあつかうかといった話も考えられる。儒教では葬儀は盛大なほうがよいとされている。裕福さや社会的地位を示すためにも葬儀は利用される。

2. 遺体の処理
課題文の「葬る」に相当。
 土葬や火葬が一般的だが、SFにするならもっと飛躍した遺体の処理方法が考えられる。データ上の身体を葬る儀式だとか、因果関係を逆転させて存在そのものを消すとか。大庭繭さんが以前、堆肥葬の梗概を書いていた。観てないけど「大怪獣のあとしまつ」とかもここ。
肉体の復活を信じるならば、火葬するのではなく体自体はそのまま残す土葬などにする必要がある。未来の科学で復活させることをねらう冷凍葬とか考えられる。
 おそらく三分の一ぐらいの人がここの話を書くと予想している。

3. 霊の処理
課題文の「弔う」に相当。
 霊を落ち着かせるためにお墓作ったり、念仏唱えたり、祖霊信仰したりするならここ。SF的解釈の霊も考えられる。ソフトウェアが停止したはずのアンドロイドが動き回って実は論理回路を書き換えてハードウェア的に思考していた、みたいな。

4. 悲観の処理
 生きている人たちの悲しい気持ちを受容していく過程の話はここ。王道でいうと死んだ人が残した手紙を読む話とか。タイムマシンで過去に行って妻の死を再解釈して受容する話であるテッドチャン「商人と錬金術師の門」もここ。

5.様々な感情の処理
課題文の「喪に服す」に相当。
 死者の腐敗は恐怖の対象。穢れを忌避する話はここ。喪に服すために祭りごとをさけたりして慎ましく暮らす。めっちゃ偉い人が宇宙船の事故で亡くなったので100年間宇宙船禁止みたいなのとか。

以上。

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