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水没

時は2411年。

人々は、技術の発展によりAI搭載型ヒューマノイドや空間投影ディスプレイなどが普及している夢にまで見た未来が来ると思っていた。

しかし現実は違った。地球温暖化の影響で海面上昇が起こり、陸地は水浸しになった。それも尋常じゃないくらい。水浸しというより水没。水没したのは今から140年くらい前の話。2270年代に水没したのだ。

これでは地球上での生活が厳しいということが明確なため、人々はとある天才学者が考案した惑星移住計画により地球外の惑星へ移住してしまった。

残された人類の1人である僕は、現在40階建てマンションの28階に住んでいる。何故かはもうお分かりだろう。

僕はそこで毎日釣りや植物の栽培をしている。都合よくベランダが広く、日当たりも良いので植物の栽培にうってつけだ。

釣りをするときはベランダの塀に座り、足を投げ出して釣りをする。自分の足裏から水面までの高さはおおよそ2m。釣りの餌は栽培している紫陽花の葉。それを釣り糸にくくりつけ、水面に垂らす。そうすると環境変化で自らも変化を成し遂げたカタツムリが食いついてくる。サイズは全長10cm。なかなかに大きいカタツムリが食いついてくる。しかし相変わらずとろいので釣り上げるのは簡単だ。

釣り上げたカタツムリは専用の水槽で飼育をして、ある程度成長したら魚を釣るための餌にする。もちろん殻は取る。

ここまでが僕の日課。

しかし日課をずっとやっていても退屈だ。だから僕にはとある趣味がある。それは「カタツムリの殻染め」だ。魚の餌にするためにカタツムリから取った殻を一度やすりがけして、栽培している紫陽花の花びらと一緒に洗濯機で回すと綺麗に染まる。紫陽花の花の色によって淡い紫、淡い青、淡い桃色に染まる。時には2色同時に回してグラデーションカラーにしたりする。

染めた殻を見ていると落ち着く。窓から差し込む光と吹き込んでくるそよ風、洗濯機を回す音、そして紫陽花で染めたカタツムリの殻。

僕はこの空間が大好きだ。

おわり

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