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敵のお腹を満たしてやっつけた話

ちなみに、私はやっつけられた方です。

1833年、スペインではカルリスタ戦争という王位継承戦争が起こります。
アストゥリアスの州都オビエドにやって来た兵士たちを、オビエドの人たちは大量のおいしい食事でおもてなし。
あまりにお腹いっぱいになりすぎた兵士たちは皆、武器を置いて一休み。
オビエドの人たちは、その隙に兵士たちの武器を取り上げて、血生臭い戦を防いだとか防がなかったとか…。
(※諸説あり。現に、私は夫からナポレオンが攻めて来た時の話だと聞いていました。)

この無血の勝利を記念して、毎年10月19日(実際にはその日を含む週)はDía del Desarme(武装解除の日)が祝われます。
何をするのかというと、

ただ食べる…。

当時、兵士たちに振舞ったというメニュー (Menú del Desarme) が、街中のレストランで提供され、ただそれを食べるというイベントです。
冒頭で私が「やっつけられた方です」と言ったのは、この兵士たちのメニューを食べたから😋

メニューの内容は次の通り。
・Garbanzos con bacalao y espinacas
(ひよこ豆、鱈、ほうれん草の煮込み)
・Callos con patatines
(ホルモンの煮込みとポテトフライ)
・Arroz con leche
(お米の牛乳プリン)
・Vino tinto
(赤ワイン)

ちなみに、私が食べたメニューは、デザートが2種類で、お米のプリンとfrixuelosというクレープみたいなデザートもついていました。

ひよこ豆、鱈、ほうれん草の煮込み。これ、めっちゃおいしかった!
ホルモン煮込みとポテトフライ。Asturiasのはドロっとしていてピリ辛。
お米の牛乳プリン。日本人は好き嫌いが分かれるけど、私は大好き❤️
frixuelos(クレープ生地にお砂糖をかけたようなお菓子)見た目がやっぱり昭和のお手製お菓子…。

記事を書くにあたってちょっと調べてみると、最近になって、このお祭りの起源を詳しく調べて公開した人がいました。
その人の調査によると、料理を振る舞ったのは10月19日ではなくて、10月10日。しかも、振る舞ったのは敵ではなく味方の兵士たち!

8月にカルロス軍に攻められ、武器に加えてわずかなお金まで盗られたオビエドの人たち。味をしめたカルロス軍は、10月4日にオビエドにカムバック。ところが、今度はオビエド側も準備をしていたため、カルロス軍を追い返すことに成功します。
10月10日、イサベル2世(叔父のカルロスと王位継承戦争真っ只中)の誕生日と同じ日に、県議会は兵士や幹部たちを招いて食事会を開きます。
これが、今日の Menú del Desarme の起源で、豆類、お肉、ハム、ワインやシードルなどのお酒が振る舞われたそうです。

では、なぜ10月19日にお祝いするのか?
実は、10月19日にカルロス軍は再度オビエドを襲撃します。この時、カルロス軍を追い返すことには成功したものの、戦いによって、民兵を含む多くの人の命が失われました。
カルリスタ戦争が終わった後、Desarme(武装解除)と平和を祝って、また、10月19日の戦いで亡くなった人たちを追悼して、この日にDía del Desarme が制定されたということです。

メニューも、最初はひよこ豆、鱈、ほうれん草の煮込みだけだった(cuaresma という、お肉を食べられない期間と重なったため)のが、20世紀初頭になると、他の祝祭の影響でホルモン煮込みが加わり、さらには、とある大臣が「一般的な食事と同じように、デザートを組み込むよう」に指示したため、伝統的なデザートであるお米のプリンも加わって、現在の形になったようです。

かなりかい摘んで書いているので、興味のある方は、スペイン語ですが、以下のリンクをご参照ください。

個人的には、敵をお腹いっぱいにして武装解除させた、というお話の方が、いかにもアストゥリアスっぽくて好きですけどね。
今、世界のあちこちで起きている戦争も、みんな武器なんか捨てて、お腹いっぱい食事すればいいのになぁ、と思ってしまいます。

私も、帰りのバスは完全に武装解除!(←夫が一緒なのを良いことに、大居眠り…。)
ごちそうさまでした!

Maqui

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