WELQの次にあるトレンドブログ

WELQ問題からPVを目的に記事を書くときの教訓を考えると、トレンドブログはその教訓を守れるような特徴を備えている。しかし、実際のトレンドブログはWELQと同じく問題を引き起こしている。

WELQ問題

DeNAの子会社が運営していたWELQというヘルスケアに特化したキュレーションサイトが、誤った内容の掲載や他のサイトの文章の切り貼りを行っていると批判を受け、閉鎖された。その後、WELQ(およびDeNAやその子会社が運営していた複数のキュレーションサイト)に対しての調査報告書が公開された。この調査報告書は、WELQの運営方法、記事管理の仕方、批判を受けるに至った経緯などを詳細に記述している。

WELQが引き起こした騒動はWELQ問題と呼ばれ、インターネットで注目を集めた。報告書を元にした解説や議論が多く見られたが、キュレーションの是非やキュレーションメディアをどう運営すべきかといった論点が多く、PVを稼ぐためにインターネットに継続して記事を公開するさいの注意点に関しては、あまり語られていないようだ。

インターネットにある無数の記事の少なくない部分は、情報を伝えることよりもPVを稼ぐことを主要な目的としている。PVがほしい理由の1つに、PVが多いほど記事に貼ったアドセンスやアフィリエイトからの収入が得られやすすいことがある。記事を書くモチベーションに収入がある場合、より多くのPVがほしくなるのは自然なことである。

WELQの運営チームはより多いPVを達成するために活動し、そのことがWELQ問題につながった。そのため、WELQ問題の調査報告書には、多くのPVを求めて記事を書くときに何をすべきかも書かれている。

WELQの教訓

調査報告書の内容は多岐にわたるが、インターネットに公開された記事に関して言えば、著作権を侵害したことと医療関係の間違った情報を載せたことが主に批判されている。

インターネット上の記事については、主に9章の5にまとめられている。もっとも多く批判されているのは法令違反であり、主に著作権法と医療関係の法令に違反していることが批判されている。また、記事の読者に危害が及ぶ可能性についても触れられている。一方で、記事の質が低いことやSEOを重視したことについての批判は少ない。

著作権に関しては、章を1つ割いて検証するなど、運営者の著作権への関心の低さと侵害の多さが丹念に書かれている。この辺りの話題は、WELQ問題に限らずキュレーションメディア関連の議論では頻出である。

医療関係の法令に違反したことも多く批判されている。違法であることだけでなく、記事を信じた読者が被害を受ける可能性があることも批判される要因となっている。

医療に関する情報を載せていたことがWELQ問題で重要なことは、上記の報告書が1章の1で、DeNAとその子会社が運営する10のサイトを挙げた上で、

ヘルスケア情報を扱うWELQについて、医師等の専門家の監修のないまま、根拠が不明確な医療に関する内容を含む記事を載せているとの外部からの指摘を受け、2016年(平成28年)11月29日、WELQに掲載されていた全ての記事を非公開とした。

と、医療関係の記事が批判されたことを明記していることからも分かる。

逆に言うと、料理や旅行、ファッションや自動車といった身体への影響が少ない分野に限ったサイトを運営しているだけであれば、著作権侵害以外は批判されなかっただろう。

報告書では、9章5(1)ウで3つの記事を例示しつつ批判している。批判のされ方を比較すると、WELQに掲載された記事の何が問題とされているかがよく分かる。

「(ア) いわゆる「死にたい」記事にアフィリエイト広告が掲載されたこと」では、

掲載の当否や広告の内容について、事前に慎重な検討が行われるべきであったと考える。

と、穏当な言い方をしている。また、「(イ) 「肩が痛い霊」をキーワードに設定した記事が作成されたこと」でも

ユーザーに対する配慮を欠いた記事が掲載される可能性があることを真摯に受け止める必要がある。

となっていて、批判としては弱いものになっている。しかし「(ウ) 「日焼け濡れタオル」記事が作成されたこと」に対しては、

大いに問題であったといわざるを得ず、
作成・公開したことにつき、非難を免れない。

と明確に非難している。

3例とも、記事の内容は不正確であり、PVを稼ぐためにSEOを重視した質の低い記事と言える。しかし、最後の例のみが強く批判されているのは、医薬に関する間違った内容が書いてあるからである。「日焼け濡れタオル」のような記事は、医療法などに違反する可能性があるだけでなく、内容を信用した読者に危害を及ぼす可能性もある。

要するに、著作権を侵害しないこと、法令に違反しないこと、読者に危害を加えないことの3点を守るサイトは"安全"である。WELQのようにこの3つを守らないサイトは"危険"であり、訴訟や第三者委員会による調査を受ける可能性がある。一方で、記事の質が低いことやSEOを重視することは、この報告書に従えば、大きな問題ではない。

WELQが危険なサイトになった最大の原因はPVを増やすことを第一に考えていたことである。WELQに限らず、PVを稼ぐことを主要な目的とするサイトは、著作権や法令を守るためのコストをかけようとしないので、危険なサイトになりがちである。しかし、トレンドブログと呼ばれるサイトたちは、PVを稼ぐことを主要な目的としつつも、上の3点を守りやすい。

トレンドブログとは

トレンドブログとは、瞬間的に話題になった人や事件についての内容をまとめた記事のことである。速報性を重視し、検索からの流入によってPVを獲得すること目的としている。そのため、少し調べれば分かる内容しか書かれていないことが多い。

少し調べれば分かる内容で多くのPVが得られるのは、検索流入に特化しているためである。トレンドブログを運営するときのポイントは、多くの人が検索するであろうキーワードの組み合わせで検索したときに上位に表示されるような記事を書くことである。

具体的には、最近話題になっている芸能人の名前と、年収や結婚相手といった公にはされていないが知りたい人は多いだろう言葉を、タイトルや見出しに並べる。芸能人と年収ではなく、重大事件と容疑者の家族構成などでも良い。年収や家族構成は公開されていないことが多いが、そういう場合は、本文に「調べてたけど分かりませんでした」などと書く。こうすれば、年収がいくらなのかを書かなくても、「年収」で調べたときの検索結果には表示される。

WELQの教訓を活かしたトレンドブログ

トレンドブログは、"安全"に書くことができるという意味で、WELQ問題の教訓を守っている。

第一に、トレンドブログは著作権を侵害しにくい。書く情報自体はありふれたものなので、その著作権を気にする必要はない。表現についても、複数のサイトで書かれている内容をまとめて1本の記事にするため、自分の言葉で書くことが容易である。

また、芸能人や重大事件といった生活には直結しないことを扱うので、医療関連の法令に違反する可能性は可能性は少ない。名誉毀損やプライバシーの侵害に当たる可能性はあるが、公になっている情報を書くだけであれば、訴えられることはないだろう。

さらに、少し調べれば分かる内容しか書かないので、間違った内容を書くことは少ない。よく知られたことしか書かないのであれば、その内容を信じた読者に危害が加わることもない。

トレンドブログは、WELQと違って安全だが、記事の質よりもPVを重視するという点ではWELQとよく似ている。トレンドブログの特徴である「調べたけれどわかりませんでした」という書き方は、リスクを減らしつつPVを獲得するための手段である。

トレンドブログの実状

上で書いたのは、いわば理想的なトレンドブログであり、実際には嘘の内容を書いて批判されているトレンドブログも存在する。

例えば、毎日新聞の記事では、2017年に座間市で起きた事件で、トレンドブログが事件に関するデマを流したことを批判している。

ここでの批判は、WELQ問題の調査報告書とは違い、記事に書かれた人物が被害を受けることを問題視している。WELQ問題の教訓として「読者に危害を加えないこと」を挙げたが、この例では読者が危害を加えている。なんにせよ、トレンドブログには問題点があるということになる。

トレンドブログがデマを流して批判される、つまりは"危険"になるのは、そうしないとPVが稼げなくなったためだろう。トレンドブログは簡単に書けるので、競合(同じ組み合わせのキーワードで上位に表示される記事)も多い。実際に、トレンドブログでは稼げなくなったという記事が、2017年後半から2018年前半にいくつか書かれている。

競合が増えると検索流入が減るため、PVを獲得するには他人に読ませたくなるような中身が必要になる。そのため、正しくはないが関心は集まるような情報(事件の犯人の父親の勤務先など)を書いてしまう。間違った情報で多く人の関心を引いたり、正しいが秘密にされている情報を公開したりすれば、PVが増える可能性は高いが、法令に違反する可能性や実在の人物に害を与える可能性も高くなる。

また、トレンドブログは他のサイトなどの情報に基づいて記事を書くので、情報源がデマを書いている場合はデマを拡散してしまうことになる。特に、トレンドブログの運営者が他のトレンドブログを参考にしていると、トレンドブログ間でのデマの伝搬が進む。

トレンドブログが安全なのは、情報源が正しい情報を載せている場合に限られる。一方で、確実に正しいと言える情報だけを書いていると、他の真偽が怪しい情報を載せているトレンドブログにPVを奪われてしまうという問題がある。

理想的には安全に稼げるが、実際には安全でないか稼げないかのどちらかというのが、トレンドブログの現状であろう。

インターネットの今後

トレンドブログは基本的に安全だが稼げなくなっている。しかし、危険だか稼げる方向に進むサイトは、WELQと同様の道をたどることになるだろう。

トレンドブログの現状から考えると、安全でしかも稼げるようなスタイルが発見されたとしても、すぐに競合が多くなって稼げなくなる。そうだとすると、WELQのような危険なサイトが常に登場し続けるのかもしれない。

PVを稼ぐことに特化したサイトの弊害は何年も前から指摘されている。WELQ問題もデマを拡散するトレンドブログも、その一例にすぎない。強い批判を受けるサイトは徐々に消えていくだろうが、PVが金銭収入につながるうちは、PVを稼ぐことを目的にしたサイトは出続けるだろう。

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