M&A: 組織再編と事業譲渡の要点整理

今回は、組織再編の代表例と事業譲渡のそれぞれの要点についてご紹介したいと思います。

組織再編とは、会社の組織と形態を変更する会社法上の法律行為を指し、代表例として会社法第5編に規定されている、合併、会社分割、株式交換、株式移転が挙げられます(三角合併や三角交換等は今回は割愛します)。

広義の「組織再編」は、新株発行、自社株買い、現物出資、事後設立、事業譲渡、現物配当、組織変更及び解散も含むと考えられるようです。

一方、日本の租税法における「組織再編成」は、現時点で、新株発行、自社株買い、事業譲渡、組織変更及び解散を含んでいないようです。

以下では、合併、会社分割、株式交換、株式移転という組織再編の代表例と事業譲渡についてそれぞれ要点を紹介していきます。

これらの大きな違いとしては、前者が、事業単位でまとめて権利関係が移転し、債務や契約上の地位を引継ぐ場合でも債権者の個別の承諾を得る必要はない「包括承継」にあたるのに対し、事業譲渡は複数の個別権利関係を同時に譲渡する「個別承継」にあたる点です。

一方、これらに共通する点としては、買手、対象会社共に一部例外を除いて株主総会の特別決議が必要な点、売手の反対株主の株式買取請求権が認められている点です。

一部の例外とは、かなり簡略化してしまうと、簡易(対象会社の資産に占める譲渡資産の割合が1/5以下、買手においては対価が純資産の1/5以下)、略式(一方の当事会社が他方の当時会社の議決権の90%を有している場合)を指します。

合併

吸収合併と新設合併に分けられる。新設合併は登録免許税が高い/手間がかかることから実務ではほとんど見かけられない

システムや人事制度の統合に時間を要する、偶発債務を遮断出来ない、消滅会社の許認可を承継できない場合がある等の観点から、合併が利用されることが多いのは、グループ内再編、事業全体を直ちに統合させることを目指す同業種同士、あるいは許認可業種でない事業会社同士の事案が多い。

法人税法上、被合併法人が、移転した資産・負債の対価として合併包法人株式その他資産を合併法人から時価で取得し、直ちにこれらの対価を被合併法人の株主に対して交付するものと犠牲されているため、みなし配当課税の有無が問題となる。

会社分割

事業に関して有する権利義務の一部または全部を他の会社へ包括的に承継する会社法上の行為。

吸収分割と新設分割に分けられる。

得られる効果としては事業譲渡と類似しているが、「包括承継」であるため、個別の債権者・労働者の同意が必要ない一方、債権者保護手続き、労働者保護手続きが必要となる。

分割対価が分割会社の株主に交付される場合(スピンオフ等)以外は、みなし配当課税は行われない。

株式交換

会社が発行済株式の全てを他の会社に取得させる会社法上の行為。

完全親子関係が形成される。株式交換の対価は株式/現金でも問題ないが、現金対価の場合には、会社法上の特例を除いて税務損益が認識されるため、株式対価の場合が多い。

グループ内での完全子会社化によく利用される。

対象会社の法人格を保存するため、みなし配当課税が行われない。

株式移転

会社がその発行済株式全部を新設会社に取得させる会社法上の行為。

完全子会社となる会社の株主には新設される完全親会社の株式またはその他の対価が付与される

持株会社設立の際に利用されることが多い。

対象会社の法人格を保存するため、みなし配当課税が行われない。

事業譲渡

上述の通り、「個別承継」にあたり、債権者/労働者との個別合意が必要となるため、債権者/労働者の数が限られる中小企業での使用が現実的。

のれんに当たる資産調整勘定を税務上5年間で均等償却可能

以上になります。別の機会に上記の合併、会社分割、株式交換、株式移転における税務的な例外についてご紹介いたします。

参考文献

『M&A法大全』 西村あさひ法律事務所

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