イヤイヤの後ろ姿

イヤイヤ期とか、魔の3歳児とか、色々な呼び方はあるけれど、2〜3歳前後の子どもは本当にパワフルだ。
中高生くらいのころのことを「反抗期」と呼んだりするけれど、この2〜3歳ごろは「第一次反抗期」と言うらしい。

娘は赤ちゃんの頃から主張の強い方で、私の記憶の中の赤ちゃん時代の娘はほとんど泣いている。
里帰りしていた実家から自宅に帰るとすぐにコリックが始まり、後追いも他のお友達よりも早くからあった。
支援センターに行っても、「いつも泣いてるね」と言われるほど、本当によく泣いて、ほとんど抱っこしていた。
私がお手洗いを使う時などスタッフさんが預かってくれるが、帰ってくるまで泣き通しだった。
トイレから出て廊下に通じるドアを開けると、廊下に娘の鳴き声が轟いていた時の気持ちは忘れられない。
とにかく私が彼女から肌を話すと泣き続けるので、家事も身だしなみも排泄も、1分1秒を争うアスリートのように計算して動いていた。

そんな風に「常に泣くのが当然」の環境で育児をしていたので、正直イヤイヤの開始は記憶にない。
ずーっとよく泣く子だと思っていたら、いつのまにか泣く理由が生理てきなものではなく理屈が(めちゃくちゃでも)備わっていた。
ただ、1歳3ヶ月で歩き始めたころには、世界が広がり少し泣くことが減ったように記憶している。
そして1歳6ヶ月ごろ、実家に帰った時に拙い言葉(2語文が出始めた)で、はっきりと主張を始めた。
その頃からだろうか。
私が手を出すと「いやー!」「自分で!」と、言うようになったのは。

実のところ、私自身がイヤイヤの強い子どもだったらしい。
私はわりと小さい頃のことを記憶しているので、その頃の気持ち・感情もなんとなく覚えている。
自分のやり方でしたい、自分で達成したい、親に決めつけられるのが悔しい。
そう訴えているのに、面倒臭がる親からは一喝され、ただわがままを言っていると叱られて、気持ちが昇華されない。
そんな子どもの「自分でしたい!」「満たされなくて悔しい!」がわかるので、応援してあげたいと思う。

けれど、その一方で全く計画通りに進まない日常に、文字通り右往左往させられて滅入ってしまう。
子どもとの生活に計画なんて意味がないのかもしれないけれど、まず出勤前に家を出るのも大仕事だ。
服が嫌、袖をママが引っ張ったのが嫌、ズボンを履かせてくれないのが嫌、靴のテープがまっすぐ止まっていないのが嫌…

しかも、さっきは「やって」と言ったことなのに、手を出すと「いやーーーーーー!!!」となる。
どうすりゃええねん!
とツッコミが入れられるうちはいいけれど、そのうち般若のような顔になり、最終的に能面のようになる。
感情を殺して、子どもの泣き声は心のノイズキャンセルで小さくして、機械のように準備をする。
場合によっては、それなりに文句を言ったり怒ったりしてしまう。
保育園に預けた後、子どもが寝た後。一人になった時に後悔が音を立ててやってくるけれど、優しく明るく乗り越えるにはイヤイヤはパワフルすぎる。

3歳になった頃、急に娘がグッと成長したように感じた。
例えば、立っている時の姿勢。丸くキューピーちゃんのようだったお腹は、ぺたりと引っ込んでいる。
歩く時にも手でバランスを取ったり左右に上体が揺れることはなく、テクテクと綺麗に歩く。
少しずつではあるけれど、話を聞こうとする姿勢も見え始め、「(ちょっとは)話せばわかる」手応えが出てきた。
彼女の成長に感動すると同時に、ああ、もうあの小さな赤ちゃんはいなくなってしまったなと感じた。
ふわふわで、触れると指が沈み込むようで、常にそばにいて肌を触れていないと泣いてしまう、あの赤ちゃん。
あの子はもういなくなって、この子は次のステージに向けて飛び出そうとしている。

イヤイヤの方向も変わった。
「自分でやりたい!」よりも、「自分のやりたいようにやりたい」と言う感じだろうか。
社会性が出てきて、人と一緒に何かをすることが楽しくなってきた一方で、まだ関わり方が拙いので失敗も多い。
ケンカになったり、仲間はずれのようになったり、むやみにくっつきすぎたり、距離感がわからないようだ。
文字に興味が出たり、お友達から聞いた新しいアイテムを欲しがったり、欲求も幅が出てきた。
そうなると、親も全て彼女の興味や要求に応じることは難しいので(毎日バスボムとか)、我慢も増える。
ただ「ダメ」「ムリ」と我慢を強いるのではなくて、彼女が理解・納得できる理由の説明が課せられる。親もスキルアップが必要だった。


最近気がついた。
娘が聞き分けなく、「とにかく全てがイヤ。イヤと言ったらイヤ」というようなイヤイヤをすることがなくなった。
一時期は、「イヤ」というのが趣味なのでは?というほど「イヤ」を連呼していたのに。

そうか。あなたは、次のステージに進んだんだね。
あんなにしんどいと思っていた泣き声も、もうほとんど聞くこともなくなっている。
汗と涙で頭から湯気が出るように真っ赤になって、喚いて叫んでひっくり返って…
やっとそれを見ても胸の中で笑える余裕ができたけれど、娘のの成長の方が早かったみたいだ。
もちろんまだ終了とは言えないけれど、イヤイヤ期の後ろ姿が見えてきた気がする。
晴れ晴れしているのに、とてもさみしいこの気持ちはなんなんだろう。

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