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たかがボディソープごときで

今日はとても疲れた。
自分のペースで仕事が出来ない日は疲労感を強く感じるのだ。
別にいつもの事。

それで買い物をするのを忘れたのもまあよくあること。
別にいつもの事。

早く、シャワーをあびてすっきりしたい。

服もたたまず、蝉の抜け殻のようなままで私は浴室に飛び込んだ。
「はぁ……。」
暖かいシャワーを浴びれば体も心もこばわりがほどける気がする。
うん、今日も私、頑張った。
少しずつ「OFF」の時間であると体が認識をしてくる。

さて、体、洗うか。

ボディーソープの容器をプッシュした。
…プッシュした。
しゅこしゅこ、しゅこしゅこしゅこ、しゅこしゅこしゅこしゅこ。

「はあぁぁぁぁぁ。」
ボディソープがきれてしまった。
シャワーを浴びながら大きくため息をつく。
大したことはないんだけど今日きれちゃう?
なんで今日?
あーあ。

扉を乱暴にあけてびしょびしょのまま洗面所の手洗い用の固形石鹸をとった。

液体のボディソープよりも泡立ちが悪い。
そう思いながらいつもよりも時間をかけて泡立てて体を洗った。
はぁ、今日はついてないかも。
お風呂上りに脱ぎ捨てられた洋服を見てまたさらにテンションが下がるのだった。

「ただいま。」

がたんと扉の開閉する音がきこえた。
時刻は23時を回った所、いつもより遅くて彼も疲れているんだろう。
いつもよりもテンションの低い声でただいまが聞こえた。

彼はいつも帰った来たら一番にお風呂に入る。
それを確認して私はとろとろと台所に立って晩御飯の仕上げに入る。
いつもの流れだ。


しばらくしてバーンとお風呂場の戸が空いた。

「ボディソープがない!!」

うん、ないんだよ。
買い物してくるの忘れちゃって。

たかがボディソープごとき、である。
されどボディソープなのだ。

風呂場から覗く主人の口元はとんがっている。

「洗えないよ」

「手洗い用の固形石鹸で我慢して」

「えー汚い。新しいのおろしてよ」

「変わらないでしょ。手も背中もさあ。からだの一部なんだから。新しい石鹸はださないよ。」

疲れている。
もう眠たい。早くお風呂上がってご飯食べようよ。

そう思ってるのを知ってか知らずが
がちゃんがちゃんとなにで音をたてているかわからないけど妙に騒がしくしながらシャワーを浴び始めた。

しばらくするとおもむろに風呂場から出てきて風呂場用のブラシを持ってまた風呂場に戻っていった。

いつもお風呂入ってる時に掃除なんてしないのに。 拗ねたな。と思った。

買い忘れたのは私だと思う気持ちもあり
少なくなってるのわかってたら貴方が買ってきたらいいのにと思う気持ちもありもう頭の中はごちゃごちゃだ。

立ち上がって風呂場までいき話しかけた。

「掃除してくれてんの?ありがとう」

「うん。」

「あがるの待っているね」

「うん。」

「…。」

ザーザーとシャワーの音とがたがたとお風呂の中のものを動かす音が聞こえる。拗ねるにしても掃除をする意味はわからない。

またしてもばーんと音を立て、絵面としても「扉を勢いよく開けました」
というような素っ裸仁王立ちで言う。

「あがった。」
見たらわかる。

晩御飯をセッティングして食べ始まるも彼は言葉少なく口はとんがっている

機嫌が悪い事は気になる。けど、別に謝りたくはない。
「ごはん、美味しくない?」
「美味しいよ。」
「…怒っている?」
「怒ってないよ。」

嘘だ。

でもこれ以上話したからといってどうにもならない、気がする。
こんなことで疲れて帰ってきて気を揉むなんて。
こんどからは常にボディソープは切らさないようにしておこう。

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