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WTO漁業交渉の部分合意から2年、いまだ発効せず

世界貿易機関(WTO)の漁業補助金の削減交渉で2022年6月に部分合意が得られてから2年が経過しました。2001年にドーハ・ラウンドが始まって以降、加盟国の対立でほとんど成果を生み出せない中、数少ない成果として当時はアピールされましたが、その後の正式な受諾手続きが進まず、いまだに発効しないという異常事態が続いています。WTOの弱体化が一段と進んでいます。
 
WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は6月7日、翌日の世界海洋デーを前にビデオメッセージを出し、「毎年、世界各国の政府から持続可能でない漁業を支えるために数百億ドルが支出されている。こうした補助金が乱獲の問題をさらに悪化させている」として、漁業補助金を削減する必要性を改めて強調しました。「WTOに加盟する164カ国・地域は2022年、有害な漁業補助金を抑制する新たな世界的な合意に達した。75を超えるメンバーが批准しているが、発効にはさらに約30のメンバーの批准が必要だ」と説明しました。
 
その上で、「海洋の持続可能性とブルーエコノミーのために、この画期的な協定の実行を加速させる必要がある」として、まだ受諾していない国・地域に手続きを急ぐよう呼び掛けました。さらに、「協定を発効させ、(積み残された)交渉の第二波を早期に妥結させることは可能だ。われわれの海洋には待つ余裕はない」と訴えました。
 
WTOは2022年6月にスイス・ジュネーブで開いた第12回閣僚会議(MC12)で、①「IUU(違法・無報告・無規制)漁業に関する補助金の禁止」や②「乱獲状態にある漁業資源に関する補助金の禁止」で合意しました。しかし、③「過剰漁獲につながる補助金」については、インドの反対で合意は先送りされ、第二波として交渉が続いています。
 
当時は、早期に実行可能な部分の合意を先行させ、積み残された部分は後回しにしようという判断でした。しかし、早期に実行可能であるはずの部分の合意すら発効できていないのが現状です。積み残しの部分については、2024年2月下旬から3月上旬にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれた第13回閣僚会議(MC13)でも合意できず、暗礁に乗り上げています。
 
漁業補助金に関し、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は「2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、IUU漁業につながる補助金を撤廃する」と明記しています。しかし期限から4年経った現在でも、何も実行されていないのが現状です。
 
WTOは2024年6月14日、漁業補助金交渉の部分合意について、新たにモンテネグロが正式に受諾したことで、批准した国・地域は77になったと発表しました。発効にはWTO加盟国・地域の3分の2以上の受諾が必要で、あと33カ国・地域ということです。とてもすぐに発効するような状況ではありません。
 
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の論文によると、2018年の漁業補助金額の世界トップ10は①中国②欧州連合(EU)③米国④韓国⑤日本⑥ロシア⑦タイ⑧インドネシア⑨カナダ⑩ノルウェー―の順です。上位10カ国の中では、中国やEU、日本、米国など8カ国・地域が受諾していますが、タイとインドネシアはまだです。

漁業交渉の部分合意の受諾国(2024年6月16日現在、WTOウェブサイトより)

このほか、インドやブラジル、アルゼンチン、メキシコ、イラン、イラク、エジプトなども受諾していません。2年前のMC12では、インドが全体合意に反対し、部分合意にとどまった経緯がありますが、インドは部分合意すら受け入れたくないのかもしれません。


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