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EUが新戦略「農業・食料ビジョン」を策定へ 再任の欧州委員長が表明

欧州連合(EU)の欧州議会は7月18日、フォンデアライエン欧州委員長の再任を賛成多数で決めました。同氏は、農業関係者との「戦略対話」の結果を踏まえ、「農業・食料ビジョン」と名付けた新戦略を策定すると表明しました。農薬の使用半減などを盛り込んだ「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」が農家の反発で軌道修正を迫られる中、どんな内容を打ち出すのかが焦点となりそうです。(写真はEUのウェブサイトより)
 
 2019年12月に欧州委員長に就任したフォンデアライエン氏の2期目の任期は、2029年までの5年間。719人の欧州議員のうち、401人が賛成、284人が反対しました。
 
フォンデアライエン氏は採決に先立つ演説で、「欧州は今、明確な選択を求められている。その選択が今後の5年間を形作り、今後50年間の世界でのわれわれの位置を規定する」と述べました。その上で、極右や極左勢力が増してきたことを念頭に、「われわれの社会が極端に二極化することを認めない。デマゴーグや過激派が欧州の生活様式を破壊することを認めない」と強調しました。
 
農業に関しては、昨年から欧州各地で農家のデモが相次いだことを受け、「すべての関係者とともに、違いを乗り越え、優れた解決策を見つけなければならない。だからこそ(今年1月に)戦略対話を立ち上げた」と説明しました。その上で、「私は関係者の意見に幅広く耳を傾け、学ぶことを約束している。良い提言を取り入れ、農業と食品部門に関する新戦略を公表する」と表明しました。
 
フォンデアライエン氏は、演説内容を補足する形で政策指針も公表しました。同指針は、「欧州グリーンディールで定められた目標を堅持しなければならない」と明記し、気候変動対策は強化を続ける姿勢を示しました。同氏は欧州委員長に就任直後の2019年12月、脱炭素と経済成長を両立させる「欧州グリーンディール」を公表し、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を打ち出しています。
 
農業に関しては、「欧州の食品が世界で最も健康で高品質なのは、900万の農場や、幅広い農業食料部門のおかげだ」と強調しました。一方で、「気候変動の影響や不公平な国際競争、エネルギー価格の上昇、若い農家の不足、資本調達の難しさなど、農家や農村社会はますます多くのプレッシャーにさらされている」と指摘しました。
 
その上で、「私は農家や政策立案者、市民らと引き続き関わり合い、強靭で競争力がある農業や食料システムを構築したい。だからこそ農家との戦略対話を立ち上げた」と説明しました。今年1月から今夏まで行われる戦略対話の報告書は近く公表され、その内容を踏まえ、農業の長期的な競争力と持続可能性の確保を目的に、「農業・食料ビジョン」を策定するということです。
 
フォンデアライエン氏は演説や政策指針の中で「農家が公平で十分な所得を得ることが重要だ。生産コストを下回る価格で販売することを強制されてはならない」とも強調しています。日本でも、食料の生産コスト上昇を販売価格に転嫁できないとして、「合理的な価格形成」が大きな議論になっていますが、欧州でも似たような議論が起きているのは興味深いです。
 
フォンデアライエン氏は今後、EUの閣僚に相当する欧州委員を近く任命する見通しです。農業担当など従来の欧州委員のほか、漁業・海洋担当を新たに設けるということです。

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