フィリピンでゴールデンライスが初収穫

収穫されるゴールデンライス(PhilRiceウェブサイトより)

フィリピン農務省のコメ研究所(PhilRice)は2022年12月28日、遺伝子組み換え(GM)技術によってベータカロテンの含有量を増やした「ゴールデンライス」が初めて収穫されたと発表しました。これまでのGM作物は、除草剤耐性や害虫抵抗性といった農作業の軽減に重点が置かれてきたため、消費者へのメリットに乏しく、安全性への不安を増幅させ、世界的な反対運動につながった経緯があります。ゴールデンライスは、消費者に直接のメリットがある点でこれまでのGM作物と異なり、今後どこまで受け入れられ、どこまで広がるか、GM作物の将来を占う試金石となります。

ゴールデンライスは、フィリピンをはじめ途上国で問題となっているビタミンA欠乏症(VAD)対策として開発されたGM作物です。ビタミンAが不足すると、夜にものがよく見えなくなる夜盲症になり、ひどくなると失明に至ることもあるそうです。国際稲研究所(IRRI)によると、フィリピンの貧しい地域では子供の5人に1人がVADに苦しんでおり、世界では1億9000万人もの子供がこの病気に苦しんでいます。ベータカロテンを摂取すると体内でビタミンAに変わるため、ゴールデンライスを食べればVADを予防できるというわけです。

ゴールデンライスはIRRIとPhilRiceによって共同開発され、フィリピンの規制当局によって2019年に食品や飼料として認可されたのに続き、2021年7月に商業栽培も認可されました。これにより、フィリピンでは栽培して食べることができるようになりました。食品としては、フィリピンのほか、オーストラリアやニュージーランド、カナダ、米国でも認可されています。国際アグリバイオ事業団(ISAAA)の発表によると、2022年にはフィリピンの7州で栽培が始まり、VADが最も深刻とされるミンダナオ島のマギンダナオ州などが第一弾として選ばれました。

2022年の収穫量は17地点で100トン以上となり、精米された上で、VADのリスクが高い就学前の子供や妊婦らがいる世帯に優先的に配布されます。IRRIやPhilRiceはゴールデンライスの増産に向けて種子の増殖を急いでおり、2024年後半には種子の十分な供給が可能となり、本格的な商業栽培が始まる見通しとなっています。

これに対し、国際環境NGOのグリーンピースはゴールデンライスに対して反対を続けています。商業栽培が認可された2021年7月には、「強く非難する」として、撤回を求める声明を出しました。「農家や消費者への利益が証明されていないゴールデンライスのようなGM作物に頼るのではなく、農家とともに、農家のためになるエコロジカル農業を推進し、多様な穀物や果物、野菜を提供し、食料や健康の安全性を確保するべきだ」と訴えています。また、「ゴールデンライスがVADに効果的だという研究結果はない。VADの解決のため、エコロジカル農業の実践によって栄養価が高い多様な食料を供給することは可能で、環境や人間の消費にとって安全であることが証明されている」と主張しています。

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