EUがネオニコチノイド農薬の例外使用を禁止

欧州連合(EU)の最高裁である欧州司法裁判所(ECJ)は2023年1月19日、ミツバチの大量死との関連が指摘されるネオニコチノイド系農薬について、例外的な使用を認めない決定(1)(2)を下しました。EUはこれまでも厳しく規制する姿勢を示してきましたが、砂糖の原料となるテンサイ農家を中心に、特例措置として多くの加盟国が適用除外を認めており、抜け穴になっていると批判されてきました。今後はこうした措置を認めないことになり、規制がさらに強化されることになります。EUの農薬に対する厳しい姿勢が改めて示されました。

欧州委員会のウェブサイトや、適用除外の禁止を申し立てていた農薬行動ネットワーク(PAN)ヨーロッパによると、EUでは1990年代以降、ネオニコチノイド系の農薬はクロチアニジンとイミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、アセタミプリドの5種類が承認され、害虫を駆除する殺虫剤として主に使用されていました。しかし、養蜂用のミツバチが突然いなくなる蜂群崩壊症候群が米国など世界各地で報告され、原因としてネオニコチノイド系農薬との関連が指摘されたことで、規制の動きが強まりました。

EUは2012年にリスク評価を行った結果、クロチアニジンとイミダクロプリド、チアメトキサムの3種類について、トウモロコシやナタネ、ヒマワリといったミツバチが好む作物での使用を2013年から禁止しました。2018年からは他の作物を含め、屋外での使用を全面的に禁じました。チアクロプリドも2020年から同様に禁止されました。アセタミプリドはミツバチへのリスクは低いとして使用を認められています。

ネオニコチノイド系農薬が厳しく規制されるようになったものの、PANヨーロッパの調査報告(1)(2)によると、フランスやオーストリア、デンマーク、ベルギー、キプロス、ギリシャ、ハンガリー、フィンランドといった加盟国では、テンサイ農家に対し、例外的に使用を認める措置が多く適用されてきました。PANヨーロッパは「除外措置は不測の事態や特別な場合に限って適用されるべきなのに、実際にはそうなっておらず、乱用されている」と非難してきました。

これに先立ち、PANヨーロッパやベルギーの養蜂家が2019年、適用除外措置の廃止をベルギーの裁判所に申し立てていました。申し立ての中で、ベルギーの裁判所に対し、EUの最高裁であるECJに予備判決を出すよう求めており、それが今回示されたということのようです。ECJの審理の中で、欧州委員会やフランス、ギリシャ、ハンガリー、フィンランド、ベルギーのほか、ベルギーの農薬団体やベルギーのテンサイ農家団体は廃止に反対してきたとのことです。

今回の決定について、PANヨーロッパはリリースで、「EU裁判所の画期的な判決により、10年間にわたる加盟国の乱用に終止符が打たれることになる。われわれの行動により、EUの環境はより安全になる」とアピールしました。また、「審理の過程で、加盟国の乱用を欧州委員会が保護し続けたのはとてもショックだった。欧州委員会が市民の健康や環境ではなく、アグリビジネスの側に立っていることが明らかになった」と厳しく批判しました。さらに、「欧州委員会の弁護士は裁判官に対し、代替策がない場合にだけ例外措置を認めていると主張したが、現実とは正反対だ」とも指摘しました。

これに対し、欧州砂糖製造者協会(CEFS)と欧州テンサイ生産者連盟(CIBE)、EUの農業団体コパ・コジェカは共同声明を出し、「深刻な病害虫被害に対する迅速で効果的な解決策が必要だが、現時点ではまだ代替策がない」として、この決定によりテンサイ栽培に甚大な支障が出るとの認識を表明しました。テンサイ農家は、ゾウムシやトビハムシなどの害虫や、黄化病というウイルス病に悩まされており、ネオニコチノイド系農薬が極めて有効だったそうです。農薬を種子にコーティングすることで、周辺に飛散したり、ミツバチにかかったりしない対策も講じてきました。

共同声明は「黄化病は欧州のテンサイ部門にとって深刻な脅威となっている。フランスでは2020年、黄化病の被害とネオニコチノイド系農薬が入手できなかったことで、収量が30%も減少した」と強調しました。その上で「テンサイの作付けが始まる数週間前という時期に、多くの農家は前例のない状況に追い込まれ、大きな不安定や混乱に陥ることになる。こうした膠着状態からすぐに抜け出さなければならない」と訴えています。EUではサトウキビは生産されておらず、砂糖の原料はテンサイだけだということで、「農家がテンサイを生産できなければ、砂糖を製造できない。欧州の人々は、持続可能性が低い域外からの砂糖輸入に頼ることになるだろう」と指摘しています。

また、欧州の農薬業界団体クロップライフ・ヨーロッパはリリースで「われわれは常に例外措置に頼ることには同意しない」として、あくまで緊急避難的な対応であるとの認識を示しつつ、「他に選択肢がない場合には、作物を守る解決策に農家のアクセスを認めるという原則を信じている」と訴えています。現状では代替策がないので、やむを得ない対応だということを強調しています。また、「例外措置を適用する背景には、代替となるバイオ農薬や農薬製品が加盟国に承認されなかったり、承認が遅れていることがある」と指摘しました。業界としても対策を急いでいるのだから、当局も迅速に動いてほしいという考えをにじませています。

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