茹で卵
ある日、息子が突然、茹で卵を食べたことの驚きについて。
茹で卵は、私がもっとも嫌いな食べ物だ。匂いが、食感が、すべてダメ。手で触っただけでゾクゾクしてしまうので、卵好きの夫には申し訳ないが、作ることは、ほぼない。
茹で卵はコンビニのお弁当に入っていた。夕飯の支度を何もしたくない時に買った、鳥炊き込みご飯のお弁当のうえに、半分に切られた、茹で卵。偏食家で、家では決まったものしか食べない息子だから、ほぼ決まったものをルーティンで出していて、だから指をさしてそれを食べたいと示された時は、本当に驚いた。
「え?これを?この、グニグニでもさもさで、硫黄の匂いのキツいこれを、食べるの??」
衝撃だった。息子はぺろりとたいらげた。それだけでなく、もっとほしいと催促された! 慌ててお湯を沸かす。ネットで検索する。『茹で卵 作り方』。息子がもっとくれと叫ぶ。まじか、そんなに?
結果、卵の硬さが違ったのか、お弁当に入ってた味付け卵の味がよかったのか、私が作った茹で卵を食べなかった。
まただ、またこれだ!
息子が産まれてから、何度も繰り返す「はじめまして」。息子は、私のお腹にいて、私と夫の細胞からできあがった生き物でありながら、私は息子のことを何も知らないんだと、何度も思い出す。
どんな食べ物が好きなのか。何色が好きなのか。どんな抱きしめ方が心地よいのか。どんな手触りが好きか。動画の好み。テンションの上がる遊び方。もっとも安心できる方法。二歳になってもなお、知ることがたくさんある。
けど、不思議と心地いい。いや、むしろ、誇らしい。私が食べられないものを食べられるなんて。すごいね。すごいね息子。
もっともっと教えてよ。欲しいもの、やりたいこと。笑いと驚きと共に、私の中にあるどうでもいい観念を吹き飛ばして欲しい。ママにとっては、あなたの選びとったことすべてが新鮮で、そのすべてが愛しいんだよ。
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