記憶というご馳走
西荻窪のこけし屋が、3月末で休業とのこと。昨今、新しいパティスリーやショコラティエがたくさんある中、しばらく行っていなかった昔懐かしのケーキ屋さん。
無くなると聞いて、慌てて買いに走る安直さに我ながら恥ずかしいが、それでも、人生で最後の機会となるならば、やはり後悔はしたくない。
ケーキそのもので言えば、正直、もっと美味しいものはたくさんある。が、それだけが美味しさを決めるのでは無いと、改めて。幼少の頃、誕生日やお土産で食べた、あのこけし屋のケーキは、のんきな幸せな子供時代の象徴。子供だからと、半分ずつを妹と分け合って食べていたような。
並んで待つ皆さまは、同じように3代に渡って、ケーキと言えばこけし屋で育った方々。日常にあった、ずっと在るものと思ってたものが、突然無くなると言う喪失感と惜別の思いを噛み締めながら、最後のケーキを買えるかも分からなくても、買えることを願いながら、吉田さんの実況に一喜一憂しながら並び。次々と声がけし、声をかけかれ挨拶をする吉田さんとの会話を聞かせてもらいながら、自分と家族とこけし屋との思い出を振り返り。皆さまのさまざまな幸福の思い出に触れさせて頂き、ちょうど桜の満開を間近に迎えた暖かい日差しと春風を心地良く受けながら、ほっこりじんわり温まり。自分の幼き頃の幸せの記憶も大事に抱えながら、そうできる今もまた幸せであると満たされながら、並び続け。買えたら良いな、ショートケーキがやっぱり一番再会しない一品だな、とわくわくドキドキしながら、ゆっくり列が進み。入り口が近づき、店内にようやく入れ、ショーケースの様子が見えるようになり。やれ、コロッケが終わった、サバランが無くなった、と。ヒヤヒヤしながら大人しく自分の番を待ち。ようやく注文を聞いてもらえたら、直前でショートケーキが無くなり。がっかりしながら、いつも1番食べたいものが無くなる私は、縁が無かったんだと、酸っぱい葡萄で我慢し、あるものを注文しお会計し。カードでサインしていると、目の端にショートケーキのトレイが‼️恥も外聞もなく、あのショートケーキを一つ欲しいと懇願し。ほとんど買い終わっているにも関わらず、てんてこまいに忙しく大変であるにも関わらず、嫌な顔一つせず、快くショートケーキ追加を請けて下さり。心から感謝🙏を伝え。ようやく、我が家に持ち帰れたこけし屋のショートケーキ。
苺に生クリーム、スポンジ。幸せの香り。ふかふかしっかりしっとりした卵たっぷりの焼き目も美味しいスポンジ、しっかりホイップされたフレッシュな生クリーム、新鮮な甘酸っぱい香り豊かな苺、完璧な私の理想のショートケーキがここにある。驚きである。今をもっても、ちゃんと、本当に美味しいのである。素朴なしかしプロフェッショナルな、完璧なショートケーキ。あっぱれ!本当に食べることができて良かったです。ご馳走様でした。
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