【声劇台本・3人用】ディナイアル・コーエギジスト
“ディナイアル・コーエギジスト“
ジャンル:現代ファンタジー・コメディ
こちらは声劇を想定した台本になります。
よろしければお読みいただけると幸いです。
◆内容説明
世界は「デモン」という化物の脅威に晒されていた。
デモンを討つ人間「デモンスレイヤー」の二人が織り成す喧嘩ばっかりの旅のお話。
こちら、それっぽい世界観なのですが、バトルシーンはございません。
長い話となっておりますので、演じて下さる際には無理のない範囲でお楽しみくださいませ。
・声劇等で使用される際は作者名をどこかに表記またはどこかでご紹介下さい。作者への連絡は不要です。
・性別・人数・セリフの内容等変更可です。また演者様の性別は問いません。
・自作発言はセリフの変更後でもお止めください。
・アドリブ可。お好きに演じて下さいませ。
◆登場人物
エンジ:デモンスレイヤーの男性。口が悪くすぐ怒るが根はいい奴。言いたいことは言わないと気が済まない。叫び声多め。
ケンゴ:デモンスレイヤーの男性。真面目で高圧的。劇中の車の運転は彼がしている。「黒目」である。
チエリ:エンジの荷物持ち。明るく元気、天真爛漫。エンジの事が好きで、彼の事となると怖くなる
(以下本編)
**********************
◆P市 デモンスレイヤー集会所前
エンジ:…じゃ、行ってくるわ
チエリ:エンジ。ちゃんと、ちゃんとお話すれば分かってくれるはずだから
エンジ:ああ、わかってる。あんなに苦労したんだ。きっと職員だって分かってくれるさ
チエリ:うん、分かってくれる、分かってくれる。ファイトだよ、エンジ!
エンジ:ああ、今夜はきっと御馳走だ、楽しみにしてろよ、チエリ!
チエリ:うん!
エンジ:いくぜ!待ってろよ、金とメシ!
――――30分後
エンジ:…ただいま
チエリ:おかえり、エンジ!どうだった?
エンジ:…
チエリ:エンジ?
エンジ:…5万円
チエリ:え?なんて?
エンジ:…今回のデモン報酬、5万円だってさ
チエリ:ああー…
エンジ:なあ、チエリ。5万で旨いもん、食えるかな
チエリ:今月は儲けが少ないし、色々支払いもあるから、難しいかもね
エンジ:…
チエリ:…
エンジ:…はあ…
チエリ:エンジ…その…
エンジ:…ふッッッッッッッざけんなよ、あの野郎ォ!!
チエリ:ちょ、エンジ落ち着いて!
エンジ:全然分かってねえ!どんだけ苦労して!どんだけ歩き回って、あのデモンを見つけたと思ってんだ!山道を、3時間!3時間だぞ!?
チエリ:ちょ、ここ集会所の前だから!落ち着いて!
エンジ:あの職員すました顔で言いやがって!
5万だぞ5万!提示額からなんも加算されてねえ!
協会連中がスレイヤーを下に見やがってよお!これでどうやって生活してけっていうんだよ!
こりゃ違法だ違法!労働なんたら法とかの違法!
クソ協会がよお!金出せよ、渋ってんじゃねえぞコラァ!
チエリ:落ち着いて!集会所の人が、協会の人が見てるから!あんまり文句言ってるとスレイヤー免許はく奪されちゃうよ!
エンジ:お前は落ち着いていられるってのかよ!
5万で!5万円で!銃弾の費用とか、メンテ代とか、移動費までこっち持ちなのに!
こっちは命賭けてデモン退治してんのに!
チエリ:はいはい偉いね大変だね。まあ、あのデモン小さかったし弱かったし。その額で妥当かなーって感じでもあるけど
エンジ:妥当…くそ…もうデモン退治なんてしねえ!他の仕事就く!
チエリ:え、エンジ、デモンスレイヤー辞めちゃうの?
エンジ:協会の下で働くよりマシだ!
チエリ:できるの、他の仕事?
エンジ:ぐっ…!
チエリ:エンジはすぐキレるから、まともな仕事できなくて、それで落ち着いたのがデモンスレイヤーだよね?
エンジ:そ、それは…でも、今度こそは
チエリ:そのセリフ何回目?
エンジ:ぐ、ぐぅ…結局俺は、協会の言いなりになってデモンを狩り続けるしかないのか…
チエリ:そうだね。突然世界に現れた怪物「デモン」を倒さないと、また人々に災厄がもたらされるって、協会の人言ってたよね?
エンジ:んだよ災厄って…意味わかんねーこと布教すんなよクソ協会
チエリ:それは…デモンが人や街を襲うとか、そんなとこじゃない?
エンジ:その矢面に立たされてるのが俺たちデモンスレイヤーってか…くそ、これじゃ今日は宿とれねえな
チエリ:あ、それなんだけどエンジ
エンジ:あ?
チエリ:エンジを待ってる間に協会からメール来て、これを引き受けてくれたらボーナス出すって
エンジ:ボーナス…?デモンの討伐か?額によるな。10万円以下なら「舐めんな」って言って断れ!
チエリ:それが、そうじゃなくて、とあるスレイヤーと組んでほしいって
エンジ:はあ?組む?
チエリ:そう。名前はケンゴって言って、その人…
エンジ:冗談じゃねえ!相棒作ったらその分俺の取り分が減るだろ!チエリ、断っとけ!
チエリ:でも、この人と組んだら、これくらい出すって。ホラ、こんなに!
エンジ:これくらいって…どれどれ…
チエリ:これは引き受けた時に振り込まれる手当。それで、今後毎月このくらい支払うって
エンジ:とりあえず、野宿は避けられそうだな…だが額が変に多いな…何故だ?
チエリ:それが、このケンゴって人…「黒目」なんだって
エンジ:「黒目」?
チエリ:そう、デモン出現と当時に現れた突然変異の人間「黒目」どうする、エンジ?
エンジ:…この金
チエリ:え?
エンジ:この金、引き受けたらすぐ振り込まれるんだろうな?
◆次の日 P市内
エンジ:で。その「黒目」はいつ来るんだ?
チエリ:「黒目」じゃなくてケンゴさんね。もうすぐ約束の時間
エンジ:「黒目」って言えばあれだろ?デモンが出た頃にでてきた、真っ黒目の人間
チエリ:そう、白目の部分含め眼球が真っ黒に染まった人が「黒目」って呼ばれてる。
なんで人類の中に「黒目」に変異した人が出たのかは謎だけど…噂じゃデモンと関係があるかもって
エンジ:知ってるよ。デモンスレイヤーなら嫌でも耳にする話だ。で、その「黒目」をくっつけられたのは…
チエリ:多分、「黒目」が一人で行動するのは限界があるからじゃないかな。ほら、「黒目」って普通の人からは煙たがられてるし
エンジ:ほおん…あ、あの車じゃないか?メールにあった、赤の軽自動車
チエリ:ホントだ、デモンスレイヤー協会のステッカーが貼ってある。
エンジ:…止まったな。降りてくるぞ
ケンゴ:…ふう。
エンジ:おーおー、仰々しくスーツなんか着ちゃってまあ
チエリ:ケンゴは安さ重視の服だもんね
エンジ:ほっとけ。…本当に黒い目してんだな。サングラスでも掛けりゃいいのに
ケンゴ:…デモンスレイヤーの、エンジとチエリだな?
エンジ:おう
チエリ:まあ、私はスレイヤーじゃないんだけどね。荷物持ちだよ!
エンジ:それで、まあ…協会から説明あったと思うが、今日から俺がお前の…
ケンゴ:7・3だ
エンジ:…は?7・3…?
ケンゴ:君の今までの戦闘報告書を見せてもらった。
ハッキリ言ってまるでなっていない。行き当たりばったりの作戦、後先を考えない戦術。
どこを取っても稚拙なものばかりだ。君は今後僕の足手まといになる可能性が大いにある。
よってお守り・迷惑料を頂く。
デモン報酬の取り分は7・3。僕が7で君が3だ
エンジ:な…
ケンゴ:あと、報告書はもっと丁寧に書いた方がいいぞ。字の大きさがバラバラで読みづらい。
スレイヤーを続けるなら、先に字の練習をするべきだな
エンジ:は…
ケンゴ:手書きが嫌なら、僕みたいにキーボードを使うといい…失礼、その様子だと、パソコンを使う教養は持ってなさそうだな
エンジ:…ふッッッざけんなァ!!
チエリ:ああ、キレちゃった
エンジ:なんだテメエは!出会い頭に金の話とは随分とガメツイじゃねえか、ああ!?
ケンゴ:金の話はトラブルに繋がりやすい。最初に決めておくのが妥当だ
エンジ:ふざけんな「黒目」!こっちがお前のお守りしてやるんだよ!こっちが7だ7!
ケンゴ:僕の名前はケンゴだ。「黒目」じゃない!
エンジ:テメエなんざ「黒目」で十分だ!俺が7だ、テメエが3だ!
ケンゴ:君にそれ程の働きは期待できない。僕が7だ
エンジ:俺が7だ!
ケンゴ:僕が7だ!
エンジ:…チエリ、こいつとのコンビは解消だ!協会にもそう言っとけ!
ケンゴ:賛成だ、君のような低能と一緒だなんて御免だ。そもそも僕は最初から協力者など必要ない。一人でやっていける
エンジ:それができねえから協会が俺に押し付けたんだろうが!…おい、チエリ!
チエリ:いいけど…お金返せるの?
エンジ:へ?
チエリ:昨日振り込まれたお金。断るなら返さないといけなくなると思うけど…エンジ昨日、お酒ガバガバ飲んでたから、残ってないんじゃない?
エンジ:そ、それは…
ケンゴ:入った金をすぐ使いきるとは…低能を通り越して馬鹿なんだな、君は
エンジ:うるせえ!ちょっとは残ってんだよ!
ケンゴ:なんなら貸してやろうか?いくらなんだ?
エンジ:俺は借金はしねえんだよ!特にお前みたいなプライドの高いクソナルシストからはな!
ケンゴ:な…ナルシストだと!?訂正しろ!僕はそこまで慢心していない!
エンジ:ああ!?テメエが馬鹿って言った事を訂正しろや!
チエリ:はいはい分かったら二人とも落ち着こうね。で、どうするのエンジ?
エンジ:あ?
チエリ:お金返してケンゴさんとお別れするか、このままケンゴさんと一緒に行くか
エンジ:そ…それは…
◆移動中 車内
ケンゴ:…これは君の怠慢の結果に他ならない。君が考えなく金を使ったせいでこんな結果になったんだ。反省してくれ
エンジ:うっせえな!黙って運転できねえのか!
チエリ:ちょっと、車内で大声出さないでよ、うるさいんだから
エンジ:ちっ…それで。この車はどこ向かってんだ
ケンゴ:デモンの討伐だ。協会から直々に依頼があった…今朝メールしておいたはずだが
チエリ:私も、エンジには今朝言っておいたはずだけど
エンジ:…へいへい。憶えてなくて悪うございましたねえ
ケンゴ:…ところで、その、チエリさんも来るのか?
チエリ:え?私?
ケンゴ:今から行く所はデモンが暴れる危険な場所だ。女性が同行するのは気が引ける、というか…
チエリ:あはは、大丈夫だよー!私、危険なの慣れてるから
エンジ:そうだ。チエリは俺の荷物持ちなんだ。銃とか弾とか武器持ってんだ。居ないと困るんだよ
チエリ:居ないと、困る…えへへ…
ケンゴ:銃ぐらい自分で持て。だいたい、か弱い女性に荷物持ちをさせるその神経が理解できん
エンジ:ああ?いいんだよ、こいつがやりたいって言ってんだから、やらせとけば
チエリ:うん、私がやりたいんだ。それに、いざとなったらエンジが守ってくれるもんね?
エンジ:ああ…?ああ…
ケンゴ:変な関係だな…
エンジ:いいんだよ、チエリの事は!それよりお前、ちゃんと得物持ってんのかよ?
ケンゴ:気になるか?
エンジ:ああ、足手まといになられちゃ困るからな
ケンゴ:期待に沿えなくて申し訳ないが、このスーツの下に銃2丁、弾は5種類備えている。浄化弾も込みだ
エンジ:そうかい…それプラス、下に防護チョッキも着ておいた方がいいぜ。俺が盾に使ってやるからな
ケンゴ:それは遠慮させてもらう。チョッキを着てなくても頑丈で利用できそうな壁がいるからな
エンジ:ああ!?そりゃ俺の事かてめえ!
ケンゴ:壁の自覚があるようだな。実戦でもその調子で役立ってくれ
エンジ:ふざけんな、テメエが壁役やれ!
チエリ:はいもうストップ!どうして喧嘩するかなー
エンジ:…ちっ
チエリ:エンジ、さっきから舌打ちばっかり
エンジ:そうさせられてんだよ!…チエリ、今回の報酬は?
チエリ:えっと、提示額15万で、今回コアがあるデモンらしくて、コアを持ち帰ったら加算だって
エンジ:15万…二人で割ったら7万5千…
ケンゴ:おい、7・3を忘れてるぞ。僕が10万5千だ
エンジ:うっせえな!さっきチエリに半々にするって言われただろうが!これでも譲歩してやってんだぞ!?
ケンゴ:ほう、譲歩なんて言葉を知っているとは意外だ。君には似合わない言葉だがな
エンジ:てめえはイチイチ突っかからねえと気が済まねえのか!
チエリ:もー!二人ともやめて!今のはケンゴ君も悪いよ!
ケンゴ:ふん…口を開けば金の話ばかりだな、君は
エンジ:ああ?いいだろうが、金。有るに越したことはねえだろ?
ケンゴ:…デモンスレイヤーをしているのも金のためか?
エンジ:当然!いつか大物ぶっ倒して報酬ガッポリもらって、その後は贅沢三昧よ!
ケンゴ:しょうもない夢だな
エンジ:なんだとコラ!立派な夢だろうが!夢バトルするか夢バトル!
ケンゴ:何が夢バトルだ。チェーンソーマンの読みすぎだ!
エンジ:いいだろうがチェーンソーマン!面白いだろ!…あ?
ケンゴ:なんだ?
エンジ:…お前、漫画読むの?
ケンゴ:読んだら悪いか
エンジ:その目で?
ケンゴ:もしかして、この「黒目」で視えないとでも思っているのか?言っておくが僕の視力は4.0だ。視えてなければ運転もできないし、デモンを討つ事だって出来ん
エンジ:いや、そうじゃなくて…
ケンゴ:…意外か?「黒目」が漫画を読むのが
エンジ:…まあ…
ケンゴ:巷では化物の子分だの新しいデモンだの言われているが、僕たちはれっきとした人間だ。漫画くらい読む
エンジ:ああ…そりゃそうだよな…
ケンゴ:そうだ…僕たちは人間なんだ…
チエリ:…
◆Y市外 森林地域
エンジ:…あれが今回の標的か
チエリ:へえー!けっこう大きいねえー!2メートルくらいかな?
エンジ:バカ、声がでかい!もちょっと小さく喋れ!
チエリ:あ、ごめんなさい
ケンゴ:…よし、まずは君が前に出ろ
エンジ:はあ?なんだビビったのか?
ケンゴ:そうじゃない、君はデモンの前に出て、攻撃を引き付けて広い場所に誘い込むんだ
エンジ:はあ…?
ケンゴ:ここは障害物も多い。距離があると銃弾が木に当たってしまう可能性もある
エンジ:隠れながら近づいたらいいだろうが
ケンゴ:それまでデモンが気づかない保証はない。奴の索敵能力は未知だからな。広い場所に出たら僕が後ろから…
エンジ:ふっざけんな!そりゃ囮じゃねえか!
ケンゴ:ほう、よく分かったな。そうだ、陽動で敵を有利な地形の場所まで移し、致命傷の一発を狙う
エンジ:その間俺は危険に晒されながらデモンと追いかけっこってか!
チエリ:…ん?あ、あれ…?
ケンゴ:その方が君を有効利用できると踏んでの作戦だが?
エンジ:利用だと?ふざけんな、お前がやれ!お前が走って俺が後ろから撃つ!これで解決だ!
ケンゴ:報告書を読む限り君は精密射撃の腕は今一つだろう?適材適所という言葉を知らないのか?
エンジ:お前がただ怖くて卑怯な手使って終わらせたいってだけじゃねえか!
ケンゴ:なんだと!
チエリ:ちょ、ちょっと二人とも…!来てる、来てるってば…!デモンが、こっちに…!
(デモンがこちらに近づいてくる)
ケンゴ:いつも無策の君に戦略というものを教えてやっているんだ、ありがたく思え!
エンジ:全然ありがたくねえ!だいたい有利な場所ってどこだよ!お前この森のこと把握してんのかよ!
ケンゴ:それは今から探せばいい。君がその分時間を稼げば問題ない
エンジ:なんだそりゃ、穴だらけじゃねえか、その作戦!お前頭いい振りして実はバカなんじゃねえか!?
ケンゴ:なんだと!?馬鹿に馬鹿といわれる筋合いはない!
エンジ:うっせえバーカ!まともに作戦考えられるようになってから出直してこい!
ケンゴ:作戦を一つも練られない奴に言われたくないな!
エンジ:んだと!?
チエリ:ふ、二人とも!あっち見て!あっち!
(デモンが至近距離で腕を振り上げている)
エンジ:テメエが囮やれ!
ケンゴ:断る!君が囮だ!
チエリ:やばい!デモンがこっち見てる!攻撃してくる!逃げて!
エンジ・ケンゴ:(同時に)黙ってろ!!
(二人が同時に撃った弾丸がデモンの眉間を貫通する)
チエリ:え…あれ…一撃…?
エンジ:…
ケンゴ:…
チエリ:たまたま弱点に当たって、仕留められたみたい…その、15万のデモン…
エンジ:…マジか…
ケンゴ:…
チエリ:…すごいよ、二人とも!タイミングも狙った場所もばっちりだったし!もしかしたらいいコンビなのかも!
ケンゴ:…たまたま運が良かっただけだ
エンジ:ま、何はともあれ、討伐完了だな!チエリ、協会に写真と座標送信!
チエリ:りょーかーい!…あ、エンジ
エンジ:なんだ?
チエリ:今の銃撃で、コアが粉々に粉砕しちゃったみたい…
エンジ:…ということは…
ケンゴ:…加算分は無しか…
◆Y市 ホテル ロビー
エンジ:今回の報酬、振り込みは明日あたりかな…
ケンゴ:協会の人工衛星が空気中のデモン粒子濃度を観測する。それぐらいは掛かるだろうな
エンジ:なんでデモンの死体って消えちまうのかな。死体処理には困んねーけど…
ケンゴ:化物のことなど知るか
チエリ:…ホテルの受付、終わったよ
エンジ:おう、サンキュな
チエリ:終わったんだけど、その、一つ問題があって…
エンジ:問題?
チエリ:その…怒らないで聞いてね?えと、その…ホテルの人が、ケンゴは泊められないって…
エンジ:はあ?なんでだよ?お前ブラックリストにでも載ってんのか?
ケンゴ:…
チエリ:えーっと…ホテルの人が言うには…その…
ケンゴ:「黒目」は泊められない、か?
チエリ:…っ!
ケンゴ:「黒目」は不明点が多い。デモンと関係があるんじゃないか、もしかしたら急に暴れだすんじゃないか…店主はそんな心配をしているんだろう
エンジ:なんだそりゃ!?ただの言いがかりだろうが!
ケンゴ:だが得体の知れないものを恐れるのは人間として正しい行動だ。気持ちも分かる。実際、今まで似たような事が多くあったからな
エンジ:似たような事って…まるで、これじゃ差別じゃねえか…
ケンゴ:チエリ、僕は大丈夫だ。車で寝る。君たちは部屋で休め
エンジ:…おい、車のシートで寝ても疲れ取れねえだろ?風呂とか着替えとかどうすんだ?
ケンゴ:どうにかする
エンジ:どうにかってお前…ああもう分かった!俺が話つけてやる!
ケンゴ:は?
エンジ:そこで待ってろ!
…おい、おっさん!やっぱコイツも泊めてくんねーかな?俺たちデモンの討伐終わったばっかで疲れてんだわ。
もしかしてアイツが暴れるとか心配してんのか?大丈夫だって、いざとなったら俺がぶん殴ってやっから!
俺デモンスレイヤーなんだよ、ホラ、スレイヤー免許。な?頼むって!
ケンゴ:あいつ…
チエリ:意外といい奴でしょ?
ケンゴ:え?
チエリ:あんなに口悪いけど、根はいい奴なんだよ、エンジって
ケンゴ:まるでずっと見てきたかのような言い方だな
チエリ:え?ず、ずっとって、そりゃあ子供の頃からの付き合いだけださ…
ケンゴ:…微笑ましいな
チエリ:もう!からかわないでよ!
エンジ:…おーい!やっぱ泊まっていいってさ!
ケンゴ:あの説得で押し通せたのか…
エンジ:じゃ、一部屋借りるって事で、いいよな?
チエリ:え?…え、えええええええ!?
エンジ:なんだよ騒がしいな!
チエリ:一部屋って、私も一緒の部屋!?
エンジ:そうだよ、二部屋にしたら金が勿体ないだろ?今までもそうだっただろうが
チエリ:それは、エンジとは昔から一緒だったし…でも今回はケンゴ君もいるんだよ!?
ケンゴ:え…僕?
チエリ:一緒の部屋なんてありえない!恥ずかしい!二部屋にして!
エンジ:いいだろうが別に、ケンゴも気にしないだろ?
ケンゴ:え…いや、えと…
チエリ:絶対無理!断固反対!
エンジ:うるさい奴だな…お前みたいなちんちくりん、誰も女として見てねえよ、なあ?
チエリ:なッ…!
ケンゴ:お、おい、さすがに今のは…
チエリ:………。…ふーん…そっかあー…。エンジは今まで私を女として見てなかったんだぁ…。…じゃあさぁ…エンジは私の事、一体どう見てるの…?どう思ってるの…?
エンジ:あ?…どうって…その………荷物持ち?
ケンゴ:お、おい!
チエリ:ふーん…そっか…そうだね…そうだよね…。今まで一緒の部屋に何度も泊まったのに、全然襲ってこなかったもんねェ…
エンジ:襲うってお前…俺とお前はそういうんじゃないだろ…?
チエリ:…切れた
エンジ:え?何が
チエリ:だったら!嫌でも私の事、女として見るようにしてあげるよッ!!ホラ、部屋番号教えて!どこ泊まればいいって!?
エンジ:あ、ちょ、痛い、引っ張んなって…
チエリ:そこで!私が!女だって!目に焼き付けてやる!ほら、グズグズすんな!さっさと足動かせ!いいから来い!!
エンジ:あ、ちょ、痛い、指が食い込んでる!痛い!ちょ、ケンゴ、助けて…
チエリ:今夜は忘れられない夜にしてやるんだから…!
ケンゴ:…あー…店主、やはり部屋は二つで
◆翌日 移動中 車内
(チエリはエンジの腕にしがみついている)
エンジ:…
チエリ:…ふふっ。ふふんっ、ふんふふーんっ
ケンゴ:…昨日はお楽しみだったな
エンジ:…
ケンゴ:昨日はお楽しみだったな
エンジ:二回も言わなくていいんだよ…
ケンゴ:失礼、聞こえてないと思ったんでな。その…昨夜は凄かったな。主に、君の悲鳴が
エンジ:お前さ…猪に襲われたことある?
ケンゴ:いや…ないな
エンジ:昨日まで荷物持ちだと思ってたのに、自分の下半身に向かって突撃してくる猪に襲われたことある?
ケンゴ:…ないな
エンジ:体当たりの勢いそのままに、俺のズボン引っぺがしてくる猪に…
ケンゴ:もういい分かった。僕が悪かった!その話はもうしないでくれ!
チエリ:ふふっ!これで、私とエンジは、男女の関係だね!恋人同士だねえ!
エンジ:あー…そうだね
ケンゴ:おめでとう
チエリ:ありがとう!
エンジ:全然めでたくねえんだよ…
チエリ:…え?なんだって?
エンジ:…なんでもございません
ケンゴ:恋人は大事にした方がいい。でないと後ろから刺されかねんぞ…彼女なら
エンジ:分かってるよ…
チエリ:えー?なんの事だろ?私には難しい話ダナー。ま、刃物ならエンジの武器で私持ってるけど
エンジ:さりげなくアピってきてるよ…。そういやお前さ
ケンゴ:なんだ?
エンジ:恋人とかいねえの?
ケンゴ:…いるわけないだろ
エンジ:は?なんでだよ
ケンゴ:僕は「黒目」だ。余程の事がないと人は寄ってこない。恋人どころか友人を作るのも難しい
エンジ:…そうか。もしかしたら待ってくれてる奴がいるかもと思ったんだがな
ケンゴ:言っておくが同情は無用だ。僕は一人の方が好きだし、強い。実際「黒目」の身体能力は普通の人間の倍はあると研究結果がでて…
エンジ:て事はお前、童貞か!
ケンゴ:な!
エンジ:そうかーお前未経験なのかー。そかそか、可哀そうになー
ケンゴ:なんだ可哀そうって!僕は平気だ、何も負い目を感じてはいない!
チエリ:私も昨日まで処女だったよ?
エンジ:……。へ、へえ。そ、そっかあ…。じゃなくて!お前、実はさ、気にしてるんじゃないのか?その歳で初めてなんですーって、言うの恥ずかしいとか思ってんだろ?
ケンゴ:お、思ってない!それに、そ、そういう事は結婚を決めた相手にするものだ!そんな簡単にできる事では…
エンジ:はーっ!かったいなー!なんなら女紹介してやろうか?ほら、俺のスマホのディスプレイ見てみ!コイツなんかいい体してて
ケンゴ:運転中だ、変なものを見せようとするな!
エンジ:なんだよ連れねえなあ、じゃあこっちの女にするか?こいつも胸はでかいけど性格が…
チエリ:そのオンナ誰?
エンジ:はっ…!
チエリ:ねえ、その女誰?スマホに並んでるその女たち誰?すごい数だけど
エンジ:これは…これは、仕事上での付き合いというか、知り合ったというか…
チエリ:仕事上で会う人は私を通してるはずでしょ。エンジ交渉とかできないんだから。それにしては数が多いみたいだけど?
エンジ:えーっと…これは、その…
チエリ:私に隠れて会ってたんだ…夜、居なくなる事が時々あったけど、夜の街に繰り出してたとか、そういう事?
エンジ:い…いいじゃねえか!知り合ったって言っても、お前と、その、やる前の事だぜ?ノーカンだろノーカン!
チエリ:でも私も一緒に旅してた時なんだよね?許せない…私というものが居ながら、他の女に手を出してたんだ…!
エンジ:て、手ェ出すって、人聞き悪いな!いや、そりゃ寝た女だっているけどよ?でもそれを言われるのはさすがに違うだろ?
チエリ:違う?だったら私と寝ればいいじゃない。なのに他の女の所に行くなんて、浮気って言ってもいい事だよね?
エンジ:いやさすがに無理あるって!お前より女らしい女がいたら、そりゃ声かけたくなるだろ!?
ケンゴ:あっ…馬鹿!
チエリ:………カッチーン…
エンジ:え…あれ、俺、やばいスイッチ押しちゃった?
チエリ:どうやら…もう一度、私の事を知ってもらった方がいいみたいだね…!
エンジ:え、いや…チエリ?どうした?顔が怖いぞ?
チエリ:だったら!もう一度体に叩き込んであげるよ!おりゃあ!
エンジ:…うわ!押し倒すな!お、おい、車の中だぞ!?
チエリ:もう一回その目に見せつけてやる!さあ、見ろ!胸が小さくたって、いい体じゃなくたって!確かめ合うことはできるって教えてやる!おらああああ!!
エンジ:ちょ、やめて!ここでは、やめて!ヤダ、服つかまないで!
ケンゴ:…いい加減やめろ!!脱がすな!脱ぐな!こんな時間から、するなーーーー!!!!
◆X市外 岩場
エンジ:…
ケンゴ:君、そんなに顔色悪かったか?
エンジ:うるせえよ…
チエリ:エンジ、お薬でも飲む?
エンジ:誰のせいだよ結構だよ…んで?今回のデモンの報酬は?
チエリ:えっと、50万円だよ、エンジ
エンジ:へえー50万…50万かぁー…。…50万?50万!?
チエリ:わ、びっくりした
エンジ:50万って!?急に高額賞金首にご対面じゃねえか!
ケンゴ:何を驚いているんだ。朝言っただろう。…まあ、今朝の君は覇気のない様子だったが
チエリ:この近くの町が観光地でね?デモンがこの岩場にすみ着いてから、来客数がガクンと減っちゃったんだって。で、今回の報酬には町の人の依頼金なんかも含まれてるの
エンジ:マジかよ50万!で、その50万は何処にいるんだ?オイ出てこい50万!
ケンゴ:金額ではなくデモンと呼べ
チエリ:でも大丈夫かな?50万円ともなると強いデモンが来ちゃうんじゃ
ケンゴ:…ああ、きっと大きな図体をしているんだろう
エンジ:…!
チエリ:ちょっと、ケンゴ君、脅かさないでよ…
エンジ:それも、何体もいたりしてな
チエリ:エンジまで、何を…え…あっちから来るのって…嘘、あんなに…!?
ケンゴ:チエリ、君は下がって、そこに隠れるんだ
チエリ:う、うん!頑張ってね、二人とも!危なくなったら逃げるんだよ!
エンジ:逃げねえよ…せっかくのお宝と巡り会えたんだ。さあ、出血大サービスだ!たらふく弾丸食わせてやるよ!!
◆移動中 車内
エンジ:…っはあ~~~~っ、疲れたあ~
チエリ:お疲れ様、二人とも!
エンジ:チエリ、水!
チエリ:はい、お水
エンジ:サンキュ…んぐっ…はあ~旨え~
ケンゴ:水ぐらい自分で出せ
チエリ:いいよ、私は荷物持ちなんだから
エンジ:そうだよ、好きでやってんだからいいんだよ
ケンゴ:それが自分の首を絞めてるのが分らんのか…
チエリ:え?何が?
ケンゴ:何でもない…
エンジ:つうか多かったな今回のデモン。全部で何体だ?
ケンゴ:5体だ
エンジ:そんなにかよ!そりゃキツイわけだ。今回の報酬って1体50万だっけ?
チエリ:いや、全部で50万円だよ
エンジ:マジかよケチィな!全部ヤったんだからご褒美あってもいいだろ!
チエリ:それはどうだろ…でも、町の人たちからは何かあるかもしれないね
ケンゴ:え?
チエリ:だって、町の人はデモンに迷惑してたんでしょ?観光客が減って困ってるって。これで原因は除いたわけだし、もしかしたらお礼とかもらえるかも!
エンジ:マジかよ、ご馳走か!?
チエリ:可能性はあるんじゃない?観光地なんだし、おもてなししてくれるかも!歓迎ムードって感じで!
エンジ:おおお!さすが観光地!旨いもんもメチャメチャ揃ってるに違いねえ!デモン様様だな!
ケンゴ:あんなものに感謝の意など示すな
エンジ:じょーだんだよ。でも楽しみだよなー、豪華なホテル!豪華なメシ!豪華な酒!
チエリ:あんまりはしゃぎすぎないでよね…でも楽しみ。温泉とかあるのかな
ケンゴ:…あると聞いているが
チエリ:ホント!?やったあ!長風呂しーちゃお!お肌ツルツル~
エンジ:なんだよ何でそんなこと知ってんだよ。ひょっとして調べてたのか?
ケンゴ:…調べたら悪いか
エンジ:全っ然悪くねえ!楽しみにしてたんじゃねえかよお前。よし、特別に俺が背中流してやるよ、光栄に思え!
ケンゴ:せんでいい!自分でできる!
エンジ:なんだよー照れんなって!
ケンゴ:照れてない!
チエリ:ふふ…
◆X市 街中 ホテル前
ケンゴ:…
エンジ:…フゥーーーー…
ケンゴ:…でかい溜息だな
エンジ:ただの深呼吸だよ…なあ、俺たち、ここの奴らが迷惑だって言ってたデモンを倒してきたんだよな?
ケンゴ:…そうだな
エンジ:歓迎ムードで出迎えてくれるはずだよな?
ケンゴ:…本来ならな
エンジ:なら、この扱いはなんだよ!?ホテル一室も取れねえって何なんだよ!町の奴らの冷たい視線なんなんだよ!
ケンゴ:どう見ても歓迎ムードじゃないな
エンジ:ちっ…遠くからチラ見してきやがって。見せもんじゃねえぞ…
チエリ:…エンジー!ケンゴ君ー!
エンジ:お、やっと戻ってきたか
チエリ:お待たせ…やっぱり、このホテルもダメだって
エンジ:はあー!?ありえねーって、なんで締め出し喰らわなきゃなんねーんだよ、俺たちは客で英雄だぞ!
チエリ:英雄って…
エンジ:そりゃそうだろ!デモン倒してきてやってんだぞこっちは!そのスレイヤーを邪魔者扱いできるか普通!?
ケンゴ:…やはり、僕が原因のようだな
チエリ:…っ!
エンジ:はあ?
ケンゴ:町の人達は僕の「黒目」を見て警戒しているんだろう。今までデモンの脅威に晒されていたんだ、その繋がりがあるかもしれない「黒目」に近づきたくはないんだろう
エンジ:またそれかよ…
ケンゴ:それにここは観光地だ。「黒目」に居られては客足にも影響する。そういう懸念もあるのかもしれない
エンジ:はあ!?あんだそりゃ、助けてもらっといて、そりゃねえだろ!商売より優先するモンあんだろうが!
ケンゴ:あくまで予想だ。…さて、僕は車で寝る。2人は別のホテルを当たってみるといい。2人だけなら泊めてもらえるかもしれない
チエリ:そんな、ケンゴ君だって疲れてるでしょ?汗もかいたし、温泉だって楽しみにしてたのに
ケンゴ:適当にシャワーでも探すさ。チエリだって疲れてるだろう?ゆっくり休むといい
エンジ:…。あのよ、ケンゴ
ケンゴ:なんだ
エンジ:気にすんなよ
ケンゴ:…!
エンジ:なんつーか、皆さ、デモンが急に出てきて、おかしくなっちまってるんだよ。だから…
ケンゴ:…気にするな?君は僕が「黒目」の事を気にしていると言いたいのか?
エンジ:あ?いや…
ケンゴ:気にもするだろう!!
エンジ:…!
ケンゴ:こっちは、何事もなく、罪も犯さず暮らしていたのに!
デモンのニュースが流れたかと思ったら、気づけば目が黒く染まって!
それだけで!
それだけで周りはみな犯罪者扱いだ!差別なんてものじゃない!居てはいけない、生きてはいけないと目で訴えてくる!
分かるか?昨日まで友人と思っていた連中は皆離れた!
恐れるように、触れないように、見ないように!僕は瞬く間に孤独に落とされた!
…僕が何をしたっていうんだ…!!
エンジ:…
チエリ:ケンゴ君…
ケンゴ:…どうせ君たちも、僕の事を恐れているんだろう?
エンジ:…あ?
ケンゴ:他の奴らと同じように、いつかは離れるんだ。今だって嫌々僕に付き合っているんだろう
チエリ:そんな…
ケンゴ:僕は珍しい「黒目」のデモンスレイヤーだからな、協会が放っておきたくないのも分かる。君達も協会に言われて仕方なく僕に付き合っているんだろう!?
あんまりだ、こんな運命…!
エンジ:…
ケンゴ:君なら…もし君が「黒目」なら、こんな状況、気にせずにいられるのか…?なあ…?
エンジ:…
チエリ:そ、そのケンゴ君…
エンジ:…気にしないね
ケンゴ:…何?
チエリ:ちょ、ちょっとエンジ
エンジ:俺は元々捨て子だったからな。そういう目には慣れてるんだよ。こっちのチエリもな
ケンゴ:…
チエリ:エンジ…
エンジ:なあお前、ちょっと気にしすぎなんじゃないか?「黒目」の事、必要以上に負い目感じてるように見えるぞ、俺には
ケンゴ:何を…
エンジ:気に入らなきゃ殴っちまえばいいんだよ。気に入るならそのまま、気に入らないなら殴る。そういう判断基準でいい
ケンゴ:そんな単純に…
エンジ:単純でいいんだよ。
旨いもんは旨い。痛いもんは痛い。好きなもんは好き。難しく考えるからドツボにハマるんじゃね?
気の向くまま。楽しいならやり続ける、ムカつくんならぶん殴る。
俺はそうやって生きてきた。お前もそうしたいんじゃないか?
ケンゴ:…
エンジ:ま、無理にとは言わねえけどよ。チエリ、行くぞ
チエリ:え?行くって何処へ?
エンジ:あのホテルに再トライするんだよ。見せてやんよ、俺の交渉術
チエリ:あ、行っちゃった…えーっと…待っててね、ケンゴ君、ぜったい部屋とってくるから!待ってよエンジー!
ケンゴ:…
◆翌朝 ホテル内 ロビー
ケンゴ:…おはよう
チエリ:あ、ケンゴ君おはよう。よく眠れた?
ケンゴ:…まあ、まあ…よくホテルの部屋なんて取れたな
チエリ:まあ、エンジの説得のおかげかな。
ケンゴ:…なにを言ったんだ、奴は
チエリ:えと…次にデモンが出ても、デモンスレイヤーは派遣させないように協会に話すって言ったら、まあ、渋々とだけど泊めてくれたよ
ケンゴ:つまり、脅迫したって訳か
チエリ:それでも、温泉やご馳走にはありつけなかったけどね
ケンゴ:そこまで行くと、さすがに申し訳ない…それで、当の本人はどこに?
エンジ:――――おいっ!そりゃねえだろうが!!
チエリ:…あっちみたい
ケンゴ:朝から騒がしい奴だ…
チエリ:…どうしたの?エンジ
エンジ:チエリ!ケンゴも!おい聞いてくれよ!このオッサン、レストランに入れてくれねえっていうんだよ!
ケンゴ:…
チエリ:朝ごはん、食べたかったの?じゃあコンビニにでも行って…
エンジ:バカ!お前せっかく観光地のメシ食べれるかもしれねえんだぞ!?引き下がれるか!おいオッサン、頼むから入れてくれよ!
チエリ:ええと、なんで入れてくれないんでしょうか…?
エンジ:…はあ?「黒目」の連れは入れられない?他の客の迷惑?んだよ、馬鹿の一つ覚えかよ!揃って「黒目」「黒目」って!
ケンゴ:…
エンジ:あのなあ!昨日ここのデモンを潰したのだって、ここの「黒目」がやってくれたんだぞ!恩を仇で返すのがここの連中のやり方かよ!
ケンゴ:…
エンジ:それでも「黒目」は入れられない?もうデモンに関わりたくない?だからよお、「黒目」とデモンは関係あると決まった訳じゃ…
ケンゴ:おい
エンジ:あ?
ケンゴ:…うおおおおおおッ!!
エンジ:ぶっ!…ぐおわああああ…ッ!!
チエリ:…。……エンジが、ふっ飛んだ………へ?な、なんで?なんでエンジを殴ったの、ケンゴ君!?
ケンゴ:気に食わなかったからだ
チエリ:え、ええ?
ケンゴ:昨日言ったな。気に入らなければ殴ればいい。その言いつけにならって、僕も気に入らないものは殴ることにした
ケンゴ:しかし、一般市民を殴るには心が痛む。なので…「お前」を殴ることにした。エンジ
エンジ:…
ケンゴ:今後、理不尽、気に入らない目に遭ったら、お前を殴る。お前が言い出したことだ。拒否権はないと思え
エンジ:…。…俺が昨日話したのは、気に入らない奴を殴れって意味だったんだが
ケンゴ:そうだな。知っている
エンジ:…そんなヒネた考え方が通用すると思ってんのか…?
ケンゴ:普通なら無理だろう。だが僕もお前も普通じゃない。よってその道理は通さずともいいだろう
エンジ:…へえー。そうかい。よく分かったよ…
エンジ:…ふッッッッッッッざけんなああああああーーーーッ!!
ケンゴ:ぐはっ…!
エンジ:テメエエエ!!ちょっと優しくしたら付け上がりやがって!おら立てやボケナス野郎!ここでキッチリ片付けてやる!
チエリ:ちょ、ちょっと…!
ケンゴ:…ちっ、勢い任せの殴り方だな。僕がここで格の違いを教えてやる。来い、能天気馬鹿が
エンジ:うっせえ唐変木!その顔ガタガタにしてやる!おらああああ!
ケンゴ:ぐふっ!…さっさと大人しく膝をつけ馬鹿が!おおおおお!
チエリ:ちょっと!ここ店の中!
エンジ:ぐおっ…!いいブロウ打ってくるじゃねえか…!これならどうだあ!
ケンゴ:があっ!
チエリ:高そうなテーブルが!
ケンゴ:…まだ、倒れないぞ僕は…!おおおおあああ!
エンジ:ごはっ…!
チエリ:高そうな食器たちが!
エンジ:てめえみてえな悲劇背負ってますって奴が、一番鬱陶しいんだよ!おらああああ!
ケンゴ:がっ…!
チエリ:高そうな絵画が!
ケンゴ:背負って悪いか!事実悲劇なんだ、こっちは!
エンジ:めんどくせえんだよブタ野郎!部屋の隅でぶーぶー鳴いてやがれ!
ケンゴ:お前は隅で大人しくしていろ!キャンキャンと吠えてやかましい奴!
エンジ:うおおおお!
ケンゴ:おおおおお!
チエリ:椅子が!照明が!ウエイターさんが!あああ…二人とも、お店で暴れるのはやめなさーいっ!
◆…1時間後 ホテル前
チエリ:…頭冷えた?
エンジ:…チッ…
ケンゴ:…
チエリ:レストランで喧嘩して、あんなに暴れて、追い出されて…協会になんて言われるかな…
エンジ:いやチエリだって見てただろ?最初に手を出したのはコイツで
ケンゴ:いや、過剰な暴力を返された。この場合はそっちから謝るべきだろう
エンジ:はあー!?てめえ、その図々しい口閉じねえとぶっ潰すぞ!
ケンゴ:やってみろ、その図々しい神経を叩きなおしてやる!
チエリ:ストップっ!!これ以上続けるとこの町からも追い出されちゃうよ!
エンジ:…ケッ…
ケンゴ:…
チエリ:…で、もう一つ。残念なお知らせがあります
エンジ:…残念なお知らせ…?
チエリ:さっき暴れたレストランの修繕費なんですが、どうやら高く付きそうです
エンジ:えっ…てことは…?
チエリ:昨日稼いだ50万円、もしかしたら弁償代でなくなっちゃうかもってこと
エンジ:はあ!?ふざけんな、コイツに払わせろ!テメ車でも売っ払って弁償しろ!
ケンゴ:お断りだ、だいたい店の備品を多く壊したのはお前だ!お前が全額払え!
エンジ:んだとやるかコラァ!
ケンゴ:望むところだ馬鹿が!
チエリ:あーもーー!!だから喧嘩はやめなさーーーーい!!!!
(終わり)
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