真っ赤なリップをつける

新型コロナウイルスの影響で、外出時は必ずマスクをつけるような生活が続いている。
マスクを外すのは、やむを得ず家の外で飲食するときくらいである。
つまり、基本的に口元が人目に晒されない生活を、この数か月送っていることになる。

私は濃い色のリップが好きだ。赤、紅、ワインレッド、こんな色のリップをつけるのが好きだ。こういうリップをつけると、なんだか強くなった気がして、気分が上がるのだ。
私の職場は、服装や見た目に縛りがない。どこぞのヤンキーに空目するような上司(仕事はできる)もいれば、これから走りに行きますと言わんばかりの服装の上司もいる。Tシャツにジーンズを着ただけの先輩や、割と奇抜な総柄シャツの上に原色のカーディガンを羽織る同期もいる。入社して3日と経たない内に、「まだスーツ着てるの?私服でいいのに」と言われるような会社である。退勤後に推し事に直行するからといって、少し派手目なネイルをしていた時も、何も言われなかった。
社外の人と会うときは、多少なりとも気を遣うが、そのような機会もそこまで多くはない仕事をしている。

とはいえ、心情的に、真っ赤なリップつけていくのは若干気が引ける。赤いリップをつけて出社するときは、いつも限界までティッシュオフしたり、かなり慎重にぼかしている。

でも今はマスクをつけている。
他人に口元が見られない状況で生活している。
マスク生活が始まって、最初のころ、マスクで口元が見えないからと理由をつけてリップというリップを塗っていなかった。かろうじて塗っていたのは、色付きの薬用リップといったところだろうか。
しかし、逆に言えば、マスクで口元が見えないのだから、どんなリップを塗ったって他人にはわからないのだ。
マスク生活から少し経ったある日、はちゃめちゃに仕事に行きたくなかったその日、マスクの下に真っ赤なリップを塗って出勤した。好きなリップを塗った高揚感や強くなったような感覚を得て、なんでもない普通の日よりも仕事が捗った。
最高じゃん。マスク生活も悪くないなと思った。

真っ赤なリップを塗る。気分が上がる。強くなる。
私は今日も、好きなリップの上にマスクを被せて外に出る。

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