【フリー台本:5〜6人用】『名探偵の弟子』
【登場人物】()の中身は台本上の表記
探偵(探偵)
弟子(弟子)
女性(女性)
医者(医者)
若い男:(若男)
警官(警官)※兼ね役でも可能
【名探偵の弟子】
探偵:『今日皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。犯人は……この中にいる!』
弟子:「……えーっと、改めまして皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます」
探偵:『はっはっは、師匠の決め台詞に対して一切反応を示さないとは!流石、名探偵である僕の弟子ですね、キミってば』
医者:「そういう前置きはいいですから。どうして私達がここに集められたのか、説明してもらえるかな?」
若男:「そうだよ、用事があるなら早くしてくんない? 俺は早く、自分の部屋に戻りたいんだけど」
女性:「ま、まあまあ、皆さん落ち着いて。彼だって、考えもなくわたし達を集めたわけでは無いでしょうし、ひとまずお話を聞いてみませんか?」
探偵:『ああ、お優しい言葉をありがとうございます。では早速お話しさせていただきましょうか』
弟子:「ありがとうございます。じゃあ、俺から説明させてもらいます」
弟子:「皆さんが知っての通り、今日の朝、死体が発見されました。死因は失血死。誰かに胸をナイフで刺されて、そのまま息を引き取った。ですよね、ドクター」
医者:「ああ。死体の調査は過去に専門としていたが、その見解に間違いはないと言い切れる。自分で刺したとするならば、あんなふうにはならないはずからね」
探偵:『確かに、ずっぷり刺さってましたねぇ。よほどの恨みでもあったんでしょうか』
弟子:「つまり被害者は、何者かに殺されたってことですよね」
医者:「……ああ。そういうことに、なってしまうな」
若男:「だーかーらー、今朝その死体が見つかったから、警察を呼んで、それが来るまで俺たちは部屋に居ようって、そういう話だったよな?」
女性:「はい。昨日の大雨の中、土砂崩れで道が塞がれてしまって、それで到着が遅れてしまうと警察の方は言っていました。到着までは、それぞれ部屋で待機しているように、とも」
若男:「この場所にいるメンバーの顔ぶれは変わっていない、調べた限り、外から侵入された様子もない」
探偵:『つまり、犯人はこの中にいる、というわけです!』
若男:「その答えはわかりきってんだろ?だから警察が来るまで、おとなしく部屋で待っていようって話になったのに、なんで俺たちはこんなところに集められたわけ?」
探偵:『それはですね、先ほども僕が言った通り——』
弟子:「犯人が、わかったからです」
若男:「……はぁ?」
医者:「犯人が?」
女性:「ほ、本当ですか?」
探偵:『ええ、もちろん。真実は初めから、僕の手の内にありましたとも』
弟子:「はい。調べた結果、確かな答えにたどり着きました」
探偵:『……さて、今回だけは特別に譲ってあげましょう。さあ我が弟子よ、この場にふさわしいあの言葉を、犯人に向けて、思いっきりぶつけてやりなさい!』
弟子:「犯人は……あなただ!」
若男:「……は、俺?」
弟子:「今日の朝見つかった、ナイフの刺さった死体。あの人は、あなたが殺したんだ」
若男:「……いやいや、ちょっと。突然何を言い出すんだよ。俺が犯人? 証拠はあるわけ?」
弟子:「もちろん、ちゃんとあります。あなたが犯人だっていう証拠が」
若男:「だったら見せてみろよ!その証拠は誰が握ってるっていうんだ!」
探偵:『証拠を握っていたのは、あなたの殺した死体ですよ』
弟子:「ドクターの調査が終わった後、俺自身の手で、もう一度死体を調べてみたんです。そして、殺された被害者の、固く握られた拳の中に、証拠を見つけました。この血まみれのボタン、昨日着ていた、あなたのシャツのボタンですよね?」
若男:「なっ——」
探偵:『ふふん、殺人犯ともあろう者が、どうしようもなく初歩的なミスを犯しましたね。まあ、現場ではひどく焦っていたようですし、争っていた中でボタンが外れてしまったのでしょう。殺された人間は、それを死んでも離すことなく握っていた、というわけだ。探偵の仕事としてはいささか簡単すぎる事件でしたが、まあ、計画的ではない殺人事件なんて、こんなものでしょうかね』
若男:「ち、ちがう。俺じゃない。俺は殺してない!」
弟子:「だったら、その証拠を見せてください。あなたが犯人じゃないのなら、昨日着ていたシャツのボタンは、全部揃ってるはずですよね」
若男:「か、勘違いだろ。だって、他のヤツらも、ボタンのついた服を着てたじゃないか」
弟子:「確かにそうでした。でも、黒いボタンの服を身につけて居たのは、あなただけだった」
若男:「そんな……ちがう、違う。俺じゃない、俺じゃない……!」
弟子:「理由を、教えてください。どうして、どうして……
弟子:「——あの探偵を!僕の師匠を、殺したんですか!」
探偵:『……はあ、やれやれ。会話に混ざるふり、と言うのもなかなか難しい。誰も僕の言葉に、返事をしてくれないんですから。幽霊探偵というのも悪くないかと思ったけれど、いやはや、やっぱり『死んでしまう』というのは、寂しいものですね。……おや?』
若男:「——くそっ!」
女性:「きゃあっ!」
弟子:「おい、何を!」
若男:「動くな!次は彼女を殺すぞ!」
医者:「その血まみれのナイフ、まさか本当に……!」
女性:「……や、やめてください、こんな……」
若男:「おれは、俺は最初からこうするつもりだったんだ。……ねぇ、本当に覚えてないの?俺は昔、あなたに会ったことがあるのに。中学生の時に、誰にも相手にされなかった俺を、独りだった俺を、先生は優しく受け入れてくれた。俺の眼を見てくれた、俺の話を聞いてくれたじゃないか」
女性:「……!あなた、もしかして10年前の、あのとき私が勤めてた中学校にいた……!」
若男:「やっと思い出してくれた?そう、俺だよ、先生。先生と離れ離れになったあの日から色んなことがあって、見た目はだいぶ変わっちゃったけど、でもそんなことは関係ない。先生は俺の中身を見てくれた。心を見てくれた。だから、ここで初めて会った時、俺は本当に嬉しかった。もう一度先生に会えたことが、本当に嬉しかったよ。……でも、貴女は俺のことなんて、覚えていなかった。貴女に「初めまして」って言われたときの、俺の絶望がわかるか?俺は悲しかった、苦しかった。俺を覚えていない貴女に憎しみさえ覚えた!俺を覚えていない貴女なんて必要ない、この世にいてほしくもない!だから、殺してしまおうって、殺してやろうと思ってたのに……あの探偵が!」
弟子:「……師匠が!?」
若男:「あいつが邪魔をしたんだ!あの夜、先生の部屋に向かう俺にしつこく話しかけてきて、それでっ、俺は殺すつもりなんて無かったのに!あいつが、全部あの探偵が悪いんだ!」
医者:「そんな……」
弟子:「それで、師匠を……」
若男:「ねえ、先生。先生は俺のことを救ってくれた。俺の話を聞いてくれて、俺のことをちゃんと見てくれた。俺のことを肯定してくれた。なのに——なのに!どうして!どうして俺のことを覚えていないんだ!……そりゃあ確かに、昔と比べて姿は変わったさ。でも、それだけじゃないか。見た目なんか関係ない。先生は、ちゃんと俺の内面を見ていてくれたじゃないか。それなのに——見た目が変わっただけで俺のことがわからなくなるなんて、そんなのは先生じゃない!あんたはもう、俺を救ってくれた先生じゃないんだ!だからここで殺してやる!今、この瞬間に殺して——」
警官:「全員動くな!警察だ!」
若男:「なっ!」
探偵:『——今だ!』
弟子:「——ッ!うああああ!」
若男:「な、なに——ぐうっ!」
女性:「きゃぁっ!」
弟子:「警官さん!早く!こいつが起き上がる前に!」
警官:「ああもう、無茶しやがって!——よっ、と」
若男:「くそっ!」
警官:「殺人未遂の現行犯で逮捕する。大人しくしろ!」
若男:「ああ、くそ……先生。先生……俺は……」
女性:「貴方は……」
若男:「俺は……貴女に会えたことが嬉しくて……もう一度、貴女と、話がしたかっただけなのに。どうして、どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ」
女性:「……ごめんなさい、ごめんなさい……。私は、貴方のことを……」
若男:「いいんです、先生。謝るのは俺の方です。怖がらせちゃって、ごめんなさい」
女性:「……いいえ。こちらこそ、ごめんね。出会ったときすぐに、あなたのことを思い出せなくて、ごめんなさい」
若男:「……ねえ、探偵の見習いくん。君は、俺のことを恨んでいいよ。君の師匠のことは、本当に申し訳ないと思ってる。取り返しのつかないことをしてしまった。だから、好きなだけ、俺のことを恨んでくれて構わない」
弟子:「……恨みません」
若男:「……え?」
弟子:「恨んだりしません。探偵の仕事は、罪を償わせることじゃない、罪を暴くことなんだって、真実を明らかにすることなんだって、俺は師匠から教わりました。だから、あなたのことを恨んで罪を償わせるのは、探偵である俺の仕事じゃない。あなたの罪は、それにふさわしい方法で、しっかりと償ってほしい、です」
若男:「君は……そうか、うん。こんなこと言うのはおかしいのかもしれないけれど、ありがとう」
警官:「……さあ、立って。詳しい話は、署で聞かせてもらおうか」
若男:「じゃあね、探偵くん」
弟子:「……はい。また会う日まで、さようなら」
医者:「いやぁ、今回はお手柄だったね、探偵くん」
弟子:「ドクター。いえ、今回はぜんぶ、師匠のおかげで解決したようなものですから。死んだ後も証拠を握り続けてくれていた、師匠のおかげです」
医者:「……あのさ、探偵くん。これなんだけど」
弟子:「……なんですか、これ。手紙?」
医者:「きみ宛の手紙が、名探偵さんのコートのポケットに入っていたんだ。本当はもっと早く渡すつもりだったんだが、なかなかチャンスが無くてね。遅くなってしまって、すまない」
弟子:「師匠の、手紙……」
医者:「……読んでみるかい?」
弟子:「……はい」
探偵:『拝啓、親愛なる僕の弟子へ。この手紙が君の手に渡る頃には、僕はきっと、この世からいなくなっているのでしょう。っていう書き出しを一度やってみたかったので、ここでやってみました。本当に死んでしまっていたら、それはそれですみません。さて、この手紙は、いつの日か、たった一人で事件に立ち向かうであろう、君に向けたメッセージです。
僕の弟子である君は、名探偵である僕の元で、とても多くの経験を積んできました。辛いこと、悲しいこと、危険なこと、たくさん経験したことでしょう。ただ、そんな中でも、君は諦めずに僕についてきてくれた。正直な話、僕は、それがとても嬉しかった。どれだけ辛くても、危険でも、隣には君がいてくれた。僕が師匠で、君は弟子だというのに、僕たちは肩を並べて立っていた。だから、もし君が一人になっても、君はきっと大丈夫。だって君は、名探偵と肩を並べて立つことのできる、とても優秀な、僕の自慢の弟子なのですから。君は一人で立って、一人で立派に事件を解決してみせることでしょう。そしていつか、君も僕と同じ『名探偵』と呼ばれる日が来るのでしょう。僕の身に何が起ころうとも、その日を、心から楽しみにしています。
親愛なる未来の名探偵へ 君の師匠より』
弟子:「……っ、ぐすっ」
医者:「……探偵くん」
弟子:「ありがとう、ドクター。手紙、見つけてくれて。……師匠、俺、師匠がいなくても頑張るから。だから、心配しないでください。だって俺は、名探偵である師匠の」
探偵:『ええ、なんたって君は、名探偵である僕の、』
探偵・弟子:『最高の弟子、ですからね』
終
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