僕の中に潜む虎

 僕は小学校の頃、完全たる肥満だった。

 クラスに必ず一人はいる、あの肥満。体育祭で僕が走るだけで、保護者席から感嘆の声が上がるほどの肥満。

 当時は身長もクラスで一番大きくかったので、なかなかの存在感があったはずが、持ち前の気の弱さでクラスではイジられる立場だった。そして、もちろん太っていることがコンプレックスで、運動が嫌いだった。明るい子供ではあったが、どことなく自信が無く、ケンカも弱かった。女子とも上手く喋ることなど出来なかった。

 そんな僕にも当時、好きな子がいた。
 今思うと、その子のどこが好きだったとかではなく、単純に顔が可愛くて、「みんなが好きだから好き」くらいの感情だったかもしれない。

 小学校六年生の恋。初恋というには小さすぎる恋心。だけど、太っていた僕には、その想いを伝える術など無かった。当然のようにその想いは心の底の底に押し込めていた。

 ある日の午後の授業。理科室での移動教室から僕が自分の教室に帰ると、その好きだった女の子が黒板に僕の名前と違う女子の名前で”あいあい傘”を書いていた。

 僕は驚いた。
 恥ずかしかった。
 そしてなによりショックだった。

 次の瞬間、自分でも無意識の内に

 その子のお尻に飛び蹴りをかましていた。

 太っているので受け身も取れず、そのまま転んで怪我をした。

 そうだ。僕の中には虎が潜んでいた。


#創作大賞2023
#エッセイ部門

サポートをしてくれたら、そのお金で僕はビールを沢山飲みます!