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タワマンの耐震性能評価時の設計用地震動

タワマンは時刻歴応答解析と呼ばれる方法で、建物にいろんな地震動を入力し、層間変形角や塑性率の数値が一定範囲内に収まるか性能評価して大臣認定を取得します。
ここで建物に入力する地震動を設計用地震動といいます。大きく4種類があります。


1.観測波

実際に観測された地震波です。標準波や既往波とも呼ばれます。
いくつか種類がありますが、一番よく使用されるのは以下の3波なので、標準3波と言われます。

EL Centro波:1940年 米国 Imperial Valley地震のNS(北南) 成分
Taft波:1952年 米国 Kern Country地震のEW(東西) 成分
Hachinohe波:1968年 日本 十勝沖地震のNS(北南) 成分

観測波は実際に起きた地震なので、ある周期は強いけど、ある周期は弱いなどの、周期の谷間みたいな癖があります。
そして巨額の工事費が発生する超高層建物は一般建物よりコストが重要視されるので、以下のように観測波の谷間を狙って建物の固有周期をずらす設計が流行ってしまいました。

図:観測波の周期と設計された建物の周期(出典:会誌「コンクリート工学」2018年9号

2.告示波

1990年代後半になると、軟弱な沖積層が厚い埋立地に超高層建物が多く建設されるようになりましたので、設計用地震動に表層地盤の特性を取り入れる必要がありました。
そして観測波の谷間を狙った設計も排除するために、2000年の建築基準法改定で告示波が規定されます。

告示波は超高層建物の支持層となる地盤(東京礫層や上総層群など)からフラットな地震波を規定し、表層地盤が軟弱ならその分を増幅した人工的地震波です。
観測波と違い周期の癖がなく、どんな高さの建物でも揺れの大きさがほぼ変わりません。

ある地震波がどの周期で揺れやすいかを把握するためのグラフを応答スペクトルといいますが、観測波と告示波の比較応答スペクトルは以下です。

図:観測波と告示波の応答スペクトル(出典:熊本市役所本庁舎検討資料

観測波には1~3秒の間に大きな谷間があり、3秒超の周期は最大の半分まで小さくなることが伺えますが、告示波の規定で2000年以後に設計されたタワマンはこれらの範囲がカバーされるようになりました。

3.サイト波

阪神大震災を契機に重要視されるようになった地震波で、建設地に起りそうな地震を想定し作成した人工的地震波です。
東京なら首都直下地震相模トラフ地震があり、大阪なら上町断層帯地震がありますので、これらを想定した地域固有の地震波となります。

1992年から日本建築センターが提供しているBCJ波(BCJ-L1とBCJ-L2)と言うのもありますが、観測波や告示波に比べて大きい地震波のため、現状では耐震性能が高い一部のタワマンの余裕度検証用でしか使用されておりません。

4.基整促波

東日本大震災の記録を元に、南海トラフ地震を想定して作成された長周期地震動の人工的地震波です。
2016年に国土交通省の建築進事業で発表されたので、略して基整促波と呼ばれます。
告示波は全国共通の汎用的な地震波と表層地盤の増幅特性しか考慮されてないので、基整促波によって、南海トラフ地震で発生するであろう長周期地震動の特性と地域ごとに異なる深層地盤の増幅特性がカバーされます。

基整促波での増幅特性が大きく超高層建物が多い、以下の三大都市圏と静岡県が対象となります。

図:基整促波の対象地域(出典:国土交通省サイト

静岡県、中京圏、大阪圏はさらに地域内で3つの区域分けされていて、関東圏は1区域のみです。
図の下のグラフは告示波のレベル2地震動(震度6強)(L2)と各地域の基整促波を比較した応答スペクトルです。黒い太線が告示波ですがこれを見ると、
関東圏は全ての周期で告示波以下で、他の地域は
3の区域は関東圏と同様ですが
2の区域は特定周期で告示波L2 x 1.5倍
1の区域は特定周期で告示波L2 x 2倍の強さとなっています。

長周期地震動といいながら地域ごとに卓越周期が違くて、関東圏が7秒付近、静岡県が2秒付近、中京圏が3秒付近、大阪圏が6秒付近であることが分かります。
要は地域特性がそのまま表れていて、関東平野や大阪平野は厚い堆積層が存在するため長周期側が卓越し、静岡県や中京圏は震源に近いことから短周期側が卓越すると言われています。
地域・区域ごとの卓越する最大周期を纏めてみました。

表:地域・区域ごとの卓越する最大周期

タワマンの固有周期は構造や高さによって様々ですが、
耐震・制振タワマンが1.2秒~5.5秒
免震タワマンが4秒~6秒
くらいかと思いますので、地域ごとに被害が大きいと予想されるタワマンは以下のようになります。

静岡:耐震・制振タワマン
中京:耐震・制振タワマンと一部(周期4秒以下)の免震タワマン
大阪:免震タワマンと一部(50階超)の耐震・制振タワマン

関東圏の次にタワマンが多い大阪地域ですが、他の地域と違い、OS1もOS2も告示波より小さい周期が事実的にないので、タワマン全体に厳しい状況が伺えます。
東日本大震災の長周期地震動で話題になった大阪の咲洲庁舎はOS1に位置していますが、OS1の超高層建物は数棟しかなく影響は小さいので、問題はOS2に位置したタワマンとなります。
OS2の告示波L2 x 1.5倍というのは告示波でいうと、性能評価対象外として余裕度検証用として使用している、レベル3地震動(震度7)(L3)の大きさと同等となります。

免震タワマンのザ・パークハウス 中之島タワーが大臣認定取得後に基整促波が発表されてしまいましたが、基整促波でも特に補強することなく大臣認定を再取得できたことが一時話題になってました。
このタワマンのようにフラッグシップレベルの免震タワマンなら免震特級(L3で軽微な被害)を目標に性能設計をするので、OS2地域でも最初の性能設計範囲内に収まると思いますが、免震上級のぎりぎりで設計されたタワマンなら小破以上の被害が出る可能性があります。

50階超の耐震・制振タワマンにおいては、関東圏の物件でも特級の物件は片手に数えるくらいしかないので、大阪のタワマンはどれくらいの性能があるのか気になるところです。


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