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鹿島建設のスーパーRCフレーム構法とタワマンの塑性率


今回のテーマは鹿島建設の制振(鹿島建設は制震の用語を使いますが)技術である、スーパーRCフレーム構法と
タワマンの耐震性能評価項目の一つである、塑性率について。です。
※建築の素人なので、半分妄想レベルと思ってください。

塑性率とは

塑性率については、前の記事でも軽く話しましたが、地震によって受けた損傷の程度を表す数値で、これが小さいほど余裕度がある建物と言えます。
この数値が1を超えた時点から建物が壊れ始めるわけですが、
具体的な数値については、以下の記事の最後に一覧を乗せてますので、参考にしてください。

タワマンとして最低限の性能としては、L2地震動のおいて 層間変形角は1/100以下、かつ、層塑性率は2以下であることを求められます。
前回のタワマン耐震性能一覧で、L2の層間変形角と層塑性率のの平均は、以下の数値でした。

耐震:1/107 と 1.48
制振:1/111 と 1.53
免震:1/224 と 0.68

塑性率には、各階の層としての塑性率である「層塑性率」と
構造耐力上、重要な柱・梁の各部材の塑性率である「部材塑性率」の2種類があり、性能評価資料には前者のみが記載される場合が多いですが、
どっちの数値なのか、よく分からない場合があるのと、免震の場合はどっちも未記載の場合もあるため、前回の一覧では層間変形角のみを乗せてました。

なぜ塑性率の話をしてるかと言うと、この数値を理解することがスーパーRCフレーム構法のタワマンの耐震性能を理解するために必要だからです。

基本的に、層間変形角が小さいタワマンは塑性率も小さいですが、
層間変形角はそれなりに大きい数値なのに、塑性率は低い場合があります。
例えば、前回のタワマン耐震性能一覧にあった制振タワマンである「シティタワー高輪」がそういう物件です。
「シティタワー高輪」は実は「耐震等級2」であり、タワマンで耐震等級が1ではない物件は非常に珍しいですが、
このタワマンはL2地震動のおいて、層間変形角は「1/115」で、制振タワマンでは平均くらいの数値ですが、実は層塑性率の方は「0.82」しかなく、
免震と森ビルの特級レベル物件を除外すると、あの一覧では一番小さい数値となります。

「シティタワー高輪」はL2地震動が発生すると、以下のような状況になると思われます。

建物はそれなりに変形するし(層間変形角:1/115)
室内も普通の耐震・制振タワマンレベルの被害が出るだけど(低降伏点鋼制振間柱は応答加速度を低減する制振タイプではない)
地震が収まった後、建物の全体の被害は意外に小さい(層塑性率:0.82)

スーパーRCフレーム構法のタワマンは上記のことが極端的なタワマンとなります。

実は前回のタワマン耐震性能一覧にもスーパーRCフレーム構法のタワマンをいくつか乗せてますが、層間変形角がそれなりに大きな物件のため、マンション名は伏せてました。
現在、2003年以前竣工のタワマン耐震性能一覧を纏める作業を頑張ってますが、その中で、スーパーRCフレーム構法の始祖である「セザール スカイリバー」の数値が非常に印象的で、同技術を適用した他のタワマンも似たような傾向があったので、この記事を書いてるわけです。

セザール スカイリバーについて

セザール スカイリバーは「中央区日本橋箱崎町」にある1999年竣工の物件で、耐震性能評価は1996年後半に受けています。
性能評価時点では、超高層RC造の制振では2棟目の物件でもあります。

スーパーRCフレーム構法の正式リリース1.0版の適用物件は「芝パークタワー」ですが、ベータ版と言いますか、初期バージョンを適用した物件はセザール スカイリバーです。
あのてっぺんの角っぽいもの(?)も、ちゃんとあります。

性能評価資料には以下のような数値となっています。

L2層間変形角:短辺1/76, 長辺1/162
L2塑性率:0.621
連層耐震壁の地震力負担率:95%
その他のフレーム(柱・梁)の地震力負担率:5%

層間変形角はこんなに変形して大丈夫?みたいな数値ですが、
塑性率は免震並みにちっちゃい数値(観測波の数値なので、告示波ではもっと大きくなるかも知れませんが)で、両極端を走っています。

この構造って、建物中央の連層耐震壁(コアウォール)が殆どの地震力を負担し、それをオイルダンパーと繋ぐことで多少地震力を軽減させてる技術だと理解しています。
上で記載した、連層耐震壁とその他の地震力負担率の「95% 対 5%」がそれを物語っていて、その他フレームは耐震性能においては飾りみたいなものでしょう。

実は層間変形角の数値は耐震性能とあまり関係ない、その他フレームの数値で、塑性率の数値は耐震性能に重要な連層耐震壁の数値ではないか?の疑惑が出てきて、同技術を適用した他のタワマンの資料を確認したところ、記載ばらばらでしたが、連層耐震壁とその他フレームの塑性率を分けて記載してる物件もあり、以下のような数値でした。疑惑は多分当たってるでしょう。

L2層間変形角:1/97
L2塑性率(連層耐震壁):0.60
L2塑性率(その他のフレーム):1.12
連層耐震壁の地震力負担率:88~97%
その他のフレーム(柱・梁)の地震力負担率:3~12%

この技術を適用したタワマンはL2地震動が発生すると、以下のような状況になると思われます。

建物は
 共有部の連層耐震壁はあまり変形しない
 専有部は普通の耐震・制振タワマンより変形するかもしれない(層間変形角:1/76~1/97)
室内は普通の耐震・制振タワマンレベルの被害が出る(応答加速度を低減する構造ではない)
地震が収まった後、
 建物の構造的な被害は非常に小さい(連層耐震壁の層塑性率:0.6)
 専有部の被害は普通の耐震・制振タワマンよりは小さい(その他のフレームの層塑性率:1.12)

挙動が通常のタワマンより複雑というか、
耐震性観点では非常に高いと言えますが、
地震の振動を制御する意味の制振タワマンとしては物足りないので、
評価が悩ましいですね。
各構造のメリデメを妄想レベルで並べてみました。

表:各構造のメリデメ一覧

スーパーRCフレーム構法の適用タワマン一覧

2024年の現時点で以下の14件のタワマンに適用されています。

セザール スカイリバー
芝パークタワー
セントラルパーク・イースト 幕張パークタワー
プラザタワー勝どき
東京タイムズタワー
衆議院赤坂議員宿
リガーレ日本橋人形町
マジェスタワー六本木
クロスタワー大阪ベイ
ナビューレヨコハマタワーレジデンス
The Kitahama
横浜ポートサイドプレイスタワーレジデンス
乃木坂パークハウス
マークワンタワー長津田

表:スーパーRCフレーム構法の適用タワマン一覧

最後に適用されたマークワンタワー長津田が2010年着工~2013年竣工なので、2011年の東日本大震災以後に設計された物件がない状況です。
上にも乗せたメリデメを総合的に判断すると、昨今の状況では採用しづらくなっているかも知れません。

スーパーRCフレーム構法の詳細について

技術の開発背景や適用された物件の耐震性能について、
曲げ変形制御型制震構造の構造原理及び実用化に関する研究」の研究論文が公開されていて、上記のリンクからネット上で確認できます。
以下の4物件のL2層間変形角が記載されていますので、載せておきます。

■L2層間変形角一覧
プラザタワー勝どき:1/101
東京タイムズタワー:1/120
クロスタワー大阪ベイ:1/105
ナビューレヨコハマタワーレジデンス:1/115

ただ、研究論文と性能評価資料の数値が異なる物件があり、後者の方が実態に近いと思いますので、前回のタワマン耐震性能一覧には性能評価資料を確認した物件しか載せておりません。

この論文ですが、タワマンの架構の歴史についても記載されており、結構参考になります。
具体的には以下のような架構の物件が記載されてます。

■純ラーメン構造
椎名町アパート
ザ・シーン城北

■ダブルチューブ構造
ディアマークスキャピタルタワー
東京シーサウスブランファーレ

■連層耐震壁構造(戸境壁方式)
グランコリーナ西神南 10番館(兵庫県)

■連層耐震壁構造(センターコア(コアウォール)方式)
トミンタワー南千住四丁目

■連層耐震壁構造(センターコア(コアウォール)方式) + 低降伏点鋼境界梁
※論文には具体的物件は未記載ですが、以下の物件が同構造です。
シティタワー新宿新都心
芝浦アイランドブルームタワー
大崎ウエストシティタワーズ
赤坂タワーレジデンス Top of the Hill
パークコート虎ノ門愛宕タワー
パークコート六本木ヒルトップ

■超高層RC造の初の制振:鋼材ダンパー(ハニカム)
鴨川グランドタワー(千葉県)

■超高層RC造の初の免震
三の丸グランキャッスルタワー(茨城県)

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