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マンションの行灯部屋


1.日本のマンションの間取り

 私は決してマンションのプロではないし、これまで見てきたマンションの数も限られている。従い、私のマンションに関する意見はマンションの一部分しか見ておらず、偏見に富んでいる可能性がある事を前提にこのブログをお読みいただければありがたい。

 さて、日本のマンションの間取りに関して常に思って来た事は、外廊下に面した寝室のプライバシーの問題である。外から見られない様に透明のガラスは使えないし、また、窓を開け放しにして換気する事もできない。居住の快適性に問題のある間取りである。しかし、日本のマンションではこの間取りはごく一般的であり、あまり欠点とは考えられていないようだ。

 それよりも大きな問題はタワーマンションの建設とともに増加している行灯部屋である。行灯部屋は採光と通気性の問題があり、居室として使えないと思っている。今、賃貸で住んでいるマンションはリゾートマンションで少し贅沢な間取りになっているが、寝室となる和室が行灯部屋となっている1LDKの間取りである。他に選択肢が無く、この和室を寝室に使っているが、呼吸器の疾患がある家内は換気不足による湿気が障害になっている。他に寝室がある2LDK以上の間取りなら私はこの和室は納戸として使うだろう。つまり、行灯部屋のある3LDKは広くても2SLDKに過ぎない。
 最近ではマンションを選ぶ際に資産価値という概念が重視されている。資産価値には物件の立地や規模のみに焦点が当てられ、行灯部屋は資産価値のマイナス要因とは考えられていないようだ。デヴェロッパーはこの傾向に甘え、行灯部屋をドンドン増やしている。しかし、同じ立地の3LDKであれば行灯部屋のあるものとないものを比較すればどちらが選ばれるかは明らかだろう。ならば間取りも駅距離と同じくらい重要な要素であるはずだ。

 海外のマンションの間取りには、外廊下に面した寝室も行灯部屋もほとんど見られない。そんなに多くのマンションを見たわけではない。しかし、駐在で居住したスペイン、コロンビア、米国、グァテマラと4カ国でマンションに居住した経験があるが一度も上記のような、問題のある間取りに出会った事がない。これらの間取りは日本特有のものかも知れない。

2.タワーマンションの間取りの変化

 最初にタワーマンションに興味を持ったのが、東雲のWコンフォートタワーズだ。とは言え、当時はタワーマンションに興味があったわけではない。その時に住んでいた多摩ニュータウン稲城地区と同じ様な先進的なイメージの住宅街に興味を持ったのである。2002年初めの第1期1次の販売に申し込んだ。大変人気があり、高倍率の抽選になった。申し込んだ2LDKの部屋は8倍の倍率だったと記憶している。しかし、バブル期を経験している人間にはこの程度の倍率は当然のことだった。残念ながら落選し、その後は海外駐在のため、2次販売以降は参加できなかった。2010年に帰国し、2011年の大震災の後、再び、マンション購入に興味を持ち物件を探し始めた。その頃には東雲のタワーマンション群はほとんど竣工済みであった。東雲のタワーマンションはどれも専有面積に余裕があり、概ね間取りも素敵だ。行灯部屋はほとんどないと言って良いだろう。Wコンフォートには80m2以上の1LDKがあるが何故、こんな贅沢すぎる間取りができたのか不思議だった。おそらく、間口が広くなく、行灯部屋を作らないためには2LDKがせいぜいで、広さにあった3−4LDKができなかっただろうと思う。つまり、この時代では行灯部屋はタブーだったのだろう。

 2012年以降、再び物件を探し始めた時はリゾート感のあるマンションに興味があったので、有明の中古・新築マンションを検討した。有明では当時マンションは東から西へと建設が進んでいたが、西に行く程、新しくなる程、間取りが悪くなり、行灯部屋が増えて行っていた。
 その理由を考えてみたが、恐らく、
1)内廊下が主流になった。(高級感がある。)
2)タワーパーキング。(敷地の広さに限界)
3)大規模化
と思われる。1)、2)は相互作用であると思われる。敷地に余裕がなくなればタワーパーキングを採用せざるを得ず、また、タワーパーキングを採用すれば内廊下化は必然となる。内廊下になれば、冷暖房機能より廊下に面した寝室には窓をつけられない。しかし、内廊下の方が高級感があり、積極的にこのタイプが採用されていると言う側面もあるかもしれない。(それにしても内廊下には疑問がある。エレベーターを降りてから自分の部屋に着くまでのわずかな時間・距離の冷暖房の効いた快適性のため、間取りを犠牲にし、50円/m2あたりの管理費の負担を強いられるのだ。)

 また、建物の規模が大きくなれば、奥行きが深くなり、その結果、間口が狭い縦長の間取りになり、必然的に行灯部屋が増える結果になる。後述のグランドシティータワー月島がその典型だろう。
 
 晴海フラッグは価格が安いと言う理由で人気が高い。しかし、間取りに関しては少し残念な面もある。板状棟でも行灯部屋があり、中住戸は面積は広くとも日本の典型的な間取りが多い。スカイドゥオにも行灯部屋が見られる。つまり、間取りに関してはそれ程見るべきものが無い。多少、価格が上がっても、快適な間取りになるように設計すべきであったのではないか。そうなれば本当に末長く愛されるオリンピックのレガシーとなっただろう。残念だ。

3.最近のタワーマンションの間取り

 行灯部屋が増える傾向にあるマンションだが、今(2023年秋)次の様な行灯部屋が目立つマンションの販売が始まろうとしている。価格的には高級ー超高級マンションだ。立地が良く、大規模で資産性が高いと評判は悪く無い様だが、その間取りを見れば、現在の不動産市況は来る所まで来たと言う印象を持たざるを得ない。

グランドシティータワー月島
 名前からすれば、このマンションを販売するデヴェロッパーの最上級タワーマンションである。価格も平均700万円/坪と非常に高額である。しかるに中住戸は全て行灯部屋のある住戸になっており、一部の角住戸でも行灯部屋がある。原因は建物の規模が大きく、奥行きの深い間取りにならざるを得ないためであろう。それは建築コストを抑えるための手法であることは理解できるが、この価格で分譲するマンションでこの間取りしか提供できないのであれば、もはやタワーマンション建設の限界がきているのかも知れない。

三田ガーデンヒルズ 第2期1次
 上記のマンションほどひどくは無いが、坪単価1,385万円/坪の超高級マンションとしては間口が非常に狭く、行灯部屋が多いマンションである。この価格でこんな建物しか作れないならもう日本のマンションに将来はないと思わせるに十分な物件だ。

 一方、行灯部屋が全く無い。タワーマンションもある。

ブリリアタワー浜離宮
 このマンションは私が関与した建替マンションである。総戸数420戸程度であるが、実際は1Rが多く、ファミリータイプのマンションが中心とすれば、250−300戸程度のタワーマンションとしては小規模なマンションである。内廊下を採用しているが、全ての住戸に行灯部屋が一つもない最近では珍しいマンションだ。中住戸も間口が広く、全ての居室が開口面に接している。これは、建物の規模が大きく無かった事より、また敷地が直角三角形とマンション建設には不利な形状であった事より、正方形的な建物ではなく、長方形的な形状になり、奥行きが短くならざるを得なかった事が幸いしたのだろう。

中住戸の3LDK, 間口が広い


 また、幕張ベイパークのタワーマンションも敷地に余裕があり、タワーパーキングを採用しなくても良いため、外廊下形式で行灯部屋が無い。

4.バブル期のマンション

 現在の不動産市況と良く比較されるバブル期のマンション事情であるが、
バブル期には郊外でも当然マンション価格は高騰していた。しかし、高額なマンションに似合う仕様を持ったマンションが多く見られた。当時はまだ住宅公団が存続しており、住宅公団がかかわったマンションがそれである。

全住戸角部屋のマンション

 このマンションは全ての住戸が角部屋で採光も通風も非常に豊かである。通常の建物の角は4個しかないが、この建物は角が12個もある。下図はその間取りの例であるが、どの住戸にも行灯部屋も廊下に面する居室も無い。

3LDKの間取り
2世帯住戸の間取り図

 下の写真は別のマンションを上から見た写真である。

吹き抜けのあるマンション

 このマンションは板状マンションで、廊下に面した居室もあるが、写真を見れば、多くの吹き抜けがある。この吹き抜けにより採光と通風が確保されている。

 このように建築コストはかかるだろうが、行灯部屋もなく、廊下に窓がある間取りを避けることは可能なのだ。現在の様に一般人には手の届かない様な高額になっても、それが間取りに反映されない、マンション事情では日本の住宅の将来は決して明るくない。マンションは100年以上存続する建物でなければならない。であれば、後世に残すべく十分な快適性を備えたものであるべきだ。目先の資産価値などに惑わされ、駅近で通勤が便利だというだけで快適さに欠ける間取りの住戸を選んでしまったらどうなるだろう。確かに通勤にかかる時間は少なくなり、より多くの時間を自由に使えるようになるだろう。しかし、その自由になった時間の大半を過ごすであろう自宅が快適でなければ、どうなるだろう。自宅でリラックスできなければ明日へのエネルギーも湧いてこず、豊かで快適な人生からは程遠いものになる。住宅購入者は快適さを考え、もっと間取りの重要性に気づき、住戸を選択すべきである。さもなければ、デヴェロッパーは現在の住宅購入者の嗜好に甘え、これからも行灯部屋を量産し、将来に負の遺産を残してゆくだろう。

以上
 


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