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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語 (26)

第三章 マンション完成を目指して

2. 権利変換計画の認可と居住者の完全退去まで

1)2019年6月末の退去期限

 建替反対の権利者よりの反発を覚悟で建替決議の見通しも立たぬ段階の2016年12月から賃借人の円満な退去のため、賃貸契約を定期借家契約に変更する様に勧め、また、説明会等で機会あるごとに退去を円滑に進められる様に法的措置を含めアドヴァイスをして来た。その効果もあり、殆どの区分所有者が引っ越しを済ませ、もしくは賃借人との借家契約を解除して6月末までに退去を実行した。
 しかし、想定範囲内とはいえ、残念ながら、2019年7月6日現在、マンション自己使用者8名、賃借人16名(計7.3%)の未退去住戸があった。この内、退去日が確定している、もしくは近日中に退去予定住戸が半数の12戸で残り12戸の交渉が難航している状況であった。建替推進の早い段階で賃借人同士がネットで立退料は100万円は貰えるなど言う配信をしていた事や、館内不動産業者が建替決議前に反対のため、賃借人に立ち退きする必要はないなどとアジビラを配っていたことも少なからず影響しているのかも知れなかった。
 それでも、解体工事を遅らせないように準備工事を7月1日より開始した。具体的には敷地周辺の板囲い、足場の組み立て、退去完了住戸の専有部の解体作業である。

2)2019年7月以降のマンション管理

 2019年5月25日に管理組合の解散総会を開催し、2019年6月を以って管理組合を解散し、7月以降、管理組合清算処理が完了するまでの間、管理会社と新たな業務委託契約を月額44万円で契約することの承認を受けた。また、7月以降の管理は選任を受けた管理組合清算人3名と監事1名が担う事になった。
 管理組合解散に伴い、清算人会は7月以降の新たな業務委託料44万円を公正、平等性の観点より未退去住戸の所有者に負担してもらう事にした。また、供用部のエレベーター、電気代等の費用は主な使用者である解体工事会社に負担していただく事に決定した。
 また、7月以降、管理人不在となる事より安全性の問題よりマンションの出入口を一箇所に限定し、ダイヤルロックを採用し、また、ゴミ出し等の自主管理ルールを設定した。

3)権利変換申請の未提出者対応

 権利変換申請書の未提出者が2名おり、そのため、住戸の明け渡しが滞っていた。1人は建替には賛成だったが、引越しの際に荷物が紛失したと騒ぎ、何事にも猜疑心を持ち、権利変換申請をすれば、権利が東京建物に移り、取られてしまうと恐れを抱いていた。老人特有の猜疑心の強さである。直接、本人と面談し、住戸の権利は確保されている旨の説明を行い、権利変換申請を提出するよう説得し、漸く納得してもらい8月に退去が完了した。
 もう1人の権利者も建替賛成者であったが、住戸の選択にあたり抽選で希望の住戸が取得できず、抽選のやり直しを求め、権利変換申請書の提出及び解体同意書の提出を拒否していた。司法書士をしており、ある程度の知識を持っていると想像された。反対を続ければ、建替は進められず、取得住戸の追加費用を割引くなどの妥協を引き出せると考え、その交渉材料にしようと考えていたものと思われた。しかし、その様な要求を飲める訳はない。2019年8月11日に建替組合第二回臨時総会を開催し、権利変換計画の承認を受ける。その際に、顧問弁護士と相談の上、対抗手段としてこの時点で権利変換申請を提出していない彼に対し、マンション建替円滑化法に基づき、売渡請求をかけた。その結果、彼に従前資産評価額を支払い、所有権を組合に移転する事ができ、権利変換申請が整った。

4)未退去住戸と工事中断

 賃借人との交渉が難航している区分所有者には専門の弁護士を紹介するなどサポートを行い、徐々に退去は進んで行き、9月末時点で未退去は3戸のみとなった。しかし、これ以上の解体準備工事は居住者がいれば不可能となり、工事の中断を決断せざるを得なかった。
 1戸は所有者と賃借人が全く話ができていないように思われた。所有者は怠慢で組合がなんとかしてくれるとでも思っていたのであろう。シティーコンサルタンツの担当者が、賃借人と話をするため夜討ち、朝掛けでコンタクトを取り、漸く話することができた。本人は面倒くさいと言うだけの理由で引越し先を探すことをせず、ズルズルと退去を伸ばしていただけとわかった。賃借人よりも、賃借人と退去に関して全く何の話もしていなかった所有者の怠慢さに激しい怒りを覚えた。シティーコンサルタンツが親身になり、転居先を探し、退去が完了した。
 もう1戸の権利者はイトーピア浜離宮の最初の建替推進の中心人物であったが、賃借人の退去交渉の時期に癌で入院され、子息が後を引き継がれた。そのような事情で賃借人との間の交渉が遅れたのだろうか。9月には裁判所の調停を受け、解決した。その後、その権利者は退去を見届けて、息を引き取られた。
 最後の1戸は中年女性であったが、非常に難航した。シティーコンサルタンツが何度も何度も接触を試み、信頼関係が構築できそうになると突然相手方から面談をドタキャンされたり、常に意見が変わり、立退料も話をする度に跳ね上がって行くと言う交渉の糸口さえも見出せない難敵だった。所有者には申し訳なかったが、既に工事の中断で多額の追加費用が発生している事、及び、引越しをされた権利者の家賃負担の増加などより区分所有者から強い不満が出ていることを説明し、柔軟な対応をお願いした。しかし、それでも解決できるような相手ではなかったが、10月になり、権利変換の認可取得の目処が立ったことより節目が変わった。
 円滑化法によれば、権利変換が認可されれば、建物の権利は組合に帰属し、30日後には共用物の解体に着手できる事になる。遅くとも12月には退去を強制できる事になる。そうなれば、翌年1月より解体工事が開始できる。また、未退去住戸が1戸になった事より、工事の柔軟性が確保できる様になり、解体準備工事を11月から再開する決断をした。
 最後に残った賃借人もこの状況変化を察知し、裁判所の調停を受けることに同意し、漸く和解が成立して、12月に退去が完了した。この賃借人である女性は男性の作業員が出入りする工事現場と化したマンションに1人で住むと言う計り知れない恐怖とストレスを抱えながら、半年間抵抗を続けた。権利者との間に我々の想像もつかない軋轢があったのだろうか。普段から賃借人との関係を良好に保つ事の大切を思い知らされた事例だった。気の緩む時のない半年を過ごしたが、何とか年内に峠を越えることができ、胸を撫でおろした。

5)9月以降の管理負担と清算総会

 9−10月は未退去住戸が3件になった事、及び、解体準備工事が中止となったことより共用部の費用を解体工事会社に負担して貰えなくなった。その為、最低限のライフラインを維持する費用は原因者となる3名の区分所有者に分担してもらうことに決定し、権利者に通知した。そして、2019年10月26日に管理組合の清算総会を開催し、イトーピア浜離宮の管理組合の歴史は幕を閉じ、建替組合にバトンを渡した.
 なお、11月からのライフライン維持の費用は解体工事会社に負担してもらう事になった。

6)権利変換計画の認可

 2019年11月26日に港区より権利変換計画の認可が降りる。これを受け、転出補償金の支払いを実行する。その後、12月10日に権利変換期日を迎え、従前の敷地利用権は建替後のマンションの敷地利用権に変換され、また、建物の所有権は建替組合に帰属する事となった。

以上

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