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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(30)

第三章 マンションの完成を目指して

9. 無償セレクト・有償オプション

1)標準設備・仕様の基本方針

 権利者住戸と分譲住戸の設備・仕様には格差がある。この事は2018年10月に発表した建替実施計画でも説明されていた。もとより建替え提案コンペの募集要項にて、より有利な経済条件を引き出すために分譲住戸と権利者用住戸の設備・仕様に差を付けることを提案していたのは我々自身であった。従い、設備・仕様に差をつけ、コストを削減することは既定路線であり、建替実施計画の説明会においても権利者よりネガティヴな反応は見られなかった。また、再開発案件の権利者住戸も同様に設備・仕様に差がある事は物件の販売に関するニュース等でも目にしていた。

2)設備・仕様に関する理事会での討議

 2021年7月に無償セレクト・有償オプション説明会の開催、9月に建設現場に会場を設置しサンプル確認会を実施、9−10月に無償セレクト、有償オプションの申し込みを受付ることを決定した。
 説明会に先立ち、理事会にて標準設備・仕様の確認をした。
(1) 天井高:分譲住戸は260cm、19階までの権利者住戸は250cmとされた。
一般的な天井高が240cmとされていることよりやむなしと了解。
(2) 共用部(廊下等)の壁紙、絨毯:実物を見ることはできず、写真での確認であり実物を見ずに判断することは難しかった。しかし、当時、有明にあった東京建物のタワーマンション3件を内見した事があり、その共用部の仕様の差は認識していた。竣工の順に2008年ブリリアマーレ有明タワー&ガーデン、2010年ブリリア有明スカイタワー、2014年ブリリア有明シティータワーだが、リーマンショックにより不動産価格が下落して時期に重なっており、新しいマンションほど販売価格が低く、共用部の仕様の質は価格に比例して低くなっていた。そして、権利者住戸の共用部の仕様のイメージは正にブリリア有明シティータワーのそれに近かった。おそらく、分譲住戸のそれはブリリアマーレ有明タワー&ガーデンの様になるのだろうと想像した。ともあれ、比較対象ができた事より、設備・仕様の品質の可否の判断が容易になった。
(3) キッチン、浴室、洗面所の設備仕様に関しては長女が居住しており、私自身もよく知っている上記のブリリア有明シティータワーのそれと比較する事でおおよそイメージでき、一点を除き大きな問題はないと判断された。
(4) トイレの仕様:上記一点の問題点とはトイレの仕様であった。操作ボタンがトイレの蓋の横についているもので一目でもっとも安物のウオッシュレットだとわかる代物だった。流石にこれは受け入れる事ができず、東京建物とハードネゴの結果、何とか壁掛けリモコンタイプのウオッシュレットに変更させた。これで何とかブリリア有明シティータワー並みの設備仕様になった。
(5)床暖房、食器洗浄器等:これらは有償オプションとなっており、標準設備の品質では議題にならなかったが、最近のマンションでは必ず標準装備になっている設備である。しかし、1Rの所有者はこれらの設備をあまり必要と感じておらず、コスト削減が優先され、理事会では議論にならなかった。当時は事業収支の赤字解消の見通しが立っていなかったからである。しかし、1LDK、2LDKの所有者にとっては大きな問題で分譲住戸との格差が大きすぎるのではとの印象を持つことになった要因のひとつであった。

3)無償セレクト

 内装に関しては3種類のカラーセレクトが、キッチン、洗面化粧台では3種類の高さ(80、85、90cm)が用意された。また、62m2住戸では2種類の浴槽の形状が用意された。無償セレクトには特に問題点も無く理事会にて承認された。

4)有償オプション

(1) 同時に有償オプションも提供されたが、その多くの物が本来の分譲住戸であれば標準装備となっている物ではないかと言う思いが捨てきれなかった。個人的には住戸引き渡し後では追加工事で設置するのは困難だろうと思われたリヴィングの床暖房、備付けの食洗機のみを注文した。それでも90万円近い費用がかかった。
(2) およそ一年後に東京建物が22戸の1Rのキャンセル住戸(抽選後に権利者が転出を選択した住戸)の販売にあたり、標準装備として床暖、キッチンの天板、レンジフード、引き戸の合計130万円以上のオプションを追加したとの報告があった。食洗機もつければ160万以上のオプション費用になる。その理由は、現在のマンション分譲において最低限必要とされている設備だからである。これは分譲住戸と権利者住戸の標準仕様の費用格差が最低でも1R住戸で160万円あると言うことを示している。仕様の格差は想像していた以上に大きいと感じた。他の理事会役員がどのように感じているかは分からなかったが、この時、これは容認できる格差を超えているのではないかとの疑念が湧いた。
(3) 長谷工インテックによる有償オプションの販売
 2023年5月に長谷工インテック(株)による有償オプションの販売会が開催された。これは分譲住戸購入者向けと同じ有償オプションである。2年前の権利者向けの有償オプションと重複するものは殆どない。つまり、権利者向けに提供された有償オプションは分譲住戸では殆ど標準仕様になっている事を意味している。

5)分譲住戸との仕様格差の限度

 最初に述べた通り、分譲住戸との仕様の格差は我々の提案でもあり、再開発や建替マンションでは当たり前の事であるかも知れない。とは言え、どこまでの格差が容認されるのかその限度に関しては迂闊にも全く議論してこなかった。常に事業収支は赤字であり、その赤字の縮小が建替組合理事会の重要テーマであったため、コスト増につながる権利者住戸の設備仕様の向上は議題にもならなかった。
 しかし、事業収支の赤字解消の見通しが立った時点で、権利者住戸のコストを必要以上に切り詰め、分譲住戸の仕様にコストをかけ、その分、分譲価格を高くし、事業者の利益を最大化したのではないかと言う疑念が湧いてきた。その疑念を払うためには、我々の建替事業で分譲住戸との設備仕様の格差がどこまでなら適正なのかと言う問題を、定量的、定性的に明確にしなければならない。ではその一線はどの様にしてどこに引けば良いのか?その線を超える事業者の利益は権利者に還元すべきではないのか?
 その検証は非常に困難な課題であると思われたが、この建替事業を不満を残さずに完了させるためには避けて通れぬ道だと考えた。建替事業の終盤に向け、建築費等のコストがより固まった段階で検証する事を決意した。

以上

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