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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(32)

第三章 マンションの完成を目指して


10. 建替事業収支の変化

1)建替実施計画案から建築工事契約までの変化と対応策

(1)支出の増加
 2018年7月の建替実施計画では建築・解体工事費は合計で112.61億円が見込まれていた。しかしながら、2017年より建設会社の選考を始めて以来、2020年3月に長谷工と建設工事契約を締結するまでの間に、金額交渉や、VECDによりコスト削減を測るなど紆余曲折を経て、総工事費は122.6億円と約10億円の増加になった。これは、工事費が上昇したと言うより、建替実施計画では戦略的に工事費を安く見積もった結果だろう。
(2)対応策(収入の増加)
① 権利床部分の売却
 2019年4月の住戸選考の結果、思うような住戸が取得できなかったことより権利を売り渡し、転出を選ばれた権利者(22戸の1Rと3戸の1LDK)が出て合計672.51m2の権利床が組合保留床となった。この組合保留床を東京建物に419万円/坪にて売却し、3.03億円の増収となった。
 この価格は当時の保留床単価450万円と比較するとかなり安い価格である。上層階との価格差、設備仕様の差との理由だが価格差は大きすぎると感じられた。しかし、東京建物は彼らの分譲住戸を2LDK以上が中心の高級物件として販売する方針であり、1Rの販売は分譲住戸の販売方針とは相容れず、彼らはこの組合保留床の購入に決して積極的ではなかった。(実際、東京建物は分譲住戸の販売に影響が出ない様に、分譲住戸を完売した後、追加販売として権利者住戸を売り捌いた。)しかし、我々組合としてもこれだけの数の住戸を独自に販売する手段もなく、東京建物の言い値を受け入れた。
② 保留床単価の変更
 保留床単価を450万円から455万円に変更。これにより1.27億円の増収となる。
③補助金、消費税還付金等の収入 
 行政との交渉の結果、複数の補助金がもらえる見通しがたち、消費税還付金等と合わせ約4億円を予算化
3)収支バランス 
 上記の収入増に合わせ、調査設計計画費 0.43億円 及びその他事務費等の経費削減で10億円の建築費の増加の収支バランスをとる。
4)転出住戸の東京建物への販売について 
 東京建物には2015年の事業協力者の募集要項で転出率を20%と設定し、それをベースに経済条件を提案してもらった経緯がある。しかし、実際に建替計画を作成する段階で転出率が2−3%にまで低下(保留床の減少)する見込みとなり、事業収支は大幅に悪化し、経済条件の悪化が避けられなくなった。しかし、ハードネゴの結果、彼らの譲歩により還元率と増床価格を維持できたが、見返りとして、我々も建替推進の過程でできる限り転出率を20%まで増加させる努力をする事を約束した。
 幸いにも、住戸選考の後の売渡しにより転出率は20%を超え、東京建物に売却する保留床の合計は9,070.54m2となり、全専有面積の、51.30%となり、目標の50%を超えた。これにより我々も約束を十二分に果たした事になった。
 収支バランスをとる上での最も大きな要素は転出による組合保留床の販売であったが、もし権利者の転出がなければ収支はかなり厳しくなっていたはずである。東京建物はどの様にやりくりするつもりだったのだろうか。保留床単価の更なる上昇、建築費の削減交渉などを考えていたのだろうか?

2)地下解体工事費の増加

 2020年5月より地下解体工事が始まると想定外の地下杭、及び、油汚染土の撤去に合計0.94億円の費用が発生。これにより事業収支は1億円近くの赤字となった。しかし、まだ工事は始まったばかりであり、今後もさまざまは不足の事態が起こる可能性があった。従い、今後の経過をみまもり、さらなる工事費の増加やその他の支出の有無を見極め、コストが概ね確定した段階であらためて対策を講じることにした。

 この時点では理事会で討議はしたことがなく、建替組合で考え方を共有していたわけではないが、下記点から採算的にはまだ余裕があると考えていた。
(1)保留床単価:建替実施計画の東京建物の分譲事業の粗利は、建替提案時のそれと比較すればかなりの余裕があり、分譲事業の粗利を圧縮し、保留床単価を上げる余地はあると判断した。すでに保留床単価は450万円/坪から455万円に引き上げられているが更なる変更も可能と見ていた。
(2)補助金:根拠はないが、補助金は少なめに見積もられている感じがあった。
(3)予備費、その他経費:これらは逆に多めに見積もられており、余剰が出る可能性がある。
(4)組合保留床の売却益:権利変換手続きを拒否した権利者より更に2戸の1R住戸の売渡しを受けていた。既に転出率は20%を超えており東京建物への販売の義務もないこと、また、戸数も少ないことより、この組合保留床は組合主導で販売し、利益の最大化を図ることにした。

以上

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