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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(31)

第三章 マンションの完成を目指して

9.建築工事

1)地上建物解体工事

 アスベスト除去工事と地上建物解体工事は9社の見積もりの中から最安値の東京ビルドを選択し、3.56億円で契約した。
 2019年7月に準備工事を開始したが、賃借人の退去が遅れ、9月より2ヶ月間、工事の中断を余儀なくされた。11月に再開後は工事は順調に進み2020年4月に完了した。しかし、2ヶ月間の工事中断中の足場等の現場の維持費用として3,340万円の支払いを請求された。交渉の結果、1,800万円の支払いで合意できた。

2)地下解体及び地上建物の工事会社の選考

(1)第一次選考

 2018年に予定していた建替実施計画案作成の前に建替組合の事業収支を検討する為には建築工事費の目処を立てなければならず、地下解体工事及び建物の施工会社の選考作業を2017年10月より始めた。また、2020年の東京オリンピックの時期に建築費の上昇が予想されており、早めに工事費を確定しておく方が良いとの判断もあった。
 選考の条件を①タワーマンションの建設実績がある事。②マンション建替実績がある事。③補助金申請の経験ある事とした。この条件を満たす建設会社を大手・中堅ゼネコンの中から選出し、選ばれた18社に見積もりの提出を依頼した。

(2)第二次選考

 2018年3月の建替計画実施原案の説明会の後、第二次選考を始めた。その時点で事業収支上の工事費の単価が98万円/坪から108.9万円/坪に変更された。ただし当時の建築費は最低でも120万円/坪とされており予算は低すぎるように見えた。
 スーパーゼネコンと言われる大手は東京オリンピック関連の建設で余裕がなく、1社のみが参加の意思を表明してくれた。中堅ゼネコンからは8社の参加があり、計9社の見積もりを検討、交渉した。見積もりは殆どが想像通り120万円/坪を遥かに超えていた。その後、大手1社、中堅2社より辞退の申し出があり、中堅6社の見積もりを検討。その中で、費用、その他の条件がより良い3社を選び、更に交渉を続けた。しかし、最も安い見積もりでも117.5万円/坪(総額116.6億円)であり、建築費の予算とは大きな開きがあった。

(3)施工候補者の内定

 更に上記3社を2社に絞り、交渉を継続し、2018年7月の建替実施計画案の説明会の後、最も条件の良い長谷川工務店とVECD(機能を下げずにコストを削減する)対策に取組んだ。VECDの主な取り組みの一つに権利者住戸の設備仕様を落とすことも含まれていた。
 VECDの協議後の地上建物の建築費は112.2億円(4.4億円の減)地下解体工事費を含む総建築費は115.8億円、アスベスト除去費を含める総工事費は116.82億円となった。建替実施計画案の総工事費比較ではアスベスト除去費も増えたこともあり、4.21億円の増加となった。そのため、2018年11月の建替組合通常総会において長谷工を施工会社に内定することの承認を受け、従来の松田平田設計と長谷工設計のJVに実施設計業務を委託した。それにより更にコストの削減を図ることにした。

(4)2020年3月 施工会社の決定

 2020年3月の建替組合臨時総会にて長谷工を地下解体工事及び建替マンション建設の施工会社として正式契約を締結する承認を受けた。工事費は逆に上記よりさらに増え115.80億円となり、工事費総額は122.6億円となり、建替実施計画案より約10億円の増加となった。(工事費の増加のため、事業収支は大きく損なわれることになったが、事業収支の改善策に関しては「事業収支の変化」の項にて述べたい。)

3)地下解体工事

 2020年5月より長谷工が工事を引き継ぎ、地下解体工事を開始した。この時期に他社の工事現場でコロナの感染が広まり、工事中断のニュースが流れ、我々の工事への影響が心配された。幸いにも工事中断はそれほどの広がりを見せずに収束した。しかし、予断を許さない状況はその後も続く事になる。
 以前の検査で危惧されていた鉛汚染土の除去は想定内の工事作業で収まった。しかし、下記2点の想定外の問題が発生し、その対処に思わぬ費用と時間がかかった。
 ① 旧浄化槽の撤去工事中にその地下に想定に無かった強固な杭が何本も発見された。イトーピア浜離宮の建設を請負った鹿島建設に照会したが、設計図は残っておらず、地下の状態は不明のまま、障害になる多数の杭を撤去せざるを得なかった。
 ② 1,967m2と広範囲にわたって油含有土が発見され、それを除去しなければならなかった。
 ③ 上記の対応により2週間以上の工期の遅れが生じ、94百万円の追加の工事費が発生した。

 ここまでの工事は、住民の退去遅れ、アスベスト除去、想定外の地下杭、油汚染土の除去に加え、コロナ禍、働き方改革と次々と問題が発生し、前途多難な出発であった。

4)工事監理

 建物工事開始にあたり、理事会では工事管理会社の選考につき議論した。全く新しい中立的な会社を選ぶか、これまで設計を担当してきた松田平田設計に任せるかの選択であった。やはり、建替マンションの設計を担当し、設計の細部まで認知している松田平田設計が適任と判断された。同時に、より一層の安心のため、組合の立場での監査を目的として建築の専門家である理事に監査担当をお願いした。
 難問山積みの地下解体工事が終わり、工事が地上建物に移ると理事会では長谷工よりの工事状況の報告、松田平田設計による監査報告が重要な議題になっていた。しかし、我々建築の素人には内容を完全に理解するのは難しく、問題点を深掘りして議論をすることは実際不可能であった。しかし、建築担当理事は頻繁に現場を訪れ、疑問点を解明し、理事会で説明してくれた。おかげで理事会としては建設会社、監理会社の言いなりになると言う恐れも払拭でき、安心して工事を見守る事ができた。建築専門家の理事の存在は幸運であった。

5)設計の変更

(1) 長谷工を工事会社に選考した時は事業の予算と最安値であったとはいえ、長谷工の請負工事費には6億円以上の差があった。従い、東京建物(松田平田設計)と長谷工が設計の詳細協議の上、建築費を削減する事が合意された。理事会としては大幅な設計変更で安全性が損なわれる事を危惧していた。
 しかし、実際にコスト削減を目的とした設計変更は一点のみで、それは上層階の柱の鉄筋の数を少し減らすと言う内容であった。オリジナルの設計では下層階より上層階まで鉄筋の数は同じであった。しかし、建物にかかる負担は上層階の方が軽くなるはずで素人目線でも合理的な内容であった。実際に数値的に変更後も安全基準を十分クリアーすることが示された。建築担当理事の検証結果でも問題なしと判断され理事会で承認された。

(2) 2019年の秋の大雨で武蔵小杉のタワーマンションが浸水すると言う出来事があり、大きな話題になると共に浸水対策に関心が集まった。そのため、急遽、ハザードマップによりマンションの敷地周りの安全性を詳細に検証し、最悪の事態を想定した。その想定に基づき、浸水対策を立て、以下の様な設計変更を行なった。
 ①一階の防水板の設置、
 ②ポンプ室には密水性のある扉の設置、
 ③免震装置の隙間から流入する雨水の排出用ポンプの設置、
 ④地下室の機械は天井から吊り下げる法方を採用、
 ⑤機械室は密水性の扉を設置、
 ⑥非常用電源を別棟の屋上に配置。
等々の設計変更であった。また、2021年6月には区の指導により屋内消火栓設備の変更も行なった。

 その他にも、細かな設計変更は多々あったも、むしろ性能向上のため、外観の向上等コストアップ要因となるものが多かった。

6)本体工事の開始と竣工

 2020年9月26日より本体工事に着工。地下工事が終わり、本体工事に入ると順調に工事は進み、2週間の工期の遅れを取り戻し、あれよあれよと階層が積み上がっていった。
 2021年7月には工事現場の見学会を兼ね現場施設を使い無償セレクトのサンプル展示を行なった。同時に無償セレクト・有償オプションの説明会を開催した。
 2022年6月には完成した低層階の1R住戸の見学会を開催した。
 同年10月には地上32階までの躯体工事が完了し、上棟を迎えた。以後、内装仕上げ工事と外構工事が進められた。

 2023年に入るとより一層、竣工時期の見通しが立ち、3月の臨時総会では2023年7月に内覧会の実施、9月竣工、10月入居開始との通知を行い、10月入居までの諸手続きとその時期について説明した。組合員の多くが想定していた時期よりは2ヶ月程早くなったのではなかろうか。2019年7月着工とすれば4年2ヶ月、2ヶ月の中断を考慮すれば4年の工事期間となった。建替実施計画案では工事期間を4年ー4年半とした。理由は建替提案時には想定されていなかった建物解体のアスベスト除去作業や、働き方改革により工事現場で休日を設けなければならなくなったこと、またある程度の余裕を見たためである。 
 しかし、建替提案では工事期間は3年半とされていたことより建替実施計画案で工事期間を4年ー4年半とした時は、当然ながら組合員よりの反発は強かった。だから建替組合としてはできるだけ竣工を早めたいという強い思いがあった。なんとか最低限の約束を守れたと安堵した。

以上




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