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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語 (21)

第二章 建替決議承認まで

7. 施設計画案の変更と事業収支の改善

1)2016年9月 建替提案、今後の進め方説明会

 コンペ参加者の建替提案の建物の形状は殆どが、正方形に近い形状になって居たが、東京建物は長方形で、そのため、東西の中住戸は間口が広く、行灯部屋の無い良い間取りが期待できそうであった。西側にエレベーター空間が設けられ、そのために西側の開口部が犠牲になっている。これは西側に高速道路があるため、犠牲にするなら西側住戸と割り切られたためだろうが、中層以降は芝離宮の眺望が得られるだけに残念でもあった。

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2)2016年11月 建替検討状況報告会

 建替提案では制震構造で設計されて居たが、免震構造がより多くの区分所有者の支持を受けていることもあり、建替推進委員会ではそれぞれの耐震工法の検討を行った。免震構造で最も危惧されていたのが東日本大震災の時に騒がれた長周期地震動に対する問題である。しかし技術の進歩により現在ではその克服が可能である事が分かった。そこで免震構造にも対応できる様、施設計画を見直す事になった。合計6案の施設計画が提示され免震・制震との適合性、駐車場の設置、住戸配置等8項目で評価・検討した。躯体的には搭状比を4.6から4.0にまで下げるため、34階建てから33階建てとし、形状はよりずんぐりむっくりに変更された。エレベーターの位置も西側廊下に面する場所に変更となった。これにより西側中住戸の形状は歪はあるが、戸数は増え、北西側眺望が活かされる事になった。ただし、西側の中住戸に36m2と33m2の住戸ができ、これらは1Rなのか1LDKなのか曖昧な面積になった。
 尚、要望調査及び東京建物販売のタワーマンションの共用施設の利用状況の調査を基にラウンジ、スカイテラス、ゲストルーム、パーティールーム(兼集会室)のみを共用施設として導入することを決定した。

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3)2017年8月 計画案の検討状況説明会

 要望調査の結果、転出希望者は5%にも満たない事が判明。建替提案の経済条件の前提条件である転出率20%に大幅な狂いが生じた。このため、東京建物と協議し、東京建物は経済条件(還元率と増床単価)を維持する為に保留床単価を414万円から420万円に変更し、我々は増床ルールを見直し、権利床面積を最小限に抑える様、方針転換をせざるを得なかった。
 そのため、1Rは25m2台、1LDK、3LDKは現在と同面積を原則とする事にした。計算上は0%の転出率でも3−19階までに全ての住戸が収まると思われた。しかし、エレベーターの配置の関係でどうしても28m2の1Rを、さらに割増容積分は最低55m2以上の住戸を作らねばならないと言う総合設計制度上の制約から55m2の1LDKを多数設けねばならなかった。その為、権利床面積の最小化は不十分で、権利床を19階迄に収める為には転出率を3.6%に設定せざるを得なかった。また大きめの住戸を取得できる人とそうでない人の不公平感が残る事になった。尚、建物は各階の専有面積が若干増えたため、33階建てから32階建てに変更された。
 デザインについては水、海、緑、空を地域の自然の特性と捉え、これらをイメージする。また、地域の先進性と歴史性を反映させると言う非常にワクワク感のあるコンセプトが導入された。

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4)2018年3月 実施計画原案

(事業収支上の問題点)

 転出率の問題に次いで下記問題が発生し、対応を迫られた。
① 工事費の上昇 98万円/坪 から 108.9万円/坪
実質的には工事費が上昇したわけではなく、下がると見込んでいた工事費が下がっていないため、見通し額を変更したものである。ただし、この金額も実勢を反映しているとは言い難く、まだ、先に工事費の下げを見込んだ見通し数字であった。従い、更なる修正の可能性は否定できなかった。
② 補助金見通しの修正 4億円から2.6億円に減額。
③保育園の設置による300m2の保留床面積の減少。本来、マンションの規模からより大きな保育園の設置が求められたが、港区と交渉により保育園専有面積を最小限に抑える事ができた。

(対応策)

 これらの問題の発生に対しても経済条件の維持が建替成立のための絶対的条件であるという考えは変わらず、下記の様に東京建物の協力に我々も更なる権利床の削減にて応えた。

①保留床一般分譲販売価格と保留床売却価格の見直し。
 一般分譲単価 : 528万円/坪から 573万円/坪へ
 保留床単価  : 420万円/坪から 450万円/坪へ
工事費は高止まりしたままであったが、マンション分譲価格は上昇傾向にある事が唯一の追い風であった。
②権利床面積の圧縮
+これまでの建物の形状を変えることなく、エレベーターの位置を西側から北側に移動。これにより左右対称に近い形となり、住戸の効率的配置が可能となり、28m2台の1Rを無くすことが出来た。このアイデアは以前に私が提案したものであったが、そのためにはエレベーターの間口を狭くする必要があり、高級感が無くなると採用されなかった。しかし、権利床面積の圧縮を優先せざるを得なくなり、東京建物も妥協した。
+要望調査の結果、より大きな住戸を希望される複数戸所有の権利者がいる事がわかり、1Rを2部屋合わせ1LDKに、また1R+1LDKもしくは1R X 3で62m2住戸の取得を認める様、住戸取得ルールを変更し、権利床面積を少しでも縮小した。逆に大きな住戸を1Rに分割することは希望者があったものの権利床面積の増加につながるため、不可とされた。ただし、割増容積部分は55m2以上の住戸にしなければならないと言うルールのため、戸数は減少したものの4戸の55m2住戸を残さざるを得なかった。(62m2住戸が増え、55m2住戸をすこし減らす事はできた。)
尚、店舗は2軒とも住宅取得に希望変更しており店舗は無くなった。
+以上の対策の結果、
それぞれのタイプの住戸数は
1R 245戸→233戸
1LDK 68戸→ 71戸
62m2  5戸→ 8戸
55m2  12戸→ 4戸
合計   318戸→312戸
と減少し、権利床面積は410m2削減する事が出来た。その結果、権利変換率は面積で112.1%から107.5%まで減少した。

(注:事業収支の改善の為の権利床削減方法について)
+権利床面積が減少すれば、それだけ、デヴェロッパーに販売できる保留床面積が増加し、収入が増加し建替事業収支は改善する。
+総合設計制度を利用した建替マンションでは住戸の最低面積が25m2以上であり、かつ、割増容積分(400%→700%への300%の割増容積分)の住戸の最低面積は55m2以上でなければならないと言う制約がある。(権利者住戸の1LDKは40m2台で計画)
+イトーピア浜離宮の場合では、20m2の面積の1Rの建替えでは5m2の増床が必要であり、割増用積分の住戸面積は55m2への増床が必要となる。
+複数の1Rを集約し、1LDKや2LDKを作ればその分5m2の増床は不要になる。また、62m2の2LDK住戸が増えればその分55m2の1LDK住戸が不要になり、権利床面積を削減できる。

③保育施設の売却に関しては、当初、区分所有者の中から希望者に分譲する考えもあった。しかし、保育園が払える賃料は安く相当、分譲価格を下げないと採算が取れない。価格を下げれば、逆に建替事業収支で採算が取れ無いと言うジレンマに陥る。そこで、東京建物に保留床に準じた価格で買い上げてもらい、事業収支の採算を維持した。
④施工床面積の低減 33階建から32階建へ(工事費の削減) 

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(実施計画原案の総括)

 実施計画原案は同年に予定していた建替決議上程のための最終提案のもとになる計画であり、ほぼ最終案に近いものである。しかし、経済条件についてはいくつかの不安材料があった。
① 分譲価格は573万円/坪に設定されたが、当時はオリンピック後には不動産価格の下落予想も囁かれており、その価格が維持できるかどうか?
② この時点では建築工事の契約はできておらず、108.9万円/坪の工事費の見積もりは安すぎるように見える。工事費は最低でも120万円と言われており、東京オリンピックを控え、工事費は下がる気配はなく、むしろ上昇を危惧しなければならない状況であった。東京建物が工事費を安く設定したのは後に予定されている建設会社との交渉材料にするためでは無いかと推測した。
③ 一方、分譲価格と保留床単価との差額は東京建物の分譲事業の粗利になるが、それが、108万円/坪(528-420)から123万円/坪(573-450)に上昇しており、これが上記①、②の緩衝材になっている事が想定された。しかし、不確定要素の多いこの段階では経済条件(保留床単価の妥当性)を精査する事は無意味であり、工事費確定以降の課題になると考えた。
④ 今後、実施計画(原)案で約束された経済条件を悪化させることは、建替推進の挫折に繋がり、多くの不確定要素がある中でこの条件を出して来た東京建物の覚悟を評価した。

以上

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