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マンション建替物語 番外編

マンションの建替の流れ

 マンションの建替は区分所有者の合意形成が障害となり困難な事業だと思われています。しかし、マンションが問題を抱え、建替がその問題を解決する最善の方法だとすれば、また、そのための建替提案が納得の行くものであれば、合意形成は十分可能だと思います。今回は、マンション建替の流れを説明します。少しでも建替を検討されている理事会の皆さんのお役に立てれば幸甚です。

1.マンション建替3手法の比較

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 マンション建替には上記の様に3つの手法があります。主な特徴は下記の通りです。 以下、マンション建替円滑化法(権利転換方式)をマンション建替円滑化法、マンション建替円滑化法(敷地売却制度)を敷地売却制度、任意事業による建替(等価交換方式)を等価交換方式と略称します。
1)区分所有者の合意形成に関して、等価交換方式では区分所有者全員の合意が必要になり、小規模なマンション以外では合意形成が困難です。他方、マンション建替円滑化法、敷地売却制度では80%以上の区分所有者の合意で建替決議が可決されます。中規模以上のマンションでは主にマンション建替円滑化法、敷地売却制度による建替が一般的でしょう。
2)マンション建替円滑化法では建替決議後は建替組合が設立され、事業主体が管理組合から継承され、建替マンションの竣工までと最後まで区分所有者が事業主体となります。一方、等価交換方式や敷地売却方式では建替決議後は事業主体が事業協力者(デヴェロッパー)に移り、区分所有者の意向が十分に反映されない可能性があります。逆にデヴェロッパーに任せ、デヴェロッパーの責任で事業を推める事ができ、区分所有者の負担は軽減されます。管理組合によってはそれを良しとする場合もあるでしょう。
3)敷地売却方式では借家権の消滅が法定化されており、借家人との立ち退きの大きなトラブルは回避できそうです。これは大きなメリットになるでしょう。しかし、逆の見方をすれば、全ての借家人に立退料を払う必要があり、また、立退料の限度が規定されておらず、高額になる可能性もあります。この点、敷地売却制度を利用した建替提案をしたデヴェロッパーに質問しましたが、彼らにも、この方式による建替成功の経験がなく、十分な回答は得られませんでした。一方、他の方式では、賃借人への対応を誤れば高額の立退料を払わざるを得なくなることもあります。もちろん、誠意を持って対応すればほとんどのケースで円満に解決する事ができると思われます。
4)私が拘った建替マンションの近く、徒歩1分のところにあるワンルームマンションの建替が決まりました。このマンションの建替は敷地売却制度に基づいています。全てが12m2台の専有面積の部屋より成り立つこのマンションの建替では、港区の条例により最低25m2に増床せねばならず、増床負担金が高額になります。その為、再入居より転出を前提に計画されたと想像され、敷地売却制度の採用は最善であったと思われます。しかし、条件面ではやや物足りなく、やはり、デヴェロッパー主導の計画で区分所有者の意向が十分に反映されなかった様で、この制度の限界が見えた様に感じました。

2.マンション建替円滑化方による建替の流れ

 マンションの建替は長期間にわたる大事業です。建替を検討してから竣工まで10年以上の時間がかかるのも普通の様です。私が経験したマンション建替でも2度の挫折を経て、再出発したのが2014年11月、建替推進決議が可決され、建替推進委員会が発足したのが2015年9月、建替推進委員会で事業協力者を決定したのが2016年6月、建替推進決議が可決されたのが2018年10月、解体工事着工が2019年末、竣工予定が2023年10月と実に9年の月日がかかります。建替推進のきっかけとなったのが、2006年に実施した耐震診断の結果でしたから、その時点からは、実に17年の年月がかかる事になります。私が、建替推進で心掛けたのはスピードです。管理組合理事会、建替推進委員会、建替組合理事会と推進母体は段階に応じて変化して行きましたが、推進委員会、理事会は通常月4回、少ない時でも月2回の割合で会合を持ち協議を重ねました。マンション建替事業の成功の鍵は理事(建替推進委員)のリーダーシップ、主体性、熱意に有ると思います。

 以下は建替推進の大雑把な流れです。

+マンション管理組合理事会で建替の検討
+区分所有者への説明会
+(臨時)総会で建替推進決議(普通決議)の承認(50%以上の区分所有者の賛成で可決)
+建替推進委員会(理事会より委託を受けた建替推進母体)の設立
+事業協力者の選考
+行政の認可取得(多岐にわたる認可が必要で非常に時間がかかる)
+建替実施計画案の作成
+区分所有者への計画案の説明
+(臨時)総会で建替決議の承認(区分所有者の80%以上の賛成が必要)
+建替組合を設立(以後、建替組合が管理組合に代わり建替推進の主体となる。)
+建設会社の選考と契約
+建替反対の区分所有者に対し売渡し請求
+建替後の住戸選択
+権利変換計画の認可
+居住者の退去
+解体・本体工事着工
+竣工・引渡し

3.マンション建替事業協力者について
 
 マンション建替事業の推進にあたっては、マンションの管理組合の知識、能力、資金力だけでは実現はできず、事業協力者が必要です。最も一般的なマンション建替円滑化法に基づく建替についてこの事業協力者の役割につき説明します。建替にあたり、容積割増しがある場合や、転出者が多く、保留床面積(一般分譲販売用の余剰の専有面積)が大きい場合はマンション分譲業者であるデヴェロッパーの協力が必要です。保留床を一般向けに分譲販売し、その収入を建設費用他の経費に割り当てる為、また、建替決議が可決され、建替組合(法人)を設立し、銀行より融資が受けられるようになるまでの間、必要資金を融資してくれる資金力のあるマンションデヴェロッパーが事業協力者の核となります。その他、建物の設計を行う設計会社、建築を受け持つ建設会社、そしてこれらの協力者と区分所有者とのコーディネーターとして機能する専門知識が豊富なコンサルタントが事業協力者となります。分譲用の保留床が少ない場合は建設会社が事業協力者の中心になるかも知れません。

1)コンサルタントの役割
①建替推進決議(普通決議、過半数の賛成で可決)まで
 管理組合としてこの段階で必要な任務は「区分所有者への建替の必要性の説明と説得」です。この段階でコンサルを起用すれば、より説得力のある提案書を作成してくれるでしょう。
 ただし、この段階では区分所有者の建替への関心は不明で管理組合として総会の承認なしにコンサルの費用を支出するのは問題がある可能性があるかも知れません。また、建替成功事例の紹介でコンサルが作成した建替の必要性に関するレポートを見せて貰ったところ、分量は100ページもあるのでは思える程の立派なものでした。このレポート作成には結構な費用が掛かったであろうと想像できました。しかし、それほどの詳細なレポートが必要でしょうか。私には仕事のための仕事と言う印象を受けました。この段階でどうしてもコンサルが必要と判断されたら費用面でも、中立性の観点よりも社団法人再開発コーディネーター協会の様な公的機関より紹介してもらうのが良いと思われます。
②事業協力者選考まで
 建替推進決議が総会で可決され本格的に建替を推進する段階では、総会での承認を受け、コンサルの起用も現実的だと思われます。管理組合理事会に十分な知識と能力がないと判断されれば、事業協力者の選考のために専門的な知識によるサポート、また、事業協力者を公募する場合には募集要項の作成、応募者の評価等でサポートが期待できるコンサルの起用は有意義でしょう。
 しかし、この段階では、コンサルの業務は多くの区分所有者との折衝にあたる必要もなく、そのためのマンパワーを必要としない。むしろ、管理組合の個人的なアドヴァイザー的な存在と考えられます。しかし、下記の様な問題点もあり、この段階でコンサルを起用する意義があるかどうかは管理組合の判断によると思います。
+コンサルの選考基準がない。建替実績そのものが少なく、建替の成功実績で評価する事が困難。
+銀行、デヴェロッパー、建設会社が紹介してくれるケースが多いが、その場合は紹介先との関係から事業協力者の選考の公平性には疑問がある場合がある。
+それなりに費用がかかる。
 この段階で任務遂行に必要とされる知識はそれ程深い物ではなく、管理組合として参加する建替関連のセミナーや勉強会で得られる程度の知識で十分ではないでしょうか?私の経験では、建替推進決議の後、建替推進委員会を設立し、委員会でデヴェロッパー(事業協力者)公募の要項を作成、応募されたデヴェロッパーの提案評価も推進委員会で実行しました。そのおかげでより公正なパートナーの選択が可能になったと考えています。
② 事業協力者選考以降
 事業協力者が競争原理の働いた公平な方法により選考され、事業の推進が本格的に進展する段階では、区分所有者の利益に沿った建替の実現のために専門的な知識があるコンサルの起用が必要になります。建替計画の作成のための権利者の意向調査、建替計画の法的適合性の判断、行政機関との折衝、反対者の説得、居住者の転居問題の解決等々の複雑な業務が多々あり、また、区分所有者とのきめ細やかなコミュニケーションが要求され、とても管理組合の手に負えなくなり、知識とマンパワーの豊富なコンサルのサポートが必要になります。
 コンサルの選考は管理組合が独自に行う場合は費用負担が発生しますが、より権利者の立場に立ったサポートを得られるでしょう。しかし、適正なコンサル採用は判断基準が不明瞭で素人には容易ではありません。事業協力者がコンサルを指名する場合は公平性に不安はあるが、事業協力者との相性に問題はなく、作業がスムーズに行くというメリットがあります。また、費用も事業協力者負担になる可能性があります。(建替が成功する場合はコンサルの費用は建替事業から支出されますが、不成功に終わった場合はデヴェロッパー負担になり、管理組合の負担にはなりません。)

2)デヴェロッパーの役割
①設計会社の選考
 マンション管理組合が直接設計会社と契約する事も可能でその場合はより区分所有者の立場に立った設計が可能になるでしょう。しかし、その場合の費用負担は管理組合にとっては非常に重いものになります。従い、デヴェロッパーが設計会社を選考、契約する事が普通でしょう。
②建替提案の作成
 設計者、コンサルの協力の下、建替推進委員会で協議を重ね、建替決議に向け、組合員の意向を組み入れながら最終的な提案書を作成します。役所との折衝を重ね様々な許可取得が必要で、想像以上の時間が掛かります。容積率の割増等で得られる余剰の専有面積を確定し、一般分譲計画を作成し、建替事業の収支計画を作成します。それにより区分所有者の建替負担金が確定されます。
③ 建替決議の承認(80%の区分所有者の賛成が必要な特別決議)
 総会での決議の可決後、建替組合が結成され、管理組合理事会+建替推進委員会より主導権が移り、法人の資格を得て、銀行融資を受ける事ができる様になります。それまでの間は建替推進に関わる費用を立替えます。
④ 建替が不調に終わった場合の費用負担
 建替提案作成時と建替決議承認を受けるための最終提案が作成されるまで2−3年の時間がかかります。この間、制度の変更や市況の変化等々当初の提案の諸条件を維持する事が困難になり、条件の変更を余儀なくされるケースが多々あると思われます。経済的な条件等が悪化した場合は権利者はデヴェロッパーに騙されたとの感情を抱き建替に反対される可能性があります。著しく、条件が変更され、合意形成が困難になり事業協力協定が撤回される場合は、それまで管理組合に立替られた費用は管理組合にデヴェロッパーへの返済義務が発生しない様、事業協力協定で取り決めしておく事が必要となります。

3)建設会社の役割
 建替組合は建設会社を選考し、マンション建設契約を締結します。デヴェロッパーを介さず、建設会社が事業協力者となる場合は上記デヴェロッパーと同様の機能が必要となります。

4)建替組合の設立
 建替決議が承認された後は、区分所有者の代表者及び事業協力者を構成メンバーとする建替組合を設立し、管理組合(建替推進委員会)+事業協力者から事業推進を引き継ぎ、区分所有者、事業協力者が一体となり事業を推進します。具体的には事業協力者の代表が建替組合の理事会の構成員たる理事の一員となり、区分所有者の代表である他の理事と共に建替組合理事会を運営し、事業の推進母体となります。

 マンション建替推進の流れについて述べましたが、マンション建替物語の本編ではより詳細に私が体験したマンション建替の経緯を記述していますので、参考にしていただければと思います。

以上


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