見出し画像

不動産市況はバブルか?(修正版)

マンション建替物語 番外編 (2021.08.29)

 コロナ禍では当初、不動産市況の下落が予想されていたが、それはほんの一時的な現象に終わり、その後は特に中古マンション中心に価格の上昇に拍車がかかっている様である。私が関わっている建替マンションの直ぐ近くの竹芝地区、浜松町駅より徒歩5分程度の立地のあるマンションの1DKの1室が新築物件並みの坪単価303万円以上で売り出されているのを目にして非常に驚いた。このマンションは旧法借地権の築52年の旧耐震マンションである(借地権は2037年3月まで)。普通なら価格がつかない様な物件である。いくらで売りに出そうと所有者の自由であり、成約価格は別物である。しかし、それにしても驚きである。建替の話は進んでいないと聞いていたが、おそらくは建替を見込んだ上での価格であろうか。そしてこの様な現象をみるとやはりバブルなのかとも思う。

 随分以前からマンションの価格崩壊を予想し、外れっぱなしのネガティヴ評論家と現在はバブルの崩壊の時代と状況が異なり、今後も価格崩壊は考えられないと言う人気ブロガーの意見の対立は興味深い。はたして現状はどうか?バブル崩壊の経験者として現状を検証してみたい。

1.バブル期と現在の比較

(1)一般的な印象
 バブルの真っ最中の時期は私は海外駐在中で、全く日本の不動産市況の情報も無く、関心もなかった。ある日、出張者より状況を聞かされ、当時、1,680万円で購入した1LDK 40m2のマンションが6-7,000万円で売れると聞かされた時はびっくりした。後に、不動産業者から当時私が所有していたのと同じタイプの部屋が1億円以上で売り出されたことがあり、それがバブルのピークだったと聞かされた。そのマンションが今、建替によりタワーマンションに生まれ変わろうとしている。建替後は同面積としても価格は1億円には遥かに及ばないだろう。従い、現在の市況は未だ過去のバブル期の水準には達していないのかもしれない。

(2)一般サラリーマンの資金力 
 一般のサラリーマンの懐状況を当時と比較してみると現在の状況はどうなのか考察してみたい。
(資金力)
 夫婦共働きが普通になり、専業主婦が主流だったバブル期に比べ資金力は2倍近くになった。
(金利及び税制面での優遇)
  住宅ローンの金利はバブル期では8%程度が普通であったし、また、税制面での優遇(住宅ローン減税)は無かった。(この金利では25年ローンで金利を含めた返済の総額は借入額の2倍程度になる。)現在の住宅ローンは最初の13年間は実質マイナス金利である。返済の負担は同じ購入価格であれば、バブル期と比べ半分以下ぐらいになっている。以上から判断すれば、現在の住宅購入における経済的負担はバブル期に比べ未だそれほど荷重ではないと言えるかもしれない。ただし、バブル期の給料は毎年ベースアップでインフレ率以上に上昇していたので、高金利もそれほどの負担ではなかったと言う側面もあった。

(3)経済環境と不動産市場とその背景 
 バブル期は不動産だけでなく、株価、ゴルフ会員権、リゾート会員権等々なんでも上がっていた。特に日本は異常であり、それ故、バブル崩壊は日本独自の現象であった。現在は日本の株価は他国に比べ回復が遅れており、バブル感は全くない。こうして見ると、1990年頃とは状況は似ている様でもあり、全く異なっているように見える。しかし、バブル期も現在も経済的な背景は大掛かりな金融緩和である事は同じである。バブル期は不動産のみならずあらゆる投機商品が暴騰した景気加熱の状態にあった。残念ながら、現在は日本は長い不況から脱却できず、金融緩和で溢れ出した金の行き場が不動産しかないと言う現状である。企業の資金需要は小さく、銀行は有り余る資金を実質マイナス金利と言うべき住宅ローンとして貸し出すしか営業利益を増やす方法が無いと言う状況が現在の不動産業界を支えていると言えるだろう。米国では金融緩和の出口であるテーパリングが議論され始めている。日本でも現在の住宅ローン制度の見直し(恐らくマイナス金利がゼロ金利になる程度であろうが)が始まっている。時期はいつかは予測困難であるが、早晩、金融緩和が終了する時期が来る事は明らかである。現在の不動産市況はこの事を認識するべき時期に来ていると言えるだろう。

(4)類似点
 不動産市場ではバブル崩壊の時期と同じような現象が起こっている事も事実である。それは ① 住宅の建設コストカットの為のスペックダウン。   ② 60m2台の3LDKの増加である。特に60m2の3LDKは一旦市況の下落が始まると中古物件としても販売が困難になり、その投げ売り行為が市況下落に拍車をかけることになる。また、物の価格というものは上がることがあれば下がることもあるという当たり前の事が不動産に関しては理解されていないと言う点も共通している様だ。

2.市場動向の予測

(1)2024年に向けて
 最近は新築マンションの売り出し、中古マンションの在庫も減少しており、それが市況を支えている要因になっていると言う。しかし、新築物件が減少すれば、買換えの為の中古物件の売りが減るのは当然であろう。2019年晴海フラッグのマンションが900件以上の成約があった時、市場にどのような変化があるかを調べるため、中古マンションの売り出しをチェックしていた事がある。その時に、目に付いたのが有明地区のあるタワーマンションの2LDKの価格だった。60m2以上で4千万円台後半での売り出しが目立った。同じマンションでも3LDKの部屋はそれほど価格に変化はなかった。その後、売り出しの目立ったマンションと同じディロッパーが販売する有明地区の大型マンションの入居時期が近づくとそのマンションの売り出しは目立たなくなり、2LDKの部屋の売出し価格も6千万円台にまで上昇した。それでようやく納得できた。同じ地区の大型マンションへの買換えがその原因だった事がわかった。特に2LDKの売り出しが多かったのはやはり一回り大きい部屋への買換え需要が強かったのだろう。晴海フラッグの売り出しの影響を見たかったのだが、晴海フラッグは入居が2024年に延期になったこともあり、その影響は未だ先であろう。しかし、大型物件への買換えの影響は少なからずある事が検証できた。晴海フラッグとパークタワー勝どきの入居が始まる2024年春に向かう市況の動向は注目すべきだろう。それが短期的な影響に終わるのか、それとも市況の大きな変化のきっかけになるのか?金融政策の変化、住宅ローン減税政策の変更の動きと共に注目して行きたい。

(2)晴海フラッグと価値観の変化
 私は今晴海フラッグに注目している。地下鉄の駅からの距離から純粋な都心物件としては捉えられていないかもしれない。そのため、好き嫌いのはっきりした物件である。第1期の販売ではその価格にも拘らずそれ程の人気にはならなかった。しかし、販売中断の間に市況は高騰し、そのために価格の優位性が際立つことになった。販売が再開されれば大変な人気になるだろうと言われている。
 しかし晴海フラッグの魅力は価格では無い。建物のスペック、眺望、そして豊かな空地が生み出す住環境が最大の魅力だ。まるで郊外の大規模団地の様な趣がある。多くの人が晴海フラッグに興味を持って、その魅力を理解するだろう。そしてそれは上記の様に人々の住宅に関する価値観に変化をもたらすきっかけになるかもしれない。
 コロナ禍が人々に働き方、住み方そして家族との過ごし方に変化をもたらすとすれば、より多くの人が住居の広さと住環境の良さを求める様になるだろう。また、価値観の変化も起こるだろう。全ての余剰資金を不動産に注ぎ込む人生か?それとも、もっと豊かな生活を求める人生か?価値観が変われば、住宅購入にも変化が出るだろう。おそらく、それこそが近い将来の不動産市況に影響を与える要因に成るだろう。

(3)今後の市況予想
 日本もバブル崩壊の経験から同じ轍を踏む事はないだろう。また、若い世代の購買力にはまだバブル期に比べ余力が有ると思われ、急激な市況の変化は起きない可能性は高いと思われる。しかし、都心部では土地取得費、建築費の上昇より更に価格が上昇すれば、また、金融緩和の縮小に依る住宅ローンの負担の増加が始まれば、需要が減退、価格の緩やかな下落へと市場の反転が起こる可能性は十分あると思われる。一方、人々がより豊かな生活環境を求め都心から郊外に移動すれば、郊外物件の品質向上と価値上昇が起こり、都心・郊外の住宅の価格差の縮小が起こるのではないだろうか。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?