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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語 (23)

第二章 建替推進決議承認まで

10. 区分所有者対応

 イトーピア浜離宮の区分所有者の8割が館外居住者であり、また、外国人の権利者も、海外に居住されている権利者も多い。海外でなくとも地方在住の権利者も多数にのぼる。かかる状況下では個々の区分所有者と接触を図り、情報を伝達し、その考えを汲み取ると言う作業は極めて困難である。理事会や建替推進委員会の活動ではせいぜい勉強会や説明会を開催する程度である。しかし、勉強会や説明会に出席される権利者はせいぜい50名程度で区分所有者全体の20%にも満たない。私が事業協力者に最も期待したことは豊富なマンパワーで区分所有者へのきめ細かい働きかけであった。とは言え、そのマンパワーにも限度があり、正直、この仕事はいくら専門家集団でも極めて困難な作業だと思われた。しかし、シティーコンサルタンツは見事にこの仕事をやり遂げてくれた。常にスケジュールに追われ、深夜まで働かせてしまった。我々はまさにブラックな事業主であった。

1)2016年12月 定期借家契約への切り替えの要請

 住戸を賃貸に出している区分所有者に対し、現行の普通借家契約を2018年12月を期限とする定期借家契約に切替を勧める旨の伝達を行った。予想通り、建替反対者よりは建替決議も通っていない段階でそのような通達を出すことはもっての他と強い反発があった。しかし、建替決議が可決されてからでは遅すぎるので、できるだけ早く定借契約に切替る事を勧めた。反発があったものの多くの権利者が我々の要望に応じてくれ、後の賃借人の退去は想定した以上にスムーズに進んだ。しかし、定借への切替の勧めを無視して行動を起こさなかった権利者や賃借人対応がまずく怒らせてしまった数名の権利者は賃借人とトラブルになり裁判にて解決せざるを得なくなったケースもあった。

2) 2017年1月 建替相談室の設置

 区分所有者とのコミュニケーションを図るためにマンション内に建替相談室を開設し、シティーコンサルタンツが運営を担当した。相談室用に賃貸の部屋を公募したところ、1R、1LDKの所有者から複数のオファーがあり、その中で権利者の好意により1R並の賃料で1LDKの部屋を借りる事ができた。偶然ではあるが、場所は問題児である館内不動産業者のすぐそば、また、同じフロアーには建替反対の居住者や事務所使用者が多く、正に敵陣の真っ只中だった。
 時には、夜遅くシティーコンサルタンツの女性が一人で仕事をしている時に不動産業者が酔っ払って怒鳴り込んで来るなど仕事環境を危惧したこともあったが、シティーコンサルタンツの担当者は少しも怯まず権利者の相談に乗り、館内の反対者と時間をかけてコミュニケーションをとってくれた。その結果、反対者も徐々に胸襟を開いてくれた。当初は敵愾心の顕だった彼らも次第にシティーコンサルタンツを頼りにし、相談に来るようになった。彼らは我々の期待以上の役割を果たしてくれた。お陰で最も困難と考えていた業務で我々の出番はほとんど無かった。

3) 2017年1月 建替ニュースの発行

 区分所有者とのコミュニケーションは建替推進決議が可決される迄は、文章による伝達以外ではチャットワークの電子掲示板機能を使っていた。しかし、チャットワークの使用者は限定されていて、建替推進委員会の情報伝達機能としては不十分であった。そこで、ITに無縁の高齢の権利者にも情報を伝達できるように定期的に建替ニュースを発行する事にし、重要なニュースを適宜配信する事にした。

4)2017年5月住宅金融支援機構によるリバースモーゲッジの説明会

 高齢者は通常の住宅ローンを受けられない。建替費用や工事中の住居費を賄う為、ローンを必要とする権利者の為にリバースモーゲッジの説明会を開催した。実際にリバースモーゲッジのローンを受ける為には担保となる物件が必要になるが、建替中は担保となる建物が存在せず、ローンを受ける事が出来ない。その為、工事期間中は建替組合が間に入り同じ条件で希望者に融資し、竣工後、機構から受ける融資で組合に返済する仕組みを作り、複数の権利者に融資を実行した。

5)2017年9月 住戸売却への注意喚起

 建替計画が進行するに連れ、投機目的でイトーピア浜離宮の住戸を安く購入しようとする悪徳不動産業者達のしつこい売却の勧誘が眼に余る様になった。建替は難しいと聞かされ、それなら今価格が上がっている間に売ってしまおうと考える権利者もいると想定された。そこで、区分所有者に正しい物件価値(従前資産評価)及び建替決議後に権利者に還元される管理組合が預かっている修繕積立金の額を明確にし、悪徳不動産業者に騙されて安売りしない様、注意を喚起した。

6)2017年10月 税務説明会及び借家人対応方針説明会開催

 税務説明会では提携している会計事務所に権利変換で住戸を取得する場合、従前資産評価以上の価値の住戸を取得する場合、逆の場合、また、転出する場合、それぞれにかかる税金の詳しい説明。また、権利変換した場合の建物竣工までにかかる税金、竣工後の税金につき説明を受けた。
 借家人対応に関しては顧問弁護士より定期借家契約に切替える事が推奨されたが、切替が不調に終わった場合の対応などにつき詳しく説明をしてもらった。

7)2018年1月 マンション建替え事業に伴う都営住宅の斡旋

 残念ながら、東日本大震災、熊本地震等、日本各地で大災害が起こり被災者用に都営住宅を提供する必要があり、本来予定されていた建替え工事のための都営住戸の斡旋戸が減らされた。結局、抽選で都営住宅の斡旋を受けられたイトーピア浜離宮の居住者は4人のみだった。しかし、最終的には東京建物の子会社やシティーコンサルタンツの努力で希望者全員に民間の引越し先を斡旋する事ができた。

8)遠隔地居住者対応

 海外居住者特に外国籍権利者とのコミュニケーションは困難が予想されたが、大口の香港在住の権利者とは不動産業者を通さず直接コミュニケーションをとる為に最初は香港への出張を考えていたが、幸い、彼は東京に出張してくる事が多く、シティーコンサルタンツが東京で面談を重ねて建替推進を理解してもらった。その他の外国籍権利者も東京には定期的に出張してくることが多く東京で面談することが出来た。外国人権利者は全て香港、台湾居住の中国人であることより必要な書類は中国語に翻訳し直接送付した。また、国内遠隔地に居住されている権利者には必要に応じて事業者協力者側の出張で面談を重ね、建替推進事業を理解してもらった。

9)高齢居住者対策

 高齢の居住者の中には建替に反対されている方がおられた。先が長く無く、また、資産としても相続する子供たちが居ないと言う方々が、『住み慣れたこの地で、このマンションで余生を静かに送りたい。引越しや慣れない環境で苦労してまで新築のマンションに住む意義が無い。』と言う気持ちを持たれる事はよく理解できた。建替推進を始めた当初は、もし、このような高齢者の気持ちを変えることが出来なければ、建替えを進める事は出来ないと思っていた。反対されている高齢者の中で特に4名と1家族が気になっていた。うち、2名は反対ではあるが、私とは昔からの知り合いで私を信用しているから、決まったことには快く従うと言ってくれた。1名はなんでも反対的な理屈屋さんで本音では賛成してくれると思っていた。もう一人は伊豆の高齢者住宅で余生を過ごす事を決意された。建替えを機に選択された新しい人生が幸せに満ちたものである事を祈りたい。また、最後の1家族はご主人が建替後のマンションの住戸選択で希望の住戸を引き当てることが出来、大変喜んでおられたと聴き、少し、胸のつかえが下りた気がした。これらの方々の気持ちや意見を辛抱強く聴き、彼らに寄り添い、引越しや転居の世話を親身になってやってくれたのがシティーコンサルタンツであり、彼らの努力が無ければ、我々の建替推進も途中でUターンしていたかもしれない。マンション退去後に開催した説明会や理事会の後では懇親会を開いたが、これらの人達が集まり楽しそうに旧交を暖められている様子を見るとほっとした。(残念ながらコロナ禍により総会や説明会は2020年よりはWEB中心になり懇親会は続けることができなくなった。)

10)建替反対運動

 建替決議前の2018年9月に入ると1人の管理組合理事と館内不動産業者が中心となり、建替反対の居住者が集まり「イトーピア浜離宮を守る会」が結成された。しかし、反対派の居住者は最初の会合には参加したものの反対運動方針にはついて行けず、理事と不動産業者の2人で反対運動を展開した。理事は連日の様にビラを館内の郵便受けに配布し、不動産業者は館外に居住し部屋を彼らを通して賃貸している権利者に電話や郵便で反対の説得をした。主張の内容はデマ、誤解が中心であり、また、反対の理由も建替そのものへの反対から最後は工事費高騰の為と一貫せず、反論に値するものでは無かった。しかし賃借人を煽り問題を大きくしようと言う意図が見られた時は何らかの法的対抗措置が必要と議論したこともあった。不動産業者の運動はある程度効果があった様で、建替推進委員の家族が彼らの意見を聞き入れ反対に回り、家庭内紛争になったこともあった。不動産業者はともかく、管理組合理事は、以前は共に熱心にマンション再生に取り組んだ仲間で免震改修論者であった。自己の意見が通らないからと言ってこの様な行動は理事らしくなく非常に残念であった。しかし、我々は建替問題に関心を持ってもらい、建替えの可否を自分自身で判断してもらえれば良いとの考えから敢えて反対派や判断保留者に対し説得工作は行なわなかった。

以上




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