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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(10)

第一章 事業協力者の選考まで

3. 2015年10月−2016年6月                     建替提案コンペの開催

7)事業協力者の最終選考

(1)第2次提案説明会

 4月7日に第二次提案の提出を締め切り、4月23、24日に島嶼会館で3社による提案説明会を開催した。

① TK社は分譲販売単価を586.60万円/坪、建築費110万円/坪とし、従前資産評価額は下げなかったものの低層階に権利床を限定することにより権利床単価を下げた。還元率を唯一100%を超える103%に設定し、20m2から25m2への増床コストを544.3万円/坪と大幅に減額してきた。また、東京ポートシティ竹芝とのコラボ(歩道橋の接続)の可能性についても言及し権利者の注目を得た。我々の要望を100%は聞き入れてもらえなかったが、その熱意が十分に伝わる修正提案だった。増床費用は十分に対抗できる水準まで下げてくれたと評価した。
② 東京建物は我々の要望に沿った提案で還元率こそ100%とTKにやや遅れをとったが、増床コストは408万円/坪と最も安かった。分譲販売単価、建築費はそれぞれ528万円/坪、98万円/であった。経済条件ばかりが注目されていたが、個人的には東京建物の設計は間口が広く住むならばより快適だろうと評価した。
③ MJ社は、残念ながら、権利変換率を面積ベースで100%とした為、前回提案よりも還元率、増床コストとも悪化した。

(2)説明会後のアンケート調査結果

 提案説明会の後、事業協力者の最終選考のため、区分所有者向けのアンケート調査を実施した。その結果は次の通りとなった。

2016.5.14
建替推進委員会

建替提案に関するアンケート調査の結果とその分析

 4月23、24日両日に3社によって実施された建替提案説明会及び事前に提出された提案書に基づき、イトーピア浜離宮建替の事業協力者選考のためのアンケート調査を区分所有者を対象に実施しました。5月14日時点で133通の回答があり、同日開催された建替推進委員会にて調査結果を下記のように確認し、また、アンケートに記載された自由意見(43名の記入がありました。)と合わせその結果の分析を行いました。
(アンケートの1位評価結果)
東京建物      57名
TK            26名
MJ               7名
推進委員会に一任  42名
無効         1名
合計       133名
(アンケート結果及び自由記入意見の分析)
東京建物の評価の理由

+経済条項 特に1Rに関して5m2の増床コストが最も低かったことが評価された。この事は増床の必要のないと考えられる10階以上の40m2以上の部屋の所有者では東京建物、TKの得票はそれぞれ、11対9票と拮抗しているが、1Rの所有者では46対17票と大きく差が出ている。また、自由意見でも7名の方が、経済条項の優位性につき言及している。
+提案が区分所有者の目線で見ているとの評価が3名の方よりあった。
TK社の評価
+浜松町駅よりのデッキ接続を始めとした竹芝地区再開発プロジェクトとのコラボレーションの可能性、また、開発事業者であるTK社(ゼネコン)との一体的な開発による資産価値の上昇に対する期待。この点については11名が自由意見で言及している。
+100%を超える還元率は評価されたが、増床コストではかなりの差がついた。
+逆に建物のが高速道路に対面している等、建物の設計、デザインに対するネガティブな意見も4名から寄せられた。
その他の意見
+9名の方より耐震構造について意見が寄せられた。概ね免震構造が支持されているようだが、制振構造に関しては肯定・否定の両論があり、この問題は両者の評価に大きな影響は与えていないと思われる。
+6名の方より提案書のスケジュールより早期の建替実現の要望があった。
+1Rより40m2以上への増床を希望されている方が3名。
+ケアセンター等の利便施設の設置を希望が3名。
+工事期間中の家賃保証については少数だが、賛否両論があった。
                                        以上

(3)建替推進委員会での評価

 アンケートは予想通りの結果になったが、建替推進委員会に一任が31.6%に上り、図らずも推進委員会がキャスティングボードを握る結果となった。建替推進委員会での議論では、[増床コスト] VS [ステップアッププロジェクト(東京ポートシティー竹芝)とのコラボによる資産価値の上昇]と言う構図で支持はほぼ拮抗していた。背景には転出をも視野に入れている委員もあり、TK社提案への支持があったかもしれない。また、TKにはステップアッププロジェクトとの関係からメンツをかけても建替を実現するだろうと言うあまり根拠の無い期待感もTK支持者には強かった様に感じられた。委員会としての採決の結果は1票差で東京建物が優勢となったが、TKの提案も捨てがたいものがあった。以前に東京建物よりはこの建築規模なら2社共同受注を受ける可能性もあると示唆を受けていた。そこで、私は委員会で2社共同事業とすることを提案して賛同を得た。ただし、その条件は下記の様に決めた。
① 東京建物をメイン、TKをサブとする。
② 経済条件は東京建物の提案を採用する。TKは東京ポートシティー竹芝とのコラボに機能を発揮する。
③ TKが提案していたコンサルタントは起用しない。
4)TKが上記条件を受け入れない場合、またはTKが望んでも東京建物がこの条件を受け入れなければ共同受注は成立せず、東京建物を単独で共同事業者とする。

 もし、TK社が上記提案を受けてくれるなら、なんとしても東京建物に共同受注を承諾してもらうと言う強い覚悟で、建替推進委員有志と共に、TK本社を訪問し、上記条件での共同受注の承諾をお願いした。予想通り、上記②の経済条件がネックになり、即決とはならず、返事は後日もらうことになった。後日、正式に返事をもらったが、やはり、経済条件が合わない事を理由に辞退の申出があった。デヴェロッパーは民間企業であり、利潤追求が最優先される事は言うまでもない。各社の提案には素人にはわからない様に、なにがしかの利潤追求の仕掛けが隠されていたと感じられた。残念ながら、そこは追求しても明確な回答が得られなかった。こうして、常に誠実な対応をしてくれた、東京建物が最終的な事業協力者候補として選ばれた。

(4)事業協力者の決定

 共同事業者の選考の基準はこれまで述べてきた様に経済条項の優劣を最重要ファクターとして来た。しかし、それで完全だと言う自信は正直なかった。提案の条件はあくまで現時点での見通しに過ぎず、今後の情勢次第で大きく不利に傾く可能性もあり、決してデヴェロッパーからの最終のコミットメントではなかった。不動産業界では自宅を売る場合、数社に不動産の査定を依頼する事がある。そして最も査定額の高い業者に売却を依頼するかも知れぬが、いくら査定額が高くてもその業者が最も高く売ってくれる保証は無い。専任仲介契約を結ぶ為、市場より高い査定を出し、売れぬ場合、値下げを要求して来る業者も多いのではないか?デヴェロッパーも同じ様な手口を使っているのではないか?疑いだせば切りがなく、自信は揺らぐばかりであった。皆さんの財産の運命がかかっている決定である。しかし、下記に思い着いた時、迷いは消えた。それは、拘束力のない、経済条件を比較してデヴェロッパーを選ぶのでは無い、提案の底にある、デヴェロッパーとしての本件に対する取り組みの姿勢を評価するのだと言う信念である。そして、建替推進委員会として正式に東京建物を事業者協力者として推薦し、2016年6月18日に管理組合臨時総会を招集し、その承認を受ける事を決定した。

以上



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