見出し画像

ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(29)

第三章 マンションの完成を目指して

7. 管理費の確定

1)管理費の検証

(1)2018年7月マンション建替実施計画案
 計画案では管理費は349円/m2と想定されていた。しかし、その時点ではあくまで想定・暫定数値であった事、及び、管理費を確定するには時期的に早すぎたために管理費の検証は理事会では行なわなかった。しかし、来るべき管理費の減額交渉を想定し、当時のタワーマンションの管理費を調べ比較表を作成した。湾岸の主な12件のタワーマンションを選び、共用設備、駐車場の形式、戸数、築年数、インターネット接続料、その他を比較した。最安値は151円/m2、最高値は370円/m2であった。また200円以下の管理費のマンションは合計3件、200円台が4件、300円台が5件であった。傾向としては当然ながら共用設備が豊富なマンションほど管理費が高い事が見て取れた。また、築年数が浅いほど管理費が高くなる傾向も読み取れた。この作業を通して、竣工時期の問題はあるものの、時期が来て管理費を協議すれば共用設備の規模から判断して、イトーピア浜離宮の管理費と同程度の250円/m2への減額が可能と考えていた。

(2) 2020年12月に管理会社公募を実施
 管理費額の決定を議論する時期になり、管理会社として予定されていた東京建物アメニティーサポート(以後TASと略す。)より管理費411円/m2の提示があった。他のタワーマンションの管理費との比較より想定していた金額を遥に上回る物であり、また、実施計画案での想定額をも上回る金額であった。我々としては到底受け入れることの出来ない金額であった。東京建物もこの事態に危機感を持ち、管理費を下げるため、事業協力の協定書で約束されていたTASの採用を白紙に戻し、管理会社を公募する旨の提案があり、理事会はそれを承認し、タワーマンションの管理実績のある管理会社数社を選考し、管理費の見積を依頼した。その結果、TAS、イトーピア時代の管理会社を含む4社の応募を得た。しかし、期待したイトーピア時代の管理会社の応募価格は440円と高額。TASが再提示した393円/m2に及ばなかった(2位以下は428円以上の見積もりとなった。)。理事会は改めてTASの採用を承認せざるを得なかった。

(3)管理費の検証の必要性
  TASが最安値となったが、それでも実施計画案で提示していた349円とは大きな開きがあり、東京建物は350円を目標額として、削減項目と金額の提案があった。東京建物の事業協力者としての提案は評価できたが、実施計画案の時点での349円さえ、検証していなかった。理事会としては組合員に対する説明責任があり、管理費の金額の多寡に拘らず、その妥当性を検証する必要があると判断した。そこで管理費詳細の妥当性を検証する事を提案した。本音では以前に調査したタワーマンションの管理費の比較で200円台以下の管理費のマンションが少なからず存在し、もっと減額できるのでは無いかと言う思いが捨てきれなかったのだ。

2)提案管理費のマクロ的検証

(1)マクロ市場における管理費の上昇
 イトーピア浜離宮の管理会社より管理費の値上げの要請を受けていたことより、管理費は人件費の上昇を理由に年々上昇していることは理解していた。(当時は建替進行中であり、建替が頓挫した場合にはその値上げ要請を真摯に検討するとして値上げを待ってもらっていた。)そこでまず、マクロ的な管理費の動向を把握するために、TASに依頼して管理費動向に関する資料を提示してもらった。残念ながら、マクロ市場では人手不足から来る人件費の高騰による管理費の上昇が顕著であった。リーマンショックからマンション価格の下落と共に管理費も下落し、2014年に底をついた。首都圏の新築マンションの平均管理費は216円/m2であった。その後は反転し、2019年に273円をつける。5年間で26%上昇である。首都圏の新築マンションの内、タワーマンションに限って見ると2015年の274円から2019年には396円と4年間で45%も上昇している(2014年の数字は入手できず)。これは我々にとって非常に不都合な真実であった。人手不足の状況は2020年以降も変化無く、管理費の上昇はその後も 続いていると考えざるを得ない。

画像3
画像4

(2)現在販売中もしくは販売予定のタワーマンションとの比較
 管理費が年々上昇する傾向があることより竣工済のマンションではなく、現在販売中もしくは販売予定のタワーマンションの管理費を比較した。売出し中の殆どのタワーマンションの管理費は400円を超えていた。中には393円より安い管理費も2件見つかった。一つは、白金ザ・スカイの386円/m2で、これは1,247戸と言う規模のメリットによるものと思われる。もう一つは、パークタワー勝どきミッドであり、356円である。規模のメリットや低層階を占める事務所より入る賃貸料が影響しているものと思われるが、他社物件にて詳細は不明であり、的確なるな比較は不可能である。しかし、タワーマンションとしての規模を考慮すれば、TASの提示額は適正と判断せざるを得なかった。

(3)東京建物扱いの販売中・予定のタワーマンションとの比較
 次に管理費支出項目毎のミクロな分析を行うため、ある程度詳細なデータが入手可能な東京建物扱いの販売中及び近々販売予定の物件との比較検証を行った。一件は規模がブリリアタワー浜離宮に近い湾岸地域の物件、また、他に郊外で販売予定価格が270万円/坪と単価の低い物件とも比較した。各支出項目を比較検討したが、問題点は見つけることができなかった。郊外物件は外廊下で光熱費が安いにも関わらず、394円とほぼ同水準、同規模の湾岸物件は430円と高額であることがわかり、ミクロ的な分析でも突破口が見つけられなかった。更にミクロ的な出費項目毎の支出額の検証を行うため、管理会社公募の際の他社見積との細目の比較を行なうも、十分な結果は得られなかった。

3)イトーピア浜離宮の管理費との比較

 最後に、イトーピア浜離宮の第39期(最終期)の予算との比較を行った。これによりタワーマンションの費用の特徴と問題点がより明確になり、評価すべき点、肯定すべき点、減額を検討すべき点が理解できるようになった。
(下表の単位は円/m2(専有面積按分))

画像1

注)
① イトーピア浜離宮の第39期予算は消費税8%で作成されており、ブリリアタワー浜離宮の管理費見積との比較をより正確にするため、2%の消費税の補正等、必要な修正を加えて作成した。
② 上記数字は専有面積1m2当たりの単価(円)。イトーピアの専有面積は8,840.33m2、ブリリアの専有面積は17,983.68m2と2倍以上に増加している。 従い、各支出項目で 単価が同じであれば、ブリリアタワー浜離宮では絶対額では約2倍の支出になる。 
 ③( )の数字は費用の絶対額を示している(月額、円)。費用が専有面積の増加に比例しない項目に関しては、絶対額をも比較する。
④ なお、月額の管理費は上表の総計から事業収入を差し引いたものとなり、イトーピア浜離宮の管理費は248円/m2であった。

(1)タワーマンション特有の経費増

① 電気代
 電気代は単価を下げる為、東京電力ではなく、新電力の中で最も安い東京電力エナジーパーナーを採用した結果であり、TASの恣意は入っておらず、減額交渉は不可。高速エレベーター、タワーパーキングの運行、内廊下の冷暖房費にかかる費用が主な増額の原因である。駐車場の費用の増加には駐車場料金の増額、内廊下の冷暖房費に関しては竣工後の管理組合による温度設定等による対応が必要となろう。
② エレベーターの保守点検
エレヴェーターの数(自転車駐輪場階へのエレヴェーター含む)の増加、高速化が費用の増加の要因である。しかし、保守点検会社は日立の子会社1社の独占であり、経費の減額の交渉は困難。将来的には独立の保守点検会社との契約により大幅に減額することは可能と思われるが、現時点では独立系の保守会社は高速エレベーターの保守点検の技術が無く、保守会社の変更は将来の管理組合の判断に託さざるを得ない。
③ 清掃員業務費
人手不足による人件費の影響も大きいが、Fix窓の清掃費もイトーピア浜離宮との比較で大きな出費項目になる。当初の計画では屋上にスカイテラスを設けたため、ゴンドラ用の機械の設置場所がなく、ブランコ清掃で計画されていた。しかし、2019年以降、TASの社内規定が高さ100mを超える建物にはゴンドラ清掃に限定する旨の変更があり、そのためにはゴンドラ用の機械のリース料が発生し、これが管理費上昇の一因となった。改めて東京建物よりブランコ清掃に変更し管理費を削減する提案がなされたが、理事会ではブランコ清掃の安全性に懸念が持たれ、時間をかけ慎重に討議した。安全性に関してはこれまでの窓清掃における事故報告を検証したが、清掃方法の違いによる差異は見つけられなかった。さらに清掃請負会社に聴き取り調査を行った結果、清掃員は自分の身の安全を自分で守れるブランコ清掃を選ぶ傾向が顕著であることが判明し、理事会として安全上の問題は無いと判断し、ブランコ清掃の採用を決定した。これにより29.76円の減額が実現。
④ 植栽管理費
下請け業者を再選定する事により3.2円の減額を実現。

(2) 安全・安心の費用

 大幅な増加となるが、安全・安心のための必要な経費と判断し、容認。費用の増加に対し、その対価としての快適性、利便性、安全性の向上が得られる事を認識。

(3) 管理会社直接経費

 管理員経費に関しては管理人の増減も考慮し、絶対額でも検証した。事務管理業務費では27%の増加になっているが、すでに検証した管理費のマクロ市場の動向と比較すれば、これは評価すべきと判断。管理員業務費は大幅に減額となっているが、絶対額で評価すれば、56%の増加となっている。しかし、管理員が2人から3人へと増加した事を考慮すれば、TASとしても腹をくくった提案だと評価できる。
コンシェルジュに関しては費用だけの問題では無く、先進的なイメージを求め、ロボットコンシェルジュやタブレットを使った電子コンシェルジュの採用も提案し、検討したが、現時点では技術的、コスト面での問題もあり、これは将来的な検討課題とした。

(4)新規サービスの必要性の検証

① 自転車フリーレント、レンタサイクル
これらのサービスはあれば便利ではあるが、利用者は限定的と想像され、一部の利用者のために他の組合員が費用負担することは公平では無いとの判断より採用を取りやめた。1.48円の減額。
② 予約システム利用料
多少の不便さはあるが、他の無料のシステムを利用することにより本システムは不採用とした。4.07円減額。

(5) その他

防犯カメラリース料
東京建物よりカメラの寄贈を受けカメラリース料を節約。8.86円減額。

4) 事業収入の見直し

                          単位 : 円/m2

画像3

 周辺の駐車場の相場、近隣マンションの自転車置き場使用料等を考慮し、収入を見直した。なお、駐車場の外部賃貸収入に関しては4業者の提示額の平均を取る。最高の賃料をベースにしなかったのは、現時点では本契約を結ぶことは出来ず、3年後の状況変化や、駐車場使用率の低下等の可能性を考慮し安全を見た為である。また、ビューラウンジ、ゲストハウスの使用料は当初は旅館営業法に抵触する恐れがあるとして無料としていたが、受益者負担の原則に基づき管理規約に定めた通り料金を設定した。しかし、どれくらいの使用が見込めるか現時点では判断ができず、これも安全を見ては収入は0とした。事業収入の増加による管理費の余剰が出れば修繕積立金等に回す事が出来、将来の修繕積立金の減額になる。

5)管理費の最終提案

547.16 - 204.87 = 342.29 →   342円/m2
 
上述の検証作業により、管理会社の管理費削減努力も評価に値する事がわかり、現時点でできる削減はやり切ったと判断、管理費を上記に確定した。

8. 修繕積立金の設定  :   150円/m2

 30年間の修繕計画がTASより提示された。30年間の修繕費の合計は28億円になり、出だしの積立金は108円から我々の判断で設定可能とされたが、いずれにせよ30年後には積立金を700円/m2以上にまで上げなければならないとの結果にはショックを受けた。なぜなら、イトーピア浜離宮の修繕は過去の潤沢な事業収入の貯金で賄われ、毎月の積立金は25円/m2と異常に安く、かつ、2019年の組合解散時には5億円の積立金が残っていたためである(組合解散時に組合員に配分)。
 しかし、修繕積立金に関してはその金額そのものの検証は行っていない。理由は、これは実際にかかる費用ではなく、将来必要となる費用を予想したものであり、竣工後は5年毎に計画が見直される事。また、計画は12年毎に大規模修繕を行う事を基本にしているが、近年タワーマンションの大規模修繕の周期は15−18年に伸びている事。何年周期に大規模修繕を行うかは毎年行われる経過観察によって決まる事より現時点で正確な見通しと金額を検証することは無意味と判断したからである。
 しかしながら、当初に設定された積立金は年を追う毎に、実際の出費や計画に合わせ増額して行く事になる。その場合、将来の上げ幅が大きいと組合員の合意を得ることが困難になり、修繕がおざなりになりマンションの老朽化が進む恐れがある。従い、管理費の額と合わせ、徴収額が過大にならぬよう配慮しながら、将来の増額ができるだけなだらかになるように積立金の額を設定した。
 イトーピア浜離宮でも2014年に30年間の長期修繕計画を作成していた事を思い出し、それと比較してみた。総額は11億円で建物規模がブリリアタワー浜離宮の1/2であることを考えれば、ブリリアタワーの22億円に相当し、板状マンションとタワーマンションの違い、2014年当時と現時点での見積もり費用の差を考慮すれば、ブリリアタワーの28億円の計画も現実離れしている訳ではなく、これはマンション業界全体の大きな問題・課題だと考えた。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?