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マンション建替物語 番外編

高齢単身者の不安

1.最近のマンション建替事情

 最近はマンションの建替え関連のニュースをよく見るようになった。マンション管理組合、建替組合の理事長としてマンションの建替えに関与している人間としては嬉しいことである。この10年来の不動産市況の好調さがマンション建替えの促進に大きく貢献しているものと思われる。しかしながら、築40年以上の旧耐震マンションの数に比べれば、建替えの済んだマンション、進行中のマンションの数は未だ微々たるものだ。もっと旧耐震マンションの建替えが進まない限り、そう遠くない時期に街は廃墟化したマンションで溢れることになりかねない。 
 現在、政府はマンション建替えを促進するため、建替決議の可決の要件である区分所有者の4/5の賛成から2/3の賛成に緩和しようとしている。私の経験ではマンション建替えが検討された場合、比較的容易に7割程度の賛成は得られるものだ。しかし、ここから8割まで賛成を増やすのは非常に困難だ。従い、賛成率の緩和は今後のマンション建替決議を容易にし、建替えが飛躍的に進む可能性がある。
 しかし、危惧すべき点もある。それは、建替計画が雑になり、数の暴力で少数の建替え反対者の意向を無視し、不幸な人を増やすことである。私は建替推進にあたり、1人でも建替えにより不幸になる区分所有者がいれば、建替えは進めるべきではないと考えていた。きれいごとを言っているようだが、建替え推進の責任者として、自分の進めた建替えで人を不幸にすれば、生涯、自責の念にかられることになるからだ。

2.高齢者問題

 最近、朝日新聞の建替え関連の記事がTwitterに紹介された。そのTwitterに対し、別の人達もコメントしている。記事にある高齢の建替え反対者に対し、このような好条件の建替提案になぜ反対するのかと批判的な意見が多いようだ。しかし、当事者に取っては決して安易な問題ではない。

  記事の内容は、「高齢の姉妹が母親と同居しているが、長年住んでいる公団住宅の建替えが確定し同じ面積の住戸を取得するためには建替え負担金958万円と工事中の仮住居の費用340万円、合計約1,400万円の費用が必要で、年金暮らしの姉妹には負担できず、建て替えには反対していた。しかしこの度建替決議が279名の権利者のうち233名(83.5%)の賛成で可決されたと言う。所有の住戸の従前資産評価額は2,892万円で、住戸を建替組合に売却し、転居するする事も可能ではる。しかし、長年住み慣れた環境を変えることは高齢者にとって決して簡単な事ではない。」

 Twitterにこの記事を紹介した人も述べているが、958万円の費用ならフルリフォームの費用程度で新築マンションに生まれ変わると言うことで、採算的には建替えは非常に魅力的である。安い費用でマンションの資産価値を大幅に向上する。大部分の区分所有者に当てはまる大きなメリットである。しかし、それは建替え後も同じマンションに長年住む事を前提にしている、または子供たちにそのマンションを相続する予定の人達に言える事である。この記事にあるように年齢的に、建替え後の新しいマンションに住むことができる期間が長くない事、また、相続すべき子息のいない高齢者に取っては建替え費用や仮住居の費用は全くの無駄な出費にすぎない。このようなケースは決して多くは無いだろうが、私が関係しているマンションの建替えでも見られたし、ある程度の規模のマンションの建替えなら必ず直面する問題だろう。

3.対応策

 上記の朝日新聞の記事のような問題の対応はどうすれば良いのか考えてみたい。問題は2点ある。一つは資金問題。もう一つは建替工事中の仮住まい問題である。これらの問題点を根本的に解決するためには制度的な変更が必要になるが、その制度変更は建替決議の要件緩和以上に建替えを成功させる方策になるだろう。
1)資金負担
 資産として子孫に相続を考える必要は無い。自分の資産は生きている間に使い切ればよいのであれば、リバース・モーゲージにより当面必要な建替え負担金、及び、仮住まい費用を賄う方法が有効である。私が関与した建替え案件では説明会を開き住宅金融支援機構のリバース・モーゲージを紹介した。そして何人かの区分所有者が融資を申込み、承認を受けた。しかし、大きな問題があった。それは融資のためには担保物件が必要であり、マンションの竣工後でないと融資が実行されないと言う事だ。しかし、これらの費用はその前に必要になる。そのため、我々は住宅金融支援機構の融資が実行されるまで建替組合が銀行から融資を受け、希望する区分所有者に繋ぎ融資を実行する事でこの問題を乗り切った。しかし、建替組合の資金力には限界があり、希望者が増えれば対応は簡単ではない。従い、建替え案件においては住宅金融支援機構のリバース・モーゲージを建替え後の住戸取得権を担保として融資が実行可能になるように制度変更する必要がある。
2)仮住まい問題
 工事期間中の仮住まい探しは容易ではない。なぜなら一時期に、おそらく同地域で多くの賃貸需要が発生するからである。その解決策として都営住宅(東京都)にはマンション建替えに伴う仮住まい枠が設けられている。しかし、近年、地震や大雨の被害が各地で発生しており、その被害者の仮住まい枠が設けられるようになり、建替えのための仮住まい枠が大幅に減少している。また、最近では建替え案件が急増している事もあり、ますます都営住宅の枠の確保が困難になっている。そこで、UR住宅にも同じような建替え用仮住居枠を設けるべきだと考える。UR住宅には子育て割、U35割、そのママ割、近居割等、多くの割引制度や住居枠があり、同じように割引と枠を設ければ仮住まい探しが容易になるだろう。

 これらの問題が解決すれば、高齢者の不安は解消され、反対も少なくなると確信している。

以上

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