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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(9)

第一章 事業協力者の選考まで

3. 2015年10月ー2016年6月       建替提案コンペの開催

6)第2次建替提案の募集

(1)経済条件の比較のための基本条件の統一

 第1次建替提案コンペ参加6社の提案の評価の結果、3社の提案を選考した。それぞれの提案には熱意と誠意がこもっており、高く評価した。特に、TK社の熱量は最も高く、絶対このコンペを勝ち取ると言う熱意が感じられ、当時はTKを本命と考えていた。しかしながら、数字だけを見れば、前回のT社(コンサル)提案よりも増床負担金で見劣りがすることより区分所有者の誤解を招く恐れがありと判断。T社の2年前の提案を参考にして
① 権利床取得単価の導入。従前資産評価を不動産市況を考慮した価格に下げる。保留床取得価格の内、増床の価格は権利床取得価格とし、従前資産評価に合わせ下げる。一般的な手法では無いが、最低面積25m2の義務があり、そのための費用は最小限に抑える為のやむない方法と考えた。
② 権利床(権利変換可能床)を下・中層に固定し、権利床価格を下げる。
③ 権利返還率(再入居率)は権利者数で80%とする。ただし、全員が25%の増床の権利を有するとして面積的には80% x 125% = 100% とする。
+出来るだけ多くの区分所有者に建替マンションの住戸を取得して頂きたいと考えていたが、当時でも売り出しに出ている住戸も多く、ある一定数の転出者はいると想定した。転出者が予想以下であった場合でも増床が不要な1LDK以上の住戸の増床をも計算に入れており、面積的には調整可能だと考えた。
+コンペ参加の提案の多くはより大きな転出率を想定しているのではと思える節がある。

 以上の3条件を統一し、同じ前提条件で経済条件を作成してもらう様、下記内容の文章にて3社に要請した。また、より理解を深めてもらう為、権利床価格導入の概念をシミュレーションにより説明した。これにより、経済条件の比較が、容易になることと増床コストの低減を期待した。
 また、一次提案では分譲販売価格、建築コストがマトリックスになり、その組み合わせで経済条件が変わる様になっていたが、これでは、比較が困難で、各社が予想する最も実現性の高い販売価格、建築費を1つ採用し、経済条件を提示してもらうことにした。

(2)建替提案コンペ第2次審査に向けた提案修正の依頼

 3社に対し第2次審査にあたり下記のような経済条件修正の依頼を行った。

2016.03.12
東京建物株式会社様

経済条項提案修正のお願い

 今回はイトーピア浜離宮の建替につき、素晴らしい提案をいただき誠にありがとうございます。
 しかし、高い還元率にも拘らず、20m2の1Rの所有者の25m2への建替コストは平均で800万円近くになり、一昨年の提案の680万円に比較し100万円以上高くなっています。これは、保留床取得価格が高く、増床価格が非常に高くなるためであると思われます。この弊害をなくし、増床コストを抑えるため、下記のように権利床取得価格の導入を提案しますので、検討の上、区分所有者への説明会では下記のような統一フォームにて修正提案を出していただきますようお願い致します。

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前提条件 
① 再入居率は80%とする。
② 権利床とは区分所有者がマンションの再取得に際し、一定の制限の下、有利な価格で取得できる床の事を言う。面積的には例えば旧専有面積の125%までといった制限や、位置的には低・中層と言ったデヴェロッパーの定める条件が適用される。つまり、再入居の面積は80% x 125%= 100%となる。
③ 権利床以外の保留床を取得する場合は保留床取得価格が適用される。
④ 従前資産評価は市中相場を基本とし、インセンティヴを考慮して算定される。上記270万円はあくまで1例であり、これには拘らない。
⑤ 再入居率が80%を超える場合は上記諸条件は見直される。また、80%を下回る場合はデヴェロッパーはそれにより得た利益を再入居予定者に還元する。
⑥ 新提案では保留床取得価格は中・高層階の平均価格、権利床取得価格は低・中階層の平均価格とする。
⑦ エコノミー仕様の場合の減額とは、主に1Rで仕様を現在のイトーピア浜離宮の室内設備と同等の仕様にした場合にできるコストダウンの金額。

権利床取得価格の算定例(シミュレーション)
現提案 区分所有者還元床の収支
+収入 376 x (80 x 125%) = 37,600
+支出 338 x 100 = 33,800
+収支 37,600 - 33,800 = 3,800
権利床 区分所有者還元床の収支 (上記収支を維持して、権利床単価を算出する)
+支出 270 x 100 = 27,000
+権利床単価 = (収入=支出+上記収支)/100 =(27,000+3,800)/100=308
+還元率 270/308 x 100 = 87.7% (2.3%の悪化)
25m2取得コスト {20 x (100-88)/100 + 5}/3.3 x 308 = 691
(107万円の改善)

以上
イトーピア浜離宮建替推進委員会

(3)各社の反応

 これらの要望を取り入れ、第二次提案を作成してもらうためには、推進委員会の面談と提案作成の時間が必要となり、当初、3月26日、27日に予定していた一般区分所有者向け建替提案説明会を4月23日、24日に延期した。そして、3月26日に3社と面談を行い第二次選考のため、前述の①権利床単価の概念の導入②権利床階層の限定③権利変換率(再入居率)明確化の目的、理由を説明し、提案の修正を行い第二次提案として提出すること依頼した。事前にある程度意見を聞き根回しをしていたつもりではあったが、意外にも強い抵抗があった。

 TK社は彼らが起用するコンサルが前面に出て来て「従前資産評価額は権利変換者と転出者が同様の利益を得られる様に設定すべきで、市況価格とは無関係である。さもないと行政よりの許可がおりない可能性もあり、また、転出者より裁判を起こされたら勝てない。」との意見が出され、同意は得られなかった。しかし、転出者はすべての条件を承知の上で、残るか転出するか決定するのであり、転出した後で裁判を起こすというのは理不尽である。この時のコンサルの意見はおそらく、TKの意向を汲んで主張したものと思われるが、我々を素人と見傚し、行政の許可、裁判と脅せば提案を引っ込めるだろうと思っていたのでは無いだろうか。また、我々の要望とTKの意向の間を取持つ意識もなく、高圧的に自己の主張を押し付ける態度が気になった。TKの主張は一面では正論であり理解できる。しかしながら、我々は区分所有者の転出を促そうとしているのではなく、できれば全員に権利変換してもらえる様な提案を作って行きたいと思っているのである。しかし、2年前の提案より増床費用が高くなれば、合意形成は不可能であり、合意形成のための工夫が必要と考えていたのである。また、転出率20%は前回のT社(コンサル)の提案時のアンケート調査に基づいており、どの様な提案であれ、転出者は一定数いるだろうとの判断であった。推測ではあるが、TKの本心は従前資産評価額を高額に設定し、転出にインセンティブを与えることにより転出率を上げ、一般分譲面積を増やし採算を向上させる事ではなかったかと思われた。
 なお、従前試算評価額は例として270万円/坪を提示したが、建替推進を本格的に開始した2014−5年当時のイトーピア浜離宮の1Rマンションの取引価格は800ー900万円、坪単価132ー150万円の水準であった。

 MJ社は権利変換率をあくまで面積で80%にすることを主張したが、5m2の増床が必要な住戸が多数あることより面積での80%には合理性が無いとして、あくまで、人数ベースにすることを要望した。権利床の低・中層階限定は結果的には受け入れられなかった。そもそもこの概念はT社の提案であり、それを拒否する理由は理解できなかった。おそらく、第1次提案は権利床を中低層階にする事を前提に作成され、それを明確にした所で経済条件を変更する事ができないので、その点を曖昧にしておきたかったのでは無いかと推測した。

 3社のうち、唯一東京建物のみが、我々の要望を取り入れてくれた。

以上


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