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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(18)

第二章 建替決議承認まで

4. 経済条件の見直し (転出率低下に対応)

4)権利床の概念の変更

 これまで権利床は中低層階で従前面積の100%と言う抽象的な概念でしかなかった。しかし、建物の設計が進んでおり1階の専有面積の大きさが固まりつつある。今後、計画を具体的に進めて行くには単純な合計面積ではなく、権利床が存在する階数を決め、階数により権利床面積が決定されるという発想の転換が必要になった。また、これまで一律に25%の増床と言う前提であったが、必ずしも1LDK, 3LDKの所有者が増床を望むとは限らない。また、転出率を今から決める事は現実的では無い。建替提案が素晴らしいものであればあるほど転出を希望される権利者は減少するのは自明である。であるならば、まず、全員が権利返還をすると言う前提で基本設計をし、その後、確定した転出率に合わせ、余剰床を組合員の要望に合わせ増床に適用すると言う発想の転換が必要になった。

5)事業収支のシュミレーション

 上記の権利床概念に基づき、(A)権利床3-21階、(B)権利床3-20階、(C)権利床3-19階と想定した場合の事業収支のシュミレーションを行った。なお、各ケースにより保留床の階層が上がれば上がる程、平均分譲価格は上昇するので、保留床価格は一般分譲の階層に応じて補正した。

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権利床3−21階
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権利床3−21階、増し床価格修正

 ケース(A)の場合は補助金を使っても赤字となり、増床価格を2,700千円より3,050千円に修正が必要な事がわかる。

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権利床3−20階

 ケース(B)の場合は補助金を使えば増床価格を変更せずに収支は黒字となる。

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権利床3−19階

 ケース(C)では補助金を使わずに収支を均衡させる事ができ、補助金を予備費として温存する事ができる。また、提案募集時の保有床面積の約束に近づける事ができる。更に、3-19階で必要な面積を賄う事ができるかシュミレーションを行った。

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 上記は1Rは一律、最低限必要な25m2とし、他のタイプの住戸も最低限の増加に留めたものである。これであれば、3-19階の総専有面積9,922.50m2内に収まり、確定した転出率に合わせ、1R以外の住戸の面積を増やす事が可能となる。

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 上記の様に一般分譲収支のシュミレーションではケース(C)の場合では第二次提案と比較すれば減益となるが、それでも第一次提案よりは増益となり、他社の第二次提案とほぼ同等となり、妥当な収支であると判断できる。

 4月1日の建替推進委員会でケース(C)の権利床を3−19階に固定し、今後の計画を進める事を提案し、承認された。以後、合意形成のためには建替計画提案時の還元率100%、権利床価格・増床価格 270万円/坪と言う経済条件の維持が最低限必要だと言う認識を共有する事ができた。更に、東京建物は一般分譲事業の利益補償という主張を撤回し、我々も上記の経済条件を維持する事を優先し、一律25%増床の権利という条件を撤回し、権利床面積を最小限に抑える様、最大限の努力をする事に合意した。なお、経済条件を構成する全ての価格は最終的に不動産鑑定士の評価をもって確定する事も確認された。また、ケース(C)で使用した補正された保留床単価は確認されたわけでは無く、今後の検討事項とされた。

6)事業収支の余剰と還元率

 建替推進委員会では、事業収支の調整の仕方がよく分からないとの意見があり、これまでの赤字の修正のシュミレーションに加え、下記の様に収支が大きな黒字になった場合の処理についてシュミレーションを行った。なお、権利床はケース(C)と同じく3-19階としたが、保留床単価の補正は合意されておらず、修正せずに4,200千円とした。また補助金を収支の計算に入れた。

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 この場合は2億5千万円の黒字となり、この黒字は下表の様に還元率の向上により権利者に還元される。

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 この事業収支シュミレーションでは還元率が103.50%(注参照)に好転し、より有利な条件になる事が予感された。しかし、実際はそんなに簡単ではなかった。むしろ、以後、逆風が何度も吹き、その都度、経済条件維持のピンチに立たされる事になるとはこの時点では想像できなかった。
 とは言え、転出率の大幅な減少と言う事実は建替推進の最大の障害であった事は間違いない。この難問を乗り越える事ができたのは事業収支及び一般分譲収支の採算を十分に理解できていたことにある。2014年のT社(コンサル)の建替提案の挫折から学べたことが役に立った。

 注)還元率の計算:補助金を考慮した場合、上表のように事業収支で255百万円の黒字が出る。この黒字を0にするためには増床売却益をその分減らさねばならず、その場合は上表の様に増床面積が898.3m2に減少する。つまり、無償で還元される面積が305.16m2 (=1203.46−898.30)増えることになる。この面積はイトーピア浜離宮の専有面積 8,719.04m2 の3.5%に相当し、還元率は103.5%になる。

以上


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