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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語 (20)

第二章 建替決議承認まで

6. 従前資産及び従後資産評価について
   ー不満の最小化と言う基本理念の誕生ー

1)従前資産評価について

 マンション建替に於ける従前資産評価の方法は下記の2通りがある。
①建物の価値を認めず土地のみを評価しそれを専有面積の割合で分割する。評価額は階層、向きに関わらず、専有面積の大きさにより決まる。
②各住戸の個別評価をする。評価額は階層、住戸の向きに左右される。

 これまで個人的には、各区分所有者が自己の所有する住戸が上記どちらの方法で評価されるのが有利かと判断する時、どちらの方法を採用しても満足/不満の区分所有者の割合は50/50と推測していた。それであるなら、どちらの方法でも良いのではと考えていた。

 シティーコンサルタンツは過去の建替経験から基本的には建替の場合は建物の価値を評価せず、土地代のみを評価、土地共有持ち分割合で按分すると言う単一の坪単価での評価を提案した。
 この問題は建替推進委員のケースでも、それぞれの委員の所有する部屋の位置によりどちらの評価が有利かはすぐに分かる。私の所有する部屋は北東に面しており、階層はともかく個別評価では低評価である事が2年前のT社の建替提案の評価より分かっていた。自己の利益が絡み、建替推進委員会の場でも本音では議論し難いテーマであった。議論がなかなか進まず、コンサルの意見に従おうと言う雰囲気であった。

 多くの建替事例が、非常に古いマンションで低層でエレベーターが付いていないケースである。確かにこれらのマンションでは階層や方角に寄る効用比をつけることが意味がないとわかる。しかし、イトーピア浜離宮の場合、耐震性に問題があり、建替を進めているが、管理状態は良好で老朽化には程遠く、売買でも賃貸でも現役のマンションとして機能しており、土地だけの評価という概念には馴染まない。どうもスッキリせず色々と考えて見ると、今回の提案の大原則を『一定の条件下で全ての住戸で還元率100%の実現』とし、この原則の実現という観点から考慮すれば上記2方法には大きな差異がある事に気づいた。話を単純にするため、現マンションの居住区及び建替後のマンションの居住区を低、中、高階層に3分割し、住戸の向きは無視して考えて見ることにした。上記の2方法につき各ケースでの区分所有者の想定される反応を下記にシミュレーションした。新築マンションは階層により部屋の価格が大きく変わると言う前提で考える。

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 すると、①、②の評価方法では賛成/反対は確かに50/50かも知れないが、①の手法では満足か不満に分けられるが、②の手法では小さい満足か納得かに分けられる。一般分譲であれば気に入らなければ購入しなければ済む話である。しかし、建替はどれかを選ばなければならず、全ての権利者に納得してもらい、合意形成を達成するためには満足の最大化よりも不満の最小化を目指すべきだと言う考えに行き着いた。

 「最大限の公平性を追求するためには、満足の最大化よりも不満の最小化が重要である。」と言う基本理念を説明し、従前資産評価の方法として個別評価が最適であると提案した。建替推進委員会ではこの提案が受け入れられ、個別評価が採用され、以後、「満足の最大化より不満の最小化」がイトーピア浜離宮建替推進の基本理念となった。

 更に推進委員会では個別評価を前提に議論を重ね、最終的には未利用容積部分(割増容積)をも評価の対象とする事にし、その評価は土地持分割合にする事に決定した。これにより個別評価の格差がより穏やかになった。
 従前資産評価=(現在の土地持分)+(39/47年分の専有部の評価)+(割増容積分の持分評価) 

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2)従後資産評価について

 資産評価等支援業務委託のため、不動産鑑定士を公募により日本不動産研究所に決定し、以後の不動産評価業務を委託する事になった。
 日本不動産研究所により、階層、眺望、嫌悪施設との関係、日当たり等の全てのファクターを考慮した評価が提案された。
委員会では特に下記観点からの評価につき議論した。
+小さい住戸の方が面積当たりの設備面積の割合が大きく単価も高くなるのでは無いか?
+間取りの善し悪しににより角住戸の差をつけるべきでは無いか?
+パーティールームの影響は?
+複数のエレベーター停止階の評価
+鈴江倉庫建替の影響
 
 建替実施計画案の作成前にイトーピア浜離宮の南東に隣接する鈴江倉庫の建替ニュースが流れた。新聞報道では総合設計制度を活用し、南側に隣接する日通商事のビルと同様の高さになると言う。もし、それが事実であれば、権利床がある、19階までの南東側は建替後の鈴江倉庫に眺望を塞がれる事になり、南東側の従後資産評価の変更が必要になる。鈴江倉庫の担当役員と面談し、事実を確認したが、総合設計制度を活用するか、一般設計とするかはその時点では不明であるとの回答であった。その後も、鈴江倉庫の建替計画はなかなか最終決定がされず、建替推進決議の段階でも未定となり、我々は最悪の事態を想定して、従後資産評価を作成した。

以上

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