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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(7)

第一章 事業協力者の選考まで

3. 2015年10月ー2016年6月        建替提案コンペの開催

4)建替提案の評価

(1)建替提案コンペ参加者

 2016年1月15日の締切までに次の6社より提案の提出があった。
① MJ+T(コンサル): T社には2年前の建替提案以来の付き合いで信頼関係も築かれており、色々と相談に乗ってもらったこともあり、参加表明は心強かった。特に前回の提案ではコンサルであった為、企業としての信用力に問題があり、信用できないと言う意見もあったが、今回はMJと言う財閥系のデヴェロッパーとタッグを組んだ事より、その提案は正当に評価されると考えた。
② AK:マンション建替実績が最も多いデヴェロッパーで建替セミナーなどでは必ず、講師として招かれる程、この分野では評価が高い。建替実績では他社は自慢の物件を宣伝するが、GDは実績数を述べるだけで十分に宣伝効果があるほど、実績はずば抜けている。建替提案コンペという募集方法を考えたが、参加してくれる企業があるかどうか不安を抱えていた時に最初に参加を表明し、背中を押してくれた。そのお陰でここまで来れたと感謝している。
③ 東京建物:こちらの要望を真摯に聴いてくれた。また担当部署のチームワークが良く、気持ちよく付き合いが出来た。
④ TK:最初はあまり積極的な印象は受けなかったが、竹芝地区街づくり協議会の幹事会社であり、街づくり協議会のつき合いでお願いして、参加してもらった。参加が決まってからは最も積極的に提案コンペに参加してくれた。
⑤ HK:マンションの販売数は多いが、タワーマンションの販売実績が乏しく、最初は候補には上がらなかったが、最近はタワーマンションの販売に積極的だと言う建替推進委員の提言により急遽参加要請し、受け入れてもらった。
⑥ IT:現マンションの販売会社の系列であり、親しみを感じる権利者も多い事から参加を要請した。思い切った提案をしてくれそうな雰囲気のある企業でダークホース的な期待を持っていた。

(2)6社提案についての所感

(増床価格、権利床取得価格の定義の違い)
①タイプA
 通常は権利者が増床を希望する場合はその費用として保留床取得価格が適用される。そしてその価格は分譲予定価格から販売経費を引いたものに相当する。
増床価格=権利床取得価格A=保留床取得価格=分譲価格ー販売経費
つまり、販売予定価格が高ければ高いほど、権利床取得価格(増床価格)は高くなる。また、転出者が増え、保留床が増加しても、その販売に関しては購入者が事業者になるか権利者になるかの違いだけで、販売価格は同じで、事業収支の計算上、事業採算は転出率に影響されない。極論すれば、権利者が全ての保留床を買い上げれば、デヴェロッパーは一般分譲する事なく、楽して利益を確保できることになる。従い、転出率の設定(80%、60%)の意義が活かされていないと言える。MJ+T以外の5社は全てこのタイプにて提案を作成していた。残念ながら、事前説明では我々の提案概要の意図がよく理解されなかった様だ。2年前のT社の提案と比較し、TK、IT、東京建物は還元率ではより良い条件であったが、残念ながら、増床価格が高く、合計費用では前回の提案よりも上回っている様に見えた。詳細を比較すれば、3社の提案の方が、優位にあるのは間違いないが、表面的な数字が一人歩きすれば、一般の権利者には判断がつかないだろうと思われた。

②タイプB
 イトーピア浜離宮の場合は20m2台の1Rが多く、優良建築物認定や総合設計制度利用のため、最低面積25m2の規制があり、最大25%の増床が義務となる。いかに増床費用を安く抑えるかが合意形成の肝になる。そのため、増床できる階数、住戸の位置、増床の面積制限を規定し、その範囲内での増床に関しては権利床取得価格の概念を変え、次の様に定義する事を提案したのである。
増床価格=権利床取得価格B=従前資産評価+コスト
と規定し、かつ、従前資産評価を上記の場合の様に分譲販売価格から導くのでは無く、
従前資産評価=市場価格(相場)+α
権利床取得価格B=市場価格+ α+コスト

と定義する。トータルの事業収支は変えないので、増床による収入が減る分、還元率は悪化するが、建替のトータルコストは改善される。尚、公平を期するため、全ての居室タイプで25%までの増床は同条件で認めると言う前提である。
 更に、転出者が出る場合、転出補償金は従前資産評価により計算される故、その金額が保留床取得価格に連動して決まるAタイプより、市場価格に連動して設定されるBタイプの方が安くなり、転出が増えれば増えるほど事業収支は好転し、還元率の悪化を抑えると想定していた。これが、提案の経済条件の比較を容易にする目的と併せ、転出率を規定した理由であった。
 このタイプの提案をしたのはMJ+Tのみであった。この概念は2年前のT社の建替提案より学んだ手法であり、予想通りであった。しかし、MJ+Tは当方の要請とは微妙に異なり、権利変換率を面積で80、60%としていた。1Rは最低25m2に増床が必要な点を考えれば、80%の権利者が権利変換をし、多数の権利者が増床をせねばならない状況では、権利変換床は面積では80%を大幅に上回ることになる。このことから、MJ+T提案はトリッキーな印象を受けた。

(用語の定義)
+分譲販売価格 :外部への新規販売価格。
+従前資産評価 :現所有の部屋の事業者による買い取り価格。
+保留床取得価格:区分所有者及び事業者の余剰床の取得価格。分譲販売価格より一般向けの販売経費等を差し引いたもの。
+増床価格   :還元床に追加する増床の価格。
権利床取得価格:区分所有者が取得できる権利のある床面積の取得価格。
特に規定がなければ保留床取得価格=増床価格=権利床取得価格。ただし、増床面積を必要最低限のみ認める、また低中層階にのみ認めると言った、面積、所在位置の制限を設け、その範囲内でより安い価格を設定する事も可能。 

(権利者住戸の階数)
権利者住戸を中低階層に設定した場合の価格差を提案してくれたのはTKのみであった。TK提案によれば還元率で7%程度改善する(還元率88%の場合は95%に改善)。この提案は経済条件の向上には大きな要素になる事がわかった。

(駐車場問題)
TKのみが丁寧に試算してくれたが、総合設計制度を利用するためには公開空地が必要であり、平置き式駐車場の設置は困難。また、高さ制限(120m)から駐車場はタワーパーキングか地下駐車場の2択にならざるを得ず、コストからは明らかにタワーパーキングが有効である事が理解できた。

(事業サポート体制)
それぞれサポート体制は考慮されているが、マンパワーの豊富さと言う点ではTK、東京建物、AKが優れていると思われる。

(事業手法の違い)
①円滑化法適用
権利者が多数である事、海外を含む外部居住者が多いと言う事情より100%の合意が必要な等価交換方式は誰も採用せず、予想通り、後述の2社を除き、4社が円滑化法を適用した。

②敷地売却制度適用
AK、ITがこの手法を採用したが、その理由は異なっていた。
(AKのケース)
従前資産評価額は土地評価額となり各戸の評価額は専有面積比率となり、シンプルである。また、借家権の消滅が法定されており、一定の補償の上、借家人の同意が不要となる。この2点が特徴となる制度であるが、多数の権利者がいる事、また、80%が賃貸になっていると言う現状からイトーピア浜離宮にはふさわしいと判断されたものと想像される。しかし、本制度が法制化されたばかりで建替適用の実績が全く無く、デヴェロッパー自身も完全に理解できていたかどうか疑問であった。説明会にて質問したが、借家人問題で一定の補償を払えば良いとあるが、それではいくら払わねばならないかの決まりもなく、立退料の相場も確立していない状況では、普通に借家人と交渉して立退を求めるよりも高くつく可能性も否定できず、決してメリットとは考えられなかった。また、従前資産評価を土地評価額と規定したせいかどうかは不明だが、従前資産評価額が6社の中で最も低く、見劣りのする経済条件となった。AKは建替推進の道筋が全く見えなかった時期に、一番最初に建替提案を出してくれたデヴェロッパーで、我々に大いに勇気を与えてくれた会社故に非常に残念な結果であった。
(ITのケース)
本制度適用の動機は全く異なる。新しい制度では旧来の円滑化法の場合と異なり、最低面積25m2の適用が免除される可能性があるとして、最低増床費用0として提案書を作成している。還元率も高く、本当に、最低面積の適用外となるなら競争力のある提案になる。しかし、提案説明会でその可能性についての見解を聞いたところ、現時点ではITのアイデアに過ぎず、港区や東京都との許可は取得しておらず、今後の交渉事項との返答があった。残念ながら、提案としての完成度に疑問が付くことになった。また、この手法では優良建築物等整備事業の補助金は得られない。

(その他)
HKはタワーマンションの実績に乏しいとの印象を裏付けるかの様に、他社は30階建以上のタワーマンションの提案なのに対し、20階建、25階建の2形式の提案があった。いずれも、容積率700%で総合設計制度の活用をする前提であった。20階建マンションで総合設計が要求する空地を確保できるかどうかと言う疑問があった。(HKよりは可能と言う返答があった。)また、還元率も20階建マンションはそれなりに高かったが、残念ながら、提案全体に魅力が感じられ無かった。

3)総括

 イトーピア浜離宮の問題は容積割増を受けるためには1Rの面積を最低25m2に設定せざるを得ない。このため1Rの所有者は最大25%の増床が必要で、そのコストが建替えを推進する上での最大の障害になる事を改めて認識した。各社それなりの対応策を提案してくれているが、提案の裏には20m2の1Rの所有者には再取得より転出を促進し、建替えをよりシンプルにしようとする意図が感じられた。敷地売却制度はまだ制定されたばかりでデヴェロッパーもまだ経験もなく、十分にこなし切れておらず、今回の提案では評価は低かった。しかしより多くの権利者の転出を前提にした場合は有効な手段になる可能性もある。しかし、イトーピアでは権利者の転出の意向が限定的である以上は困難を覚悟で再取得を前提に建替を推進せざるを得ないのだ。


以上


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