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ブリリアタワー浜離宮の誕生物語(16)

第二章 建替決議承認まで

4. 経済条件の見直し(転出率低下に対応)

1)東京建物よりの経済条件修正提案

 第一回の要望調査の結果、転出率が想定と大きく乖離している事が明らかになり、経済条件の修正(悪化)が回避できない状況であった。しかし誰も建替推進が挫折する事を畏れて、中々、本件について口火を切る事が出来ず、ずるずると年を越してしまった。もちろん、他にも討議、決議しなければならないテーマも多かったのは事実ではあったが。
 しかし、何時迄も先延ばしにする事は出来ず、東京建物には修正提案を早く出す様にと圧力をかけ続けた。漸く、要望調査から半年近くたった2017年3月4日の建替推進委員会の後、正副委員長が残り、修正提案の事前相談を受けた。建替提案コンペの最終提案には補助金は含まれておらず、当時約4億円と見込んでいた補助金を計算に入れれば、経済条件は変更しなくても大丈夫だろう。多少、足が出てもその内、現時点で判断がつかない人が転出を決める可能性もあり、最終的にはなんとかなるだろうと楽観視していた。
 だが、東京建物からの提案はかなり厳しいものであり、ショックであった。その要旨は下記の通りであった。なお、下記提案には初めて4億円の補助金収入が参入された。
①転出率の低下(20%から5%)により、権利床をこれまでの3−18階より3−20階と増やす。その為、東京建物が買い上げ、一般分譲を計画している保留床面積が大幅に減少する。その分、計画利益が減少となり、その補償を求める。具体的には、東京建物が買い上げる保留床価格を坪単価414万円から402万円に引き下げる。
②上記による事業収支上の収入減を補うために従前資産評価額を坪単価270万円から310万円に、権利床取得価格を坪単価270万円から326万円に引き上げる。
③還元率は100%を維持。
④最低面積の1R 20m2を25m2増床するコストは493万円になる。これはこれまでの提案の408万円から85万円の増加で、他社提案に比較してもまだ、許容範囲に見えるが、4億円の補助金を計算に入れており、補助金を計算に入れなければ、最低面積20m2の所有者の実質負担増は現計画比較、200万円近くになる。
 
 提案募集要項で、転出率を20%と定め、転出率に変動があった場合は経済条件の変更を認める事を約束しており、事前に相談を受けた三役もその提案を飲まざるを得ないだろうと感じていた。2週間後の建替推進委員会で正式に東京建物より提案される運びとなった。しかし、その間、少しでも改善出来ればと東京建物と共に様々な条件での経済条件変更のシュミレーションを行った。権利価格での増床を1Rのみに認め、増床の必要の無い、1LDK 3LDKの所有者には認めず、増床を最小限に抑える。権利床を面積では無く、階数で認める。つまり、最初の提案では権利床は3−18階であったが、3-19階、3-20階に設定した場合等々。しかし、思う様な結果は得られず、3月18日の推進委員会では東京建物修正案が提示された。

 建替推進委員会では東京建物の修正案はやむなしとの反応だった。この程度のコスト増なら、許容範囲と考えたものと思われる。議論は増加する費用の額の正否よりもむしろ、転出率5%は最悪のケースで転出率が今後増加した場合、出てくる余剰床をどの様に処分するかと言う点が中心となった。事業者側からは余剰床は事業者(東京建物)もしくは区分所有者が同条件で買い取ると言う考えが示され、保留床価格で東京建物が引き取ると言う考えは否定的であった。とすれば、今後、転出率が増えても事業収支の好転には繋がらない事になる。

 東京建物の主張には何か違和感があり、素直に提案を受け入れられなかった。何よりも出だしで簡単につまづいていては先が思いやられる。と言うよりは合意形成が困難になる。提案の経済条件の最低線は護りたかった。そこで、更に検証、検討したいと申し出て了承された。

2)保留床の一般分譲収支の検証

 東京建物にはの二つの財布がある。一つは建替事業収支である。これは利益が出ればそれは権利者に還元され、損が出れば権利者が補填し、最後は収支0になる。もう一つの財布は保留床を一般分譲する事業収支である。こちらが企業としての成績になる。最初に後述の一般分譲に関わる収支を検証してみる。

 東京建物よりは表1)東京建物一般分譲収支計画ー1に示される保留床の一般向け分譲事業の収支が第二次建替提案で想定した利益1,042百万円( 7)一般分譲収支の欄参照)を確保するためには保留床面積が縮小した分(8,814.96m2→7,455.14m2)を補う為、東京建物が組合より買い受ける保留床単価を4,145千円より4,018千円に下方修正しなければならない(表1)保留床単価参照)。一方、保留床単価の減額による建替事業の収入減を補うために増床価格を上げて収入を増やす必要がある。その為、増床コストが大幅に悪化すると言う説明であった。しかしながら、ここで明確にしておかなければならないのは1,042百万円(7)一般分譲収支)の利益補償は東京建物から初めて提起されたものであり、提案書及びこれまでの交渉の中で一度も確認されたものでは無いと言う事である。私が抱いた違和感の一つはこの点だった。建替推進委員会としてはこの利益補償に囚われる必要は無いのでは?私はこの疑問点につき回答を求めたが、明確な回答を得られぬまま3月18日の建替推進委員会で東京建物より本件に関し、説明があった。

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 上記の a)第二次提案の収支計画、及び b)条件変更に伴う収支の正当性を検証するために現在の建替推進プロジェクトの出発点であり、原点となる c)第一次提案の収支計画、及び d)他社第二次提案収支と比較してみた。
 c)第一次提案の利益計画からa)二次提案での利益は大幅に増加している。第二次提案では他社との競合からむしろ利益率は悪化したと思われるのに全く逆の結果になっている。また、最終選考で東京建物と競合した他社の第二次提案の利益計画と比較しても上記a),b)の利益、利益率は異常である。次に粗利率について検証する。マンション販売におけるデヴェロッパーの粗利率は一般的に20%程度と言われているが、b) 条件変更に伴う収支の粗利率はやはり23.84%と異常に高い。
 この大幅な利益増計画のカラクリは何処にあるのか? どうやらこの辺りにこの問題を解決する糸口が見える様な気がした。

以上

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