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34.大切な友人

・ピーターさんのこと

6月9日

私がレゾリュートの空港に着いた時、迎えに来てくれたのがピーターさんだった。背が高く、飾り気のない印象がした。それに余計な事を話しかけられないのにホッとした。英語の苦手な私にとっては、軽やかに話しかけられるのが一番困る。何を話したいかをお互いに認識しあった上で話を始めないと、お互いにくたびれる。そういう意味ではピーターさんは最高だった。

ピーターさんと話をしているのには、言葉が不自由と感じたことは全くないし、2人でよく笑った。ピーターさんは長いことテリーさんの手伝いをしていた。植村さんが北極点到達のときはいなかったが、泉雅子さん、風間さん等のサポートをしたと聞いた。

テリーさんのロッジ内は禁煙で、ガレージ側にある台所だけが喫煙の場所になっていた。そこに行くとほとんどピーターさんがいた。タバコを吸いたくなるタイミングというのは、一緒なのかもしれない。タバコを吸い始めると決まって「ピーター イズゼアー」とテリーさんに呼ばれ、しぶしぶ立って行った。テリーさんが呼ぶタイミングが実によく、一休みして一服が始まると呼ばれるのだった。「どこかで見ているんだな」とよく冗談を言っていた。

ピーターさんは冬の間、ガレージ側に寝泊りし、6月になるとエドモントンの自分の家へ帰る。彼の家は広く、りんごの木やあんずの木等の果物がたくさんあるという。ピーターさんは独身だが、以前結婚していたことがあり、双子の女の子がいると聞いた。この話をしている時はちょっとさびしそうだった。

ピーターさんが元気に話してくれるのは、アウトドアの事だ。今までは大工の仕事(テリーさんのロッジも彼が作ったらしい)が主だったが、ガイドをやりたかったので、今年許可を取ったという。レゾリュートでイヌイット以外の人が商売を始めるには、レゾリュートのイヌイットの90%が推薦しなければ許可が取れず、難しいらしい。その許可が取れたので今年中に、装備(テント・寝袋・バーナー)を準備し、インターネットを使って北極点ツアー等を募集し、ガイドの仕事を来年の夏には始められるという。

白熊、あざらし、アンティクヘアー(うさぎ)等、野生の動物の話題になると生き生きと話し出す。テリーさんのロッジに飾ってある野生動物の写真は、ピーターさんが撮影したという。

大場さんの補給のために日本から補給物資をレゾリュートに持ってきてもらう時、「なにか欲しいものがあったら日本から持ってきてもらうように頼んであげるよ」とピーターさんに言うと、ピーターさんはカメラのレンズが欲しいという。ピーターさんは「自分は貧乏なので、あまりお金がないから安いのがあれば」ということだった。

東京の土谷さんにFAXをして調べてもらうと、ニコンのレンズ(新品78,000円 中古35,000円)があった。ピーターさんにこのことを話すと、軽い気持ちで話したことを私が確実にしてくれた事を大変喜んでくれているようだった。ピーターさんから「動きをよく確認して中古を頼んでほしい」と頼まれ、注文した。このレンズは、古川君が日本から持ってきてくれた。

ピーターさんには、大場さんの事で彼の仕事以上にたくさんお世話になり、又相談もしていたので「私からのプレゼントだよ」とピーターさんに渡した。ピーターさんは少年の目をして喜んでくれた。彼は彼の撮影した白熊の写真を送ってくれることを約束してくれた。

ピーターさんはいつも大場さんのポジションを気にかけてくれていて、2人で同じような話を何度も話した。私が補給を完全にやりたいんだと言うと、いろいろな事を助言してくれた。私たちの仲の良さと下手な英語が通じることについては、カナディアンロッキービデオ(CRV)社の三浦さんがこう言った。「志賀さんの英語でピーターさんには100%問題なく伝わっているから安心してください。心配ないですよ。ピーターさんは志賀さんをできるだけ手助けするつもりですよ。」

大場さんからストックの補給要請があった時、イギリス人からピーターさんが貰ったストックを提供してくれた。ピーターさんが自分で使うために貰った物だが、大場さんのためにあげるという。うれしかった。

このストックはサイズが長かったので、道具を借り短く作り直したのだが、大場さんがうまく使えるかが心配だ。レゾリュートですぐにストックやスキーのシールなどを調達するのは至難の業である。それが欲しいものがスーと出てくるというのは、ほんとうに有難くうれしいものである。人が欲しいものを与えることができれば、逆のことがあるかもしれない。

ピーターさんは5月の末でエドモントンに帰ったが、私は時々大場さんの状況をピーターさんに電話で伝えている。今年の秋には、河野さんチームのサポーターだった大西君達とピーターさんを日本へ招待する計画を立てている。日本に呼んで温泉へつれて行き、日本の秋を見せてあげてたいと思っている。ピーターさんも「行けたらそれは楽しそうだ」と期待している。ピーターさんは私を助けてくれたサポーターの一人で大切な友達である。


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