見出し画像

35.感謝の気持ち

・縁の下の力持ち

6月10日  

夕べの大場さんとの無線交信状態は悪く、大場さんの「ラジャーラジャー」の声しか聞き取れず、残念でした。しかし、アルゴスデータを見ると、昨日1日で約22km歩いているのが判り、安心しています。このアルゴスデータは、カナダにあるバンフという町からFAXでレゾリュートに届いています。アルゴスデータは、日本事務局とCRV社の両方で取れるようになっており、随時入手できます。

CRVはカナディアンロッキービデオといます。社長は蓮見さんといい、私と同じ47歳ですが、7ヶ月ほど私が年上だそうです。私が蓮見さんと最初に会ったのは、私がレゾリュートに来て1週間も経っていなかった頃でした。デジタルハウスから大場さんのビデオ撮影を依頼され、北極点での撮影をするために気楽な気持ちでやって来たと蓮見さんは言っておりました。

昨年の南極の仕事(ツアービデオ製作)に引き続き「北極も行ければいいか」という気持ちだったようです。蓮見さんは体格ががっちりしており、いかにも体育会系というような印象でした。聞くとスキーが好きで、「カナダでスキーが出来て仕事になるものがないか」と考えて、今の仕事を始めたそうです。すでにカナダ在住19年になるそうです。

私とカメラマンの蓮見さんは、何もない雪と氷の村にいて、大場さんが北極点に到達するのを毎日待っていたわけですが、当然話題は大場さんの事。私が補給に来るようになったいきさつ、大場さんの日本での話等、いろいろ蓮見さんと話をしました。

蓮見さんの会社には社員が20人近くいて、ビデオの撮影の外にスキーツアー用のチャーター便、それからバンフで日本向けの新聞も発行し、忙しく仕事をしているのが感じられました。私との話の中で蓮見さんが気を引かれたのは次の2つのようでした。

ひとつは、なぜ私が当初2週間のスケジュールだったのを変更し、長く滞在したいと思ったのか。どうしていられるのか。これは同じ社長という仕事を持っている人々にとっては大きな疑問だろうと思います。

ふたつ目は、ちょうど河野さんチームがレゾリュートにおり、彼らが準備している事と、私が準備している内容の大きな違いでした。例えていえば、河野さんチームが近代戦なら私達は「竹やり」という程、違いがありました。河野さんチームは専用の電話回線があり、現地にコンピューターを置き、ここでアルゴスデータを取り気象情報まで入手していたのです。正直私はびっくりしました。

私が補給について知っていた知識は、ここにある大場さんの補給物資を大場さんの小アルゴスの合図があったら速やかに大場さんに届けるという事くらいでした。アルゴスデータの読み方、イーパブの機能、ペミカンとは何か、スキーのシールとは何か。ほとんどわからない事ばかりでした。

こんな中で蓮見さんは、大場さんの日記を読み、著書を読んで大場さんにのめり込んで行ったようです。4月23日の2回目の補給時には、光文社から派遣されたスチールカメラマンの鈴木君、蓮見さん、私、テリーさんの4人で飛びました。

テリーさんは私にこう言いました。「北極点まで行くチャンスはもうないかもしれない。亡くなったご主人のベーゼルさんの思い出もあるので、乗れるならぜひ一緒に行きたい。」私は答えました。「ぜひお願いします。大場さんの鼻の凍傷も心配なので、継続できるかどうか、見極めてください。それと家庭用ビデオを撮ってください。」と。

この頃ファーストエアー社のパイロットの中では、大場さんは鼻が半分なくなっているというのが評判でした。この補給の時に大場さんが歩いて補給機のところまで来られなかったのは、「鼻がなくなっているのでピックアップされてしまうからではないか」というのも後で出た話でした。

蓮見さんはこの補給時、大活躍をされました。私が大場さんとトランシーバーで交信をしていた時、補給品のドロップオフを手伝ってくれたのです。自分の撮影は飛行機からでは無理であると判断し、すぐ気持ちを切り替えて私のサポートにまわってくれたのです。この補給後蓮見さんは、私に積極的に力を貸してくれるようになりました。

今使っているFAXも蓮見さんの会社で使っているものを貸してくれたものです。ゴムボート、バッテリーなどの補給物資の調達、アルゴスデータの取得及びFAXでの転送等、たくさんの事を適切にそして迅速に手配し、彼の会社が一丸となってサポートしてくれています。本当に頼りになる蓮見さんとそのスタッフです。

予備品が何もなく、何もわからなかった私が今、まがりなりにも大場さんへの3回の補給を無事できたのは、こういった人達のバックアップがあったことを書き残しておきたくて、ペンをとりました。私はこうして大場さんの補給をすることに喜びを感じています。そして蓮見さんや三浦さんと巡り合うことができた「OHBA EXPEDITON ´97」に乾杯できる日を待ち望んでいます。

                6月10日 午後2時40分
               レゾリュートベースキャンプ 志賀

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?