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32.A Gift From IWAKI いわきからの贈り物(9)

■蔡さんと呉さんが言い争う?

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「水夫はいつもご飯を待っている・・・」と書いて
昼食を待つ我々を笑わせる蔡さん

2010. 06.10

明日はいよいよ蔡さんの個展のオープニングの日である。

「いわきからの贈り物」の写真が入った大ポスターは、美術館の壁面を覆い、ポスターもパンフレットも全ていわきの船一色である。そして新聞にも載った。

今日1日が大事だ。朝8時にホテルを出発する。いわきチーム全員がやる気満々。なんとか夕方位までに全てを仕上げたい。朝の体操もなしにすぐにできることから始める。作業しやすくするための整理整頓から、昨日搬入されたセラミックのパレットを動かして作業スペースを確保しステージ作りの準備をする。

かたづけが終わった午前9時過ぎ、ようやくいつものフランス人スタッフ2人と新人2人が現れる。武美君チームが船の内側の難しい所を担当し、私と真木さんそれに新しく来た大工らしいフランス人メンバーが船の外回りを担当。呉さんも私達に手を貸してくれる。呉さんは良く気がきいて積極的で、一緒に仕事をしていて気持ちがいい。私達の外回りを担当するチームはリズムに乗りどんどん仕事が進む。この調子なら今日中にすべてが終わりそうと思ってしまうほどのペースだ。

昼食もいつもは外へ出て、フランス流に2時間はとってしまうので、どうするか考えていると、美術館側が食べ物を用意して持って来ると言われる。まずまずのスタート。午後1時には作業をやめて昼飯を待つが、なかなか来ない。蔡さんもしびれを切らし、壁面のスケジュール表に「水夫はいつもご飯を待っている・・私も何時間も待っている」と書く。「船に乗っている人は、いつも食べることを楽しみにしていて、その時間が来るのを待っているということだが、我々全員船員と同じですね」と皆を笑わせる。そして、「夕方早く終わってイタリアにピザを食べに行きましょう」と皆の気持ちを奮い立たせるようなことを書き足す。

かなりの時間待ったあげく、届いた昼食はサラダとペットボトルの水だけ。蔡さんもあきれて、「ハンバーガーを食べたい人」と要望を聞き、マクドナルドに蔡スタジオのスタッフを買いに走らせる。時間がないので、支給されたサラダを食べる。「野菜だけ食べて働くなんて馬みたいですね」とみんなでひと笑いして直ぐに作業再開。船の外周のパネルを張る作業は、呉さんの気の利いた手伝いもあり、かなり早い。午後4時にはほとんど終わってしまう。船の内側のパネル張りは複雑でもう少し時間がかかりそうだった。

次工程の、セラミックをステージに乗せる準備だが、頼んでいたフォークリフトが来ない。午後2時に来るように頼んでいるというが、午後3時になっても午後4時になっても来ない。待っていても仕方がないので、ステージ作りが終わったメンバーは手作業でセラミックをステージに降ろすことにする。スコップとバケツでセラミックを入れていく。

午後5時になると、例のようにフランスの作業者は帰ってしまい、いわきチームだけが残る。藤田君は右手を怪我しているし、菅野さんは下痢気味、小野君は記録係のため大きなカメラを首から下げている。私と真木さん、武美君が主力だ。午後6時を過ぎると私は足腰が痛くなり、体力が堕ちてきているのがわかる。蔡さんがそれに気づいたのか、蔡スタジオの男性スタッフが応援に来る。

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船首部分にセラミックを置く呉さん

特に船首側のベニアで作ったステージの勾配がかなりきついため、セラミックをいくら入れてもこぼれ落ちて下地が見えてしまう。呉さんがその部分を一生懸命やってくれている。今日は呉さんもいわきチームと一緒にずっと作業しているのでかなり疲れているはずだ。セラミックの下のベニア板やビニールが見えなくすることが大変だ。下地が見えなくなったかなと思うと勾配が急な為にザザーッと雪崩のようにセラミックが崩れ落ちてしまう。すそのを広くすればいいのだが、セラミックの量が残り少ないためそれも難しい。呉さんは崩れ落ちたセラミックを手にとって又上に上げる作業を何度も何度もやり直して、最後はセラミックにガムテープをつけその粘りで落ちないような工夫まで始めていた。

そこへ蔡さんが仕上がりのチェックに現れる。蔡さんは船首部分のセラミックが滝のように落ちてくるのが希望のようだ。その部分へ蔡さんが観音様を投げ入れる。その瞬間またザザーッと音をたててセラミックが流れ落ちる。すると隣にいた呉さんが「何をするのよ」と語気を強めて蔡さんの行動に抗議する。

蔡さんは「今日崩れるのは明日になっても崩れるから、先に崩したほうがいい」と言いながら足下のセラミックを少し崩す。呉さんが「何時間もやったのに一体どういうつもりなの!」とさらに言う。蔡さんはそれに対し、「私の作品だから思うようにしてもいいだろう」というような感じで返答。

かなり緊迫した感じが伝わってくる。二人の顔を見る事ができず、脇で佇むしかない。すると呉さんが「それなら自分でやったらいいでしょう」と反論。蔡さんも「わかったよ自分でやる」と言う。呉さんは目に涙を浮かべている。全てを理解していながらも、朝からの作業の疲れとなかなか進まない最後の仕上げからくるイライラが生んだエネルギーと思える。後ろを向き歩きながら右手を挙げて帰る呉さんを見る蔡さんの背中が、ちょっとだけ寂しそうに見えた。

20年近くになる蔡さん家族との付き合いの中で見た初めての言い合いに、なぜかホッとした。お互い好きなように言い合えるのはすばらしい!!

こうして夜10時には全て終わった。今回の展示のポイントは、観音様が集まって雪崩のように落ちている。蔡さんが「今回もよくまとまりましたね。これまでで一番いいですね。」といわきチームに労いの言葉をかけてくれる。全員「やったー」という気持ちを感じながら、イタリアのピザではなかったが、すでに用意されているという夕食会場に向かった。

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ステージを作る呉さん(中央)と私(左手前)、真木さん(右)

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 バケツリレーでセラミックを積み上げる

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