映画「東京リベンジャーズ」の脚本力がすごかった件

※結構細かいところまでネタバレをしますので、映画を観た方用。基本的に好意的な感想です。当方、原作漫画ファンかつ山田裕貴ファン。アニメは観ていません。(録画はしてる)

とにかく脚本が上手い!!と唸った。
原作ファンなので、当然、エマちゃんが出ない、とかぺーやんの存在が消されているとか、半間の出番をなぜ全部長内が持ってくの!!??とか言い出したらキリのないところはありますが、それにしてもそれが実写映画にする上で必要不可欠だったことは分かるので納得出来てしまう。無意味な決断じゃない。
とにかく、二時間という尺の制約の中で、ストーリーを分かりやすくまとめないといけなかった。謎がある程度解け、一つの危機を乗り越える、というカタルシスがなければ作品として駄作になるのは目に見えている。長期連載でも2クールアニメでもない、ヒットしなければ続編もない単発映画の制約です。そしてその制約があるからこその面白さもある。
原作の序盤のクライマックスは、間違いなく「ドラケンの死を回避する」というメビウス抗争です。これは本当に最序盤でありながら原作ファンの間でも今でも人気の高いエピソードですし、私自身、このエピソードで泣きまくってその後も原作買い続けることを決めました。ここを映画のクライマックスにしたい、というのはすごくよく分かる。私でもそうするし、他のどの脚本家が書いてもそうすると思います。でも、原作だと漫画4巻分。結構なボリュームです。何を削って何を残すか、制作側はきっと相当頭を悩ませたのではないでしょうか。

・タケミチの序盤の成長
・(最初は顔さえ思い出せなかった)ヒナタを、絶対に死なせないとタケミチに決意させるだけの魅力的な少女に描くこと
・タケミチと仲間達との絆
・このエピソードのキーバーソンであるドラケンとマイキーを魅力的に描くこと
・令和の「クローズ」を目指して見応えのあるアクションを見せること

とにかく最優先でクリアーしなければいけないのはここです。
タケミチの成長譚としては原作から用意された素材が本当に素晴らしいので、よっぽどダメな役者を連れてこない限りは大丈夫です。北村さんの演技も本当に素晴らしかった。目の死んでる無気力なフリーターが過去のヤンキー時代に戻って(今の感覚からするとダサいファッションに)悶絶したりヤンキー特有の全能感に酔って調子に乗ったりする様が本当にリアルで、その後の大切な感情を思い出していって目に決意の火が灯るあたりなんかゾクゾクするような名演でした。

で、次にヒナタちゃんなのですが、今田さんが女の私でもキュンキュンするくらい可愛らしかったし芯の強さが伝わってくる素晴らしい目力の演技だったということはとりあえず置いておいて。彼女との恋を視聴者にしっかり刻み込む為には、こう書いてはなんですがエマちゃんを出さなかったのは正解だったんですよね。
エマちゃんとの出会いが出会いで、タケミチをヒナちゃん以外にもデレデレした顔を見せる男、にしてしまうと、男性ファンの共感は得られても女性ファンからは一瞬、現実に引き戻されるというか、幻滅されてしまう。ヒナちゃんに一途である、という点もストーリーを分かりやすくする為にとても重要。ヒナちゃんを紅一点にすることも彼女を守るべき大切な命、と描写する上で効果的でした。(女は所詮添え物かよ、という批判はこの際置いておきます)
あと、ドラケンやマイキーの友情を描く際に、エマちゃんを入れると視点がブレるんですよね。じっくり描くならともかく、入れられてもほんの数分のエピソードであの距離感を描くのは難しい。
続編を作ることになったら、しっかりエマちゃんのエピソードは形を変えて入れ込んでほしいですね。そうしないと(彼女の描写が薄いと)後々に大きな破綻を来してしまうので。

エマちゃんを削除し、ペーやんを削除した映画版は、東卍の絆そのものよりも、タケミチを中心とした、タケミチ視点の友情の方に力点を置いています。これは本当に、映画化1本目の脚本として非常に正しい。原作はパーちん&ぺーやんの絆に涙したし、ぺーやんが東卍に戻るよう促されるシーンは凄い名シーンだと思っているので、なくなってしまったことは悲しい!悲しいけど、これしかなかった……という分かりみも深い。
その代わり、溝高五人衆の描かれ方が本当に素晴らしかった。力入ってるなっていうのもめちゃくちゃ伝わってきた。役者さんの小さな芝居からも、リーダーであるあっくん以外のキャラも非常に魅力的に生き生きと描かれていました。ドラケンとマイキーの真似をするとことか、ストーリー展開でいえば原作のスリム化で真っ先に削られるはずのエピソードなのに、彼らの仲の良さを描く為に削らなかった。あのバカみたいなじゃれ合いをするバカみたいな高校生時代をキラキラとした宝物のように描いているからこそ、その場の欠かせない一員であるあっくんを助ける、というタケミチの決意に繋がっている。

あっくん。
あっくん、よかったですよね……私、この映画のMVPを一人挙げろと言われたら迷わずあっくんを推します。どちゃくそに泣きました。今日までに3回観てるんですけど、3回ともあっくんのシーンで泣きました。磯村さんと北村さんの演技の空気感がとても良かったというのもありますが、脚本がとにかく、この二人に尺をギリギリまで使って丁寧に描いている。そりゃー泣きますよ。
東リベの感想ツイートパブサしてて、「主人公が顔も忘れたような過去の女一人の為に命を賭けるなんてあり得ない(説得力がない)」みたいなこと書いている人がいて、え、あの映画観て、そんな感想持てる人がいるってすごいな何観てたのかな映画中寝てた!!???って思っちゃった。いや、どういう感想を持とうが人それぞれなんだけど。ここまで丁寧に描写されていながらヒナちゃんとの恋愛(しか描かれていない)映画だと思っている人いるんだったら脚本家の人泣いちゃうな!?って。
あれだけ仲の良かった親友が、未来で主人公を殺そうとした。殺せという命令に抗えない人生を送っている。その絶望感と、人間の根っこは決して変わっていなくって、タケミチのことを今でも大切な友達だと思っていて好きでいる、というぐっちゃぐちゃの感情を、磯村さんは目や、唇の震えや、声の音で伝えてくる、その演技力に痺れました。いやぁ、名演でした。のたうち回ってあっくんの名前を呼び続けるタケミチの悲痛な声、今でも脳内で再生されます。二人とも凄かった。エグかった。(「名前を呼ぶよ」はあっくんのことでもあったよね……)
そして過去に戻って、チャリでニケツしてる二人の、あのコメディチックなシーン。号泣ですよ。何でもない、他愛のない会話。いつものジャレ合いの会話。でもそれが、タケミチに命を賭ける決心をさせた。ヒナちゃんを助ければいいんじゃない。それでミッションコンプリートだと直人は言ったけどそうじゃない。あっくんも、ドラケンも、ドラケンを喪うことで人の道を外れるマイキーも、皆を助けないとダメだと気がついて、走り出すタケミチ。あそこがこの映画の「ヘソ」だと思った。あ、今私ヘソにいる、と思った。そう思わせてくれる映画、あんまりない。ザムで言うと「MUGENは仲間を見捨てねぇ」の台詞聞いた時に感じたアレ。
私あんまり映画とかで主人公に感情移入しない、俯瞰で見るタイプの人間なのですが、このシーンはめちゃくちゃ入り込んでしまいました。一緒に走ってる気になってしまった。
(あっくんは最後でもまた泣かせてきますしね!!美味しいとこ全部持っていって、ズルいよ!!)

そして、マイキーとドラケン。まぁ、この二人に関しては吉沢亮と山田裕貴をキャスティングしたことでほぼ成功したも同然でしょ、という絶対的な信頼感のある二人ですが。脚本の取捨選択も良かった。
映画観終わってもう一回原作読み返して思ったのが、あ、あの、お子様ランチよく削ったな!!って。私だったら削る決断が出来たかどうか分かんない。それくらい魅力的で、吉沢亮と山田裕貴で観たいシーンだったじゃん!? あれを削ったことで原作ファンから非難されちゃうと思わなかった?? 人間カーペット入れるくらいならお子様ランチ入れてよって言われそうって思わなかった!!??
気の置けない親友、相棒としての空気感は、そういう原作のエピソードに頼らずに、二人の役者の醸し出す空気感にお任せしようってそういうことなんだな、と思いました。実際じわじわ伝わってきていたし。二人の仲違いと仲直りをざっくり削って大丈夫なんか!?と思ったけど、大丈夫だった。でも多分、この二人じゃなかったら大丈夫じゃなかった……(怖)

しかし。アクションについては、ちょっとだけ不満あり。
山田さんが15センチのインソールを入れて、ハイヒール状態で挑んだアクション。いや、言われても分からないくらいではあったのですが、山田さんの身体能力を考えるともっと動けたでしょドラケン、と思っちゃって。ブーツを引き摺るようなシーン、わりとあった。どっしりとした動きになってるのは確かにパワータイプのドラケンのアクションとして正解ではあるのですが、俊敏な動きが必要なところでも重心が後ろに反ったヤンキー歩きになっちゃってるのは、ああ、インソール……と思ってしまった。多分、前傾姿勢だとバランスが安定しないんだと思う。実際、インソールのせいで一部アクション演出を断念した部分がある、というのも舞台挨拶で話されていましたし。うーん、もったいない!!そのシーンだけ靴替えて演じるとかは難しかったのかなぁ……こう、映すアングルとかカット割りでなんとか……してほしかったのですが……アクション映画でアクションを犠牲にしたらアカンよ……と思ってしまうのでありますよ。
マイキーに関しては、ウィッグ、こだわったと伺いましたが、今、もう少し自然に見えるウィッグあるんで、金のかかった2.5次元舞台とかならもっといいやつ使ってそう……と思ってしまった。アクションも、ちょっとワイヤー感出過ぎてて、予告編のカポエラキックで爆笑してしまった。本編では最後の地面に埋める音が重かったので誤魔化しきいてましたが、やっぱりちょっと、コメディシーンじゃないのに面白かった。あれはマジで役者のせいじゃない。
乱闘シーンも、集団で走る暴走族同士の乱闘にしては人数少なくて、原作の屋外から屋内に舞台を変えることでその辺りを「映ってないけどいっぱいいる」風に見えるように頑張ってましたが、まずそもそも東卍の集会からして人数少なくて、こんな、学校のひとクラス分もいなさそうなチームの総長と言われましても……と思ってしまった。エキストラさん集めるのはもうちょっと頑張ってほしかった。
三ツ谷とパーちんしか幹部出せないのはまぁ、よしとして。(乱闘にしか出てこない他の幹部までそこそこちゃんとした役者連れてくる予算はないでしょ)乱戦を乱戦として迫力ある画を撮る為にはその何倍ものエキストラの人数が必要だってHiGH&LOWパイセンで学んでるんで日本アクション映画界は……

でも、溝高五人衆が助っ人に入るタイミングとか、原作と変わってるけどめちゃくちゃアツい流れになってるし、半間を表に出せない(出すとまた説明に時間かかるから謎の男、でチラ見せにしたのはアリだと思う)代わりに長内がとんでもなくタフで強い男になっちゃって、どの口がドラケンのことを化物って言うんや、化物はお前や、と観客につっこませてしまいましたが、それもまあ、ぶっ倒す敵がいっぱいいたら混乱するので話の筋が整理されて良かったと思います。マイキーとの実力差に不自然さはあれど(笑)(あんなに強いんならなんで初っ端瞬殺されとんねん、というね)

私的には、脚本最高、キャスト最高、一部衣装もう一歩、アクション演出マジ頑張って!!!
という感じでしょうか。

ネットの評判とか観ていても、原作ファン(元々ストーリーが好きな人)とキャストファンは絶賛、アクション映画として観に行った人は肩すかし、という感じのようです。
私はSF漫画としての東リベがめちゃくちゃ好きなので、あの結構入り組んだややこしい序盤のストーリーをよくここまでまとめ切ったな!!と拍手喝采でした。
でも、ハイパーアクション映画観たい欲もあるので(それは満たされなかったので)、後でHiGH&LOW観ます。
以上です。

続編も期待してます、絶対作って下さいーーー!!!

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