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公的年金の『元をとる』とは

公的年金の『元をとる』という発想。
気持ちとしてはわかるものの、現実にそれは可能なのか。そしてそれは、幸せな状態なのか。

以下、参照資料は主に、『「公的年金のしくみ」と「年金の取り方と年金の手続き」の深わかり』(服部年金企画2020年10月19日版)に依る。
年金には、国民年金(基礎年金)、厚生年金保険、共済年金等があるが、複雑になるのでこの記事では基礎年金たる国民年金について書く。

国民年金法第1条には、国民年金法の制定根拠として日本国憲法第25条(国民の生存権、国の社会保障的義務)第2項によることが宣言されている。
  第2項  国は、すべての生活部門について、社会福祉、社会保障及び公衆衛
     生の向上及び増進に努めなければならない。
(ちなみに私が一番好きな日本国憲法の条文は第25条第1項。
  すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
なのだが、昨今の世相を鑑みるに、為政者たちの脳内で勝手に
  すべて国民は最低限度の生活を送る権利を有する。
と、変換されているのではないかという疑念が拭い去れない。)

憲法は為政者を縛るもの。法律は国民を縛るもの。安易に改憲をしかも為政者の側から云々することの危うさをここでも感じる。

昭和36年に、国民年金制度が始まった頃(厚生年金保険制度は戦時中から)、月の保険料は100円ほどだったという。40年毎月保険料を納付すると、年額4万2千円の年金(月額3500円)の年金が受けられるということだった。
令和5年の国民年金保険料は月額1万6520円で、年金の年額は79万5000円。
物価スライドでの支給は国が管掌する世代間賦課方式だから可能なことだ。また、年金が積立方式だった場合には、長生きして原資を使い果たしてしまえば支給終了になる。

よく、「年金の元を取る」という言葉を聞く。それが悪いというのではない。ないが、公的年金は、元を取るという発想だけのものではないはずだ。

国民年金法第1条 国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基
        づき、老齢、障害または死亡によって国民生活の安定がそこな
        われることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国
        民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

国民年金法第3条 国民年金事業は、政府が、管掌する。

一般的に「年金」と言ってすぐに想起されるのは老齢年金だろう。平成29年8月以降は、最低10年保険料を納めていれば老齢年金を受ける権利が得られる(それより前は25年が最低資格期間だった。)満額を受け取ろうと思えば40年(480月)が必要であり、480月に満たない場合は計算式により減額される。

しかし年金には他に、障害年金、遺族年金がある。
国民年金加入は20歳からだが、それ以前に初診日がある傷病で障害の状態と認定される場合は障害年金の対象になる。20歳になって裁定請求し、認められれば年金保険料を納めていなくても障害年金を受けることができる。
また、20歳以後、老齢年金受給年齢に満たない若さで障害の状態になり、その状態が認定基準の障害の状態にあると認められれば(初診日・保険料納付・障害認定日の要件を満たしていることが大前提だが)若くても障害年金を受けることができる。

細々した要件があるので詳細を書き始めると却ってわかりにくく混乱を誘ってしまうため避けるが、他にも、遺族年金や、寡婦年金、死亡一時金(3つとも死亡にかかる給付)などがある。

「自分が納付しただけの年金保険料の元を取る」という発想を、一人一人が徹底して追求したら、これらの社会保障はどうなるのだろうか。

また、年金制度は、保険料だけで運用されているのではない。細かい条件は省くが国庫からも多額の拠出があって成り立っている。


「元を取る」。
気持ちはわからないでもないが、
公的年金制度についてはこのコストパフォーマンス的な発想はどうなのだろうかと思わずにはいられないでいる。








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