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小説: 虹ヶ丘3丁目 『青空保育園』日記③

「ユキは結構面倒見過ぎてしまうんじゃない?それで図に乗られてしまうんでしょう」
「だってねぇ。自分の子どもだけじゃなくってたくさんいる中で育つ方がいいと思って。他の親も自分の子だけじゃなくて他の子の面倒もみるもんだと思ってたのよ。それに、真幸に自分だけ良ければとか、自分の親が自分と他の子を分け隔てして当たり前とか、思わせたくなくて。ほら、お互い様とか、子どもの中で子どもは育つとか、言うでしょう?」
「う〜ん、それはそうよねぇ」
「専業主婦の子育てが近視眼的だとか、保育園に入れれば友達の中でいい子に育つとか言うじゃない。それにね」
在宅ワークのイサムくんの母親は、外に出ている時にはいつも、人に囲まれていた。話題が豊富で話が面白い彼女が、昔の子どもは大人が構わなくたって子どもたちだけで遊んでいたし、たくましく育つには大人が構いすぎるのはよくないと言えば、周りに集まった母親たちも、それはそうよねえ、とうなずくのだった。
子どもは親の一生懸命働く姿を見てお金の大切さや勤勉さを学ぶのよ、と言われれば、なるほど、と思ってしまう。元は保険会社のトップセールスレディだった彼女は、入力の在宅ワークの他にも、基礎化粧品や健康食品の販売もしていて、説得力があった。
「周りのママたちがイサムくんのママに熱い視線を注いでいる時、その人たちの子どもの面倒を見てるのは私なんだけどさ、道に飛び出すし、泣かしあいするし。それに、昔は車社会じゃなかっただろうとか、中卒でも充分社会人としてやっていけた昔のことが参考になるのかとかは、誰も言わないのよ」

そんな話をしている間に、紅茶はまた、すっかり冷めてしまった。

お昼は久しぶりにと、宅配ピザを頼んだ。受け取る時がまた、一苦労だった。配達の店員に、外の子供たちがまつわりついてきたのだ。
「あやかちゃんのお花のボタンほら見せてあげる」
「何のピザ?」
「さえちゃんたべたことある、ソーセージのピザ!」
「僕カレーとてりやきチキンのピザ!」

代金を払ってピザを持って戻ってくると、真幸の相手をしてくれていた美和子が何度目かの「大変だねえ」を言った。

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