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二義的なものを排して

なんて大層なことを口走ってみても、平生から二義的にまで至らんことしか言っちゃあいないからね。「本質的なものとしてのモラルラ・モラル・ド・レサンシエル」なる啓示的な響きに触れたのは、『M/Tと森のフシギの物語』のあとがきにあたる部分だったかな。いつ読んだんだっけ

ああ、ごめんね。この間の観る会の『笑いのカイブツ』については置いておくよ。最後の方は寝ちゃってたからね。お互い期待しすぎたってことで。ぼくなんて終始、"原石"に成りうる狂気を掴もうと気が逸っていたから、穿った見方なんて出来やするわけがないよ。そう、「人間関係不得意」は良かったね

話を戻すところがないから困ったのだけど、ここはひとつ、読み終えた本のことでも。大江健三郎の『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』なんだけれど。そうなんだ、繋げる気しかなかったよ、認める。作中の有り余るエネルギーというのかな、なんにしても純粋すぎる書き物だね。これはこの本におさめられた短編〈走れ、走りつづけよ〉の結びで

いまの僕の状態は本当に大きな勇気を発揮して獲得したものなんだからね、きみは発狂しそうに怖くても自分で自分の始末をつけなければならない!

いきなり千のパンチを浴びせられるとはこのこと。動悸が早くなるのを感じたよ。まるで一方的に共犯関係を結ばれたような、ある種の快感だね。他の作品に目を通してみても、四国の森や血縁関係等々、共通したモチーフが一冊にわたって執拗に出てくるの。おさめられた幾篇が地下で繋がっているようなイメージかな

自伝的要素は目の届かないところを流れる血管で、その心臓部が紛うことなき作家自身?なんて考えたよ。そんなものがあるのかは分からないけど、正真正銘の小説ってさ、『われらの一』のようなものを指すんだろうね

己との絶え間なき対面の先に、この一冊を貫徹する強固な"原石"があるのだとしたら、君はどうする?その勇気は?少なくとも「反躬自省不得意」なんて言ってらんないと思うけれど



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