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とりとめなき53

亡ぶゆえ花は美しく、記憶をもたぬゆえ春は新しいが、カンヴァスの花はその変わらぬ姿のなかに思想を封印している。消えるゆえ雪は清く、過去をもたぬ反復ゆえ冬は倦むことを知らぬが、描写された雪は消えることのない記憶を保存する。

〈記憶について〉上田三四二

桜が咲いている。ちょうど六年ほど前、大学進学に際してこのまちを訪れた際にも、至る所で、それは綺麗に花開いていた。自転車に跨って、上賀茂の辺りの川沿いを、小路を、ひとり走っていたものだ。平野の桜に包まれたのは、あれはその一年後のこと。きょう、昼前に西大路からチラリと境内を覗いたが、その淡いピンクの塊に埋め尽くされた空間は、イルミネエションのごとく人工的に見えた。久しぶりに鳥居を潜って、根元に座り込みたいだとか何だとか。もう一年進めると、これは就活の時期で、今度は賀茂の河原で酔いどれた。友人と二人して無理をした。目が醒めると土の上、並んで横になっていた。濡れた服の不快感と肩を組んで、裸足で家に帰ったのだ。それからまた季節が巡り、入社年は大阪に移っていた。初めての休みに、恭仁京跡へ出掛けた。侘しくも、気品ある桜の木。浮き足立った、その地面との隙間を埋める。雑多の一部へと消え行く愉楽。悠々自適、ウィーケンドへと堕ちてゆく。断絶された、その向こうで─

寝ておった!

大阪
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壬生

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