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好きこそ浄福の第一歩

きのうのこと。

目が覚めたのは針が五時を指そうかという頃合で、飲み残しの日本酒がツンと鼻を刺した。外はまだ暗い。暖房も炬燵も働きっぱなしだったようで、部屋はちと温すぎる。寝起きの気怠さは便所の冷気へと溶けゆき、ゆうべ観た『テルマ&ルイーズ』がふと脳裏を掠めた。微睡みの中、眼に写った跳躍。少なくとも再び横になる気にはならんかった。

傍にあった『眞晝の海への旅』を開く。漕ぎ出したらば止まらぬ。日常を告げるアラームと時を同じくして、物語は幕を閉じた。ワイシャツに袖を通していたら眞晝まひるという文字に虚しそうな目を向けられたものだから、分かった気になるなと応えてやった。君らも差し詰めインテリの戯れでしかないでしょう、と。

「つまり(えーむ)人間は薄暮れに飛ぶ梟どったが、それじゃいけないってことをね」
「何ならいいと思ったんだい?」
「それは、君、もう言う必要はないんじゃないか。〈眞晝を高く飛翔する鷲〉だよ。人間は〈眞晝〉のなかに高らかに生きる鷲でなければならないんだ。(えーむ)薄汚い一切の所有から離れ去ってね・・・・・・」

辻邦生『眞晝の海への旅』

寝ていた。

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