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2014/04 第90号「仏事の食事〝お斎〟」

 佐久地域では、仏事の時の食事を〝灰寄〟と、独特な言い方が広まっていますが、全国的には〝お斎〟と言われています。この『斎』の謂われは諸説あるようですが、『斉』という字にならって「凸凹が無く等しくそろっている。そろえる。ととのえる。」と言った意味があり、故人を縁に集まったものが、等しく同じ食事を頂き、同じ身となり血となることであると聞いたことがあります。
 話しは変わりますが、先月で終わったNHKの朝ドラは「ごちそうさん」と言います。毎日観るのは大変ですが、このドラマは最初からはまって録画もしながら欠かさずに観ました。
 内容は、先の大戦前から始まり、戦中、戦後と激動の世を生きた女性が主人公で、渡辺謙の娘の杏さんが演じていました。とにかく自分が食べることはもとより、人にも美味しいものを作って「ごちそうさん」という笑顔をみることが大好きな女性です。食を通して様々な事を考えさせられるドラマで、なかでも随所に出てくる「見えないものによって生かされている」という台詞は仏教に通ずるところがあり惹かれました。
 その中でも特に印象的だったシーンは、母として戦死した次男のお葬式をする場面でした。母に似て、食べることや料理を作ることが好きな次男は、海軍の船中のコックになろうと自ら兵に志願し出兵しますが、後に戦死の知らせが母のもとに届きます。出兵を反対しておけばという後悔と、いつか帰ってくるのではという思いの中で、なかなか子供のお葬式が出来ずにいたところへ子供の遺品が届きます。それは、夢の中に出てきた自分が好きな食べ物が沢山書かれたノートでした。それを機に、子供のお葬式をしようと決意します。
 それは、お骨などあるわけでもなく、家族など縁者が一同に食卓に会し、ノートに書かれた好きな料理ばかりを並べて、ともにいただくという質素なものでした。それは戦後の食糧難のなかでは精一杯の事でした。食事をしながら、「おかげで、こんなご馳走いただけて本当に幸せ…」といった台詞がありました。まさに〝お斎〟そのものです。
 〝お斎〟とは、単に飲食をして労う会などではありません。故人はもとより、あらゆる方々のおかげによってご馳走をいただけていることに感謝し、見えないものによって生かされていることにあらためて気付かされる集まりが〝お斎〟なのでしょう。

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